ここからは完全18禁ですので、年齢に満たない方はご遠慮下さい。
― 変わらぬもの ―
( 4 )
「そろそろ休憩しようか。ひと段落ついたし。」
「うん。お茶を煎れるね。」
「あ、カップ、見つかった?」
「大丈夫。キッチンの箱はほとんど開いてる。」
「お茶は俺が煎れるよ。それよりお前、ほっぺも手も汚れてる。髪も誇りっぽいだろ。今、さっとシャワー浴びて来いよ。」
「え、それは悪いよ。君だってさっぱりしたいだろう?」
「んじゃ、一緒に入る?」
「ば、ばか…窮屈だ!」
「ええ?俺さ、ここ決める時のポイントの一つが風呂場の広さだったんだけど…この手のマンションにしちゃ広かったじゃん?洗い場もバスタブもさ。」
「君って何を基準に部屋を選んでるんだ、全く…。鍵の掛けられる浴室で良かったよ!」
わざと足音を立てて部屋を出て行く僕の背後で、進藤の明るい笑い声が響いた。ついでに風呂場に足りないものがあったら、チェックしといて、と。やたら実務的なことまで言われた。
そうだった。使い古しは新居にどうだろうかということで、風呂場関係のものはお互い一切置いて来た。
脱衣所に入ると、鏡の前にはプラスチックコップ。歯ブラシ。整髪料。そんなものがランダムに置かれているのが目に入った。
妙な感じがする……
進藤のワンルームに入り浸るようになってからは確かに僕の私物も増えたが、それはどこかよそよそしい光景だった。
今日からは違う――ここが僕の住む場所。進藤と共に生きていく覚悟を決めた、その証。
進藤と僕の、日常的に使っていたものが混在するその空間で、僕は甘酸っぱい様な浮き立つ様な、不思議な感覚を噛み締めていた。
新しいタオルを下ろそう。家から進物を持って来ていたからそれを出せばいい。それぞれの荷物とは別に共有空間で使うものは、手持ちに加えて少しずつ揃えていくことになるんだろう。
共に暮らして行くのだという実感がじわじわと湧き上がり、胸をいっぱいに満たす……
それが僕には素直に嬉しかった。
これから襲って来るだろう困難など愛情さえあればどうにでもなるだろうと、楽天的に信じていられたからかもしれない。
少なくとも恋人同士になってからの僕らは、お互いに夢中だったということもあるかもしれないが、順風満帆だった。
「お、もう上がったん?早かったな。コーヒーにしたけど良かった?」
「うん、まだ陽も高いし、さっと浴びるだけにしたよ。」
進藤が折角煎れてくれたのだから、出来立てを飲みたい。僕は急いで髪だけを乾かすと、バスローブのままでキッチンのテーブルについた。
「何か…新鮮だな。俺んち以外でそんな格好のお前見るの、初めてだし…。」
「ジロジロ見るな…。」
「え?いいじゃん。誰もいないし。俺がいくらお前のこと熱い目で見詰めてたって、ぜ〜んぜん問題なし。」
「あるよ。僕が困る。」
「あれ?どういうこと?まさか…こういう気分になっちゃうってこと…。」
進藤の指がすーっと伸びて、僕の首筋に触れた。鎖骨を押すようにしてなぞると、バスローブの合わせ目まで降りて来る。
指を鍵型に曲げてそこに引っ掛けると、一呼吸置いて僕を見た。
僕もその視線を受け、軽く睨み返す。
「その目が、イイんだよな…。」
あからさまに欲しいという顔もいいけど、簡単に手を触れるな、酷い目に遭うぞ……と、威嚇されるようなその目にゾクゾクするんだ――
言うが早いか、合わせ目に掛かっていた指先がグイ……と、力いっぱい引かれた。
あ、と思う間も無く、広げられた胸元から広い手が忍び込んで来る。真っ直ぐに敏感な尖りに行き着き、ザラリ……と、撫で回された。
突然の刺激だというのに、もう僕の体は信号を受け取った。今から、甘く痺れるような感覚が全身に向かって押し寄せて来るという、その合図だ。
「こら…っ…まだ、夕方だぞ?」
「なんで?俺、ずっとしたかった…まだ整ってない部屋でするの
も燃えそうじゃん?」
「勿体ないだろう。今そういうことになったら、今日はもう大したことは出来そうもない。」
「うあ、何気にエッチ〜、そんな激しくいたそうって、そういうつもり?俺にはさ、かる〜くお触り程度でも十分刺激的なんだけど?」
おどけた口調に似つかわしくない手の動きだった。
大きくなった手の平が、僕の胸を包む様にしてゆっくりと撫でた。息が詰まる。顎が引ける。
……軽くどころか、十分いやらしいじゃないか。
僕はその手首を握ると、イタズラを続ける進藤の手を引き摺り出した。
彼はまるで叱られる子供みたいに拗ねた目をして、僕を掬い上げるように見上げて来る。
「こういうところから手を入れるということ自体、君はオヤジ臭くなったなぁ。」
「だって我慢出来ない。どうして我慢しなきゃいけない?」
「節操がないのは嫌だ。引越し前にも言ってただろう?寝るのはお互いの部屋で。そういうこともお互いのスケジュールを考えた上でって。」
「でも夜しか駄目なんて――決めてない。」
「それは…そういう話自体、僕は苦手だし…言葉にしてしまったら余りにも味気ないから…。」
恋人になってからの進藤は、以前よりも細やかに思いやり深くなったと思うけれど、ただ抱き合うことに関しては、こんな情熱があったのか、こんな嗜好があったのかと、僕が軽い驚きを感じる場面もなきにしもあらずだった。
それまでは知らなかった――進藤の中に、生々しい情熱があることを。表面の明るさとは異質のもっと根深く、そして真っ直ぐに向かって来る、澱むこのとない情熱だ。
だから。共に暮らしたら、そういう方面では制御が利かないのではないかとの、多少の危惧もあった。
しかしそれを言葉にして、君は節操がなくなるんじゃないかと心配なんだと言ってしまうのは憚られた。
そういうのは「無粋」――というのじゃないだろうか。
約束事やルールを決めて、それによって二人の生活を守ることはある程度は必要かもしれない。でもそれは、もっと生活面における機能的な場面に関して、だ。
メンタルが大きな要因となる出来事のあれこれに関しては、言葉で縛ることは出来ない。そんなに簡単ではない。
上手く言えないけれど――そして言えないからこそ、敢えて口にせずにいた。
実際、暮らし始めてみなければわからないことだらけだ。
僕が進藤の一人暮らしの部屋に恋人として頻繁に通うようになってからまだ半年にも満たないし、彼の全てがわかっていると思うこと自体、僭越ではないか。
言葉で縛る前に、まずは手探りながらも二人のやり方で暮らしを作って行こうと、僕なりにぼんやりと思っていたのだ。
「確かに…意外だった、俺も…お前って、これとこれは駄目、ここまではいいけど、ここから先は駄目…みたいにキッチリ俺に要求するのかと思ってたから…。」
進藤が、さっきまで僕にイタズラをしてた手を引っ込め、再びカップに戻した。
僕もさり気なく前をかき合わせ、コーヒーをいただく。
……あ、美味しい。進藤の煎れてくれたコーヒーはいつも丁寧に出されていて、味が良かった。
進藤はこんな風に日常を丁寧に生きることも出来る人なのだと、そういうことからも彼の知られざる一面が垣間見える。
僕は一息ついてから、彼を見て言った。
「僕らがただの友人で同居人で、これがルームシェアだったら、最初に契約的なことを交わすのもいい方法かもしれないが…。」
「うん…でも?」
「でも、そうじゃないだろう?…僕らが一緒に暮らすってことは一生を視野において…だ。」
「ああ、そうだな…キチキチ決めるのってな〜んか違うよな、俺たちには。だってさ、これって同居じゃなくて結婚を前提とした同棲だもんなあ?」
ズバリ言われて面食らったが、ああ、そう言えばいいのか、結局そういうことなのかとしっくりと来た。
しかし同時に、言葉の重みを意識すればするほど今度は照れ臭くなる。頷きはしたものの、何と答えたものか……僕は口ごもってしまった。
どんなに好きな相手でも……いや、好きだからこそ、何でも話し合っているというものでもない。
言わないままに感じて思い遣る――そういう関係こそ大切だと思う。時間を共にする中で、自然な形で新しく築いていく関係もあると――
そんなことを噛み締めながら俯いていたら、進藤が明るい声を上げた。
「よっしゃ!もうひと頑張りすっか。俺も気持ちをスパッと切り替えるわ。明日も休みだから今日は焦らなくてもいいと思ってたけどさ、今日頑張った分は明日、楽チン出来るんだし。」
それに、夜までずっと一緒なんだもんな……焦らなくてもお前は逃げない……逃がさないもん…………
片目を瞑って見せる彼も、実は少しばかり照れているのかもしれないと、くすぐったい気持ちになった。
それから進藤は、殆ど飲み干した僕のカップを覗き込んで、もう一杯?と尋ねてくれた。
首を振ると、柔らかい表情でわかったと頷く。そっと僕の手からそれを抜き取り、二人分のカップを流しへと運んだ。
こういうことは、一人では要らない心遣いだ。
でも二人だったら、自分と相手の分のコーヒーを煎れ、カップも片付ける。
彼の自然な振る舞いが心に染みて、僕は何だかいてもたってもいられない気分になった。
僕が僕なりに彼に対する気持ちの深さを示すと、それを上回る誠意が帰って来る。付き合う前からそういう片鱗はあったのだろうが、共に生きると意識してからはますます……
僕の中に沸き起こった強い感情は、いつも僕の体を突き動かす。
自分で自分に驚くという経験を、進藤を愛してから一体何度しただろう――
「…ん、あぁ?…塔矢?」
「黙って…。」
流しで軽くカップを洗い終えた進藤は、濡れた手をタオルで拭いてるところだった。
その背中にそっと寄り添う。手はどうしようかと少しだけ迷った後、彼の肩の辺りに乗せた。
フワリ……と、彼の体臭が鼻腔に入り込んで来た。シャワーを浴びた僕と違い、彼は引越しによる汗と誇りにまみれた体のままなのだ。
でもその体臭こそが、僕の背中を押した。
もっと。もっとこの臭いを嗅いでいたい。この臭いに包まれて、本能のままに声をあげたい。
――体の中心が熱くなる。想像だけでここまで人は体を熱くさせてしまうのだと、碁のこと以外で実感したのは進藤との交わり故だった。
「どした?」
「ん…こうしたくなった…。」
「し、したくったって…お前〜、これはないんじゃないの?俺がどんなに頑張って気持ち切り替えたと思ってんだよ〜。」
「ご免…。」
「や、やぁ…謝まられるようなことじゃねーけど…でも、もう知らねーぜ?」
「うん…………あっ!」
あっと言う間に体を捻った進藤に抱きこまれ、今度は逆に僕の方が流しの淵に押し付けられた。
後ろから張り付かれる格好になり、不安定な上体を進藤に引き寄せられた。見ようによっては、羽交い絞めにされているようでもある。
抗議の声を挙げる間もなく、彼の手がローブの合わせ目を探った。一度直した筈のそこは呆気なく乱され、彼の手を深く招き入れる。
「ん、ぁ…っふ…ここで?」
「うん、ここで…ちょっとイタズラさせて…気が済むまで…。」
「これじゃ…僕が何も出来な…い…っ!」
「じゃあココんとこ、掴まって。好きに触っていいから。」
進藤の片手に導かれ、僕の手は後ろ向きに伸びをするような状態で彼の頭に置かれた。
反射的に彼の髪に指を差し入れた僕は、軽く引くようにしてみた。それから優しく、甘く、かき混ぜる……
「あ、それイイ…お前の指にぐしゃぐしゃにされると…めちゃくちゃ感じる…。」
うなじの上で囁かれる。彼が本当に感じているのは、その息の熱さと湿り気で十分伝わった。
ゆっくりと、紐を解かれた。せわしなくそうされるよりも、ずっと官能的な動きだった。
楽になった前から更に奥深く入り込み、自由に暴れる進藤の手を感じながら、僕は肘を高く掲げ限界まで胸を反らせた。
こうすると、一層感じる……
進藤の片手は僕の胸を包むように愛撫し、時には頂きを摘んだりした。
もう片方の手は、下の茂みをいやらしくかき混ぜる。
やがてそのものズバリに触れて、根元からじわじわとしごくように、伸ばすように――触られた。
最初の頃は、こんな風にされるのがたまらなく恥ずかしかった。まるで、同じ男の体なのだということを――同じ感じ方をするのだということを――じっくりと確かめ、味わうようなやり方は、どこか卑怯だと思わないでもなかった。
僕に羞恥を感じさせたいのか?男のくせに男に愛されて悦んでいるのだと、実感させたいのか?
しかし、そんな僕の困惑を知ってか知らずか、必死で僕を愛してくれる彼を感じるたびに卑屈な考えは次第に薄れた。
進藤も、僕と結ばれるまで経験がなかった。
僕もそうだった。
二人は互いの好意を薄々感じながらも、なかなか踏み出さずにいる間に、世間一般からは遅い初体験になった。
女性と比べる要素がないからこそ、彼は最初から真っ直ぐに男である僕の体だけを見て、その反応を己の体で逐一感じ取り、大切にもしてれくれた。
僕を愛してくれている。
男だとか女だとか関係なく、僕が僕だからこそ全身全霊で愛してくれるのだと、僕にもわかって来たのだ――
じわじわと弄られる下半身の熱は、彼の手の中で硬度を増しながら膨らんだ。
腰の辺りに感じる彼のものも、人の体の一部とは思えないほどに硬くなり僕を押した。
そして、濡れる……
先端から噴き出したものが幹を伝うのを感じ、同時に進藤自身も濡れそぼっていることが、バスローブの生地が冷たくなったことでもわかった。
「これ、汚してもいいの…それとも脱ぐ?」
「…や、ぁ…脱ぐのは、ここで、は…。」
進藤がバスローブのことを訊いているのはわかったが、それを汚すことよりも、キッチンで全裸になることの方が僕にとっては遥かにいたたまれなかった。
「じゃあ…こうする…。」
進藤は手と太ももをうまく使ったのだろう。僕はバスローブの裾をたくし上げられ、下半身に冷たい空気を感じた。
胸をさすらっていた手が降りて彼と僕の体の間に上手く入り込むと、裾を持ち上げて素肌に触れて来た。
丸みを撫でるように、揉むように、柔らかく触られ、それだけで感じた。
当然、前も一層反応してしまう。
「おい、スッゲ…………こんなとこでしてても、ちゃんと勃つんだな…俺らって…。」
「馬鹿…変なこと、言う、な…。」
「ごめ…止められないや、もう…好きにさせて。」
お願い……と囁く声は遠く聞こえる――
背後の彼がとうとうしゃがみ込んでしまい、下方から僕の割れ目辺りに顔を寄せたのを感じた。内股に、熱い息がかかる。
こんな――こんな淫らなことは初めてだった。羞恥に顔が赤らむのが自分でもはっきりわかる。
膝裏を支えられ、進藤の唇が下半身、それも背後を嬲り始めた。
「あっ、ま、待てっ…そんなところ…進藤っ!」
「ロフトではいっつも暗かったし…一回やってみたかった…明るいとこで、お前の体、隅々まで見てみたくって、さ…。」
彼の両手が丸みに吸い付き、ゆっくりと左右に開いたのを感じる。受け入れる場所を裂くようにされて、眩暈がした。立っているのが辛い。息があがる。
抵抗しようと腰を後ろに突き出した時、濡れた感触に全身がはねた。進藤に舌を這わされたのだとわかって、顔が熱くなった。
「そんな…ぁ…っく…。」
「綺麗だよ、風呂入ったばかりじゃん、気にするなって。」
「ちが…そうじゃなくて…。」
「ああ、そうだな、そうじゃないよな…お前の体はどこも全部綺麗だから…ここも全然平気…可愛い…ヒクヒクしてる…。」
舌先を尖らせて力を込めたのだろう。しっかりとした質感で、進藤の舌がその周りを濡らしていく。
こんなことまでされたことはなかった。だってまさか、彼がこんなことまでしたいなんて思いもよらない。
男同士であるという生理的、本能的な戸惑いや惧れは、抱き合うたびに薄皮をはぐように無くなっていったが、それでもまだ、ここを使って体を繋げることへの抵抗感が完全に消えた訳ではない。
執拗に探られると、叫び出したいくらい恥ずかしかった。
何かを受け入れる場所じゃないのに、その奥に眠っていた快感を源を彼に探り当てられ、開かれ、彼自身を欲して招く様に中がうごめく……
これが自分の体だなんて、信じられない…………
「…そんな恥ずかしいこと、も、言うな…。」
「うん、言わない。もう、言葉じゃなくて体があるから…目の前に…。」
この体に俺の気持ちを叩きつけたいよ――
進藤の言葉に、頭の中が真っ白になるような快感が競り上がった。
思わずぎゅっ!…と、目を瞑る。全身に力が入る。手の甲に血管が浮き出るほどに、シンクの縁を強く握り締めた。
僕の緊張を感じ取ったのだろう。その手に自分の手を重ねて、進藤が伸び上がって来た。
背骨を下からなぞるように舐め上げられて、ブルブルと下肢が震えた。
進藤の指先が、ツプ……と小さな違和感を伴って入り込み、入り口周辺を探る。一番感じる場所を知っている彼は、容赦なく僕を煽った。
「風呂、入ったからかな?も、柔らかいよ…十分、や〜らかい…ほ、ら…イイ感じ…。」
「君、オヤジ臭い、な…………っ――あっ!ん、ん…。」
言葉とシンクロした指先はしばらく戯れ、僕に散々抑えた声をあげさせた後に引き抜かれた。
もう上体を保つのが辛かった。淵に掴まっていた両手はずるずると左右に滑っていき、僕は前のめりになってしまう。
「も少し、頑張って…後ろから支える、から…俺が…。」
支えるの意味は、すぐに体で知らされた――あてがわれた進藤の熱芯が、僕の中心に捻じ込まれる。
先端を埋め終えたたところで、彼は留まった。ゆるり……と腰を回転させ、さっき指で解した箇所を的確に、今度は彼の熱芯で刺激しては僕を喘がせる――なんて意地悪な体だろう。
カクカクと腰を使って浅く抜き差しされる。
入り口の皮膚は引き攣れて痛みがあるが、その奥は痛みだけではない快感に疼き、繋がった部分から甘い痺れが広がった……
「こやって…俺のくびれたトコでさ、お前の入り口んトコこすると…スゲエ、悦くねえ?」
「だから、っ…そういうことを口にする、のが、オヤジ臭いって…っ…うう…。」
「ああ、もう駄目そうだな…腕が痛いだろ?…ちょ、待って…楽にしてやる…。」
「え?…あっ!」
ガタガタと何かを動かす音が聞こえたかと思うと、いきなり後ろに引っぱられた。
一瞬――両手が浮き、脚が泳いだ。
「ああぁっ…!」
「っく!…ってえ…。」
進藤が、椅子の上に腰掛けたのだ。僕を背後から抱いたまま。……繋がったまま、で。
僕自身の重みで奥深くまで進藤を迎え入れることになり、それまでとは違う刺激が生まれる。
「スゲ…深く、入っちゃったな…イイ?塔矢、奥の方まで…感じて…る?俺だよ…俺の、だよ…お前を塞いでるの…。」
「馬鹿…ぁ、ああ…ん…余計、不安定になったじゃないか…。」
その通りだった。確かに快感はどうしようもなく膨らんだが、椅子に直接座るのではなく進藤の上に乗らされているのだから、足先はフラフラするし、圧迫された下半身も痛い。
文句を言おうと、必死で頭を捻って彼を振り返った。
そして――声に詰まった。
進藤の上気した顔や潤んだ瞳にぶつかって、もう何の文句も言えなくなる。
切羽詰った仕草で僕の頭を掴んだ進藤は、無理矢理に引き寄せては唇を寄せようとする。しかしこんな体勢では、とてもきちんと合わせることなど出来やしない。
差し出された舌先を、僕も差し出した舌先で舐めて絡めて、貪るしかなかった。
…もう、辛い……体も、心も、悲鳴をあげそうだ…………
僕は目の前のシンクにもう一度手を付き、進藤が緩く腰を使うに任せた。
ガタガタと椅子がなる。汗で手が滑りそうになる。
解放に向け、ザワザワするような快感が背骨を伝って何度も何度も這い上がり、堪えられなくなった僕は自らそこを触ろうとして、進藤の手に阻まれた。
駄目、俺がするの……と、耳元で囁かれた気もするが、はっきりとはわからない。
後ろから絡められた進藤の足が、僕のふくらはぎの下付近をなぞり、そのまま開かせていく――ますます密着する、彼の腰と僕の腰。
僕と同じように汗ばんだ手の平に強く握られ、括れを指先でなぞられ、僕自身も弾ける寸前まで昂まった。
あ、あ、あ……と突き上げられるリズムに合わせて、声が漏れる。唾液が溢れる。目に涙が滲む。
進藤の荒ぶる息も背中から聞こえて、僕の耳を――犯す。
いよいよという時だった。
――ピンポン……と、呼び鈴が鳴った。最初は現実感がなかった。実際に鳴ったのかどうか。
ただ、背後の進藤が動きを止めたので、ああ、彼も聞こえたんだなとぼんやり思っただけだ。
もう一度、鳴った。ほとんど間がなかったから、せっかちな相手かもしれない。
まさか……僕たちが家の中でしていることをわかっていて訪問している訳ではないだろうが、別の意味で心臓が駆け出したのは本当だ。
「誰だろう…。」
先に口を開いたのは進藤。震える声は、まだ最中のものだ。
「わからない…でも、誰も予定は、ない…筈…。」
「ここの鍵って、まだ誰にも渡してないもんな。不動産が急に来るってこともないだろうし…。」
「近所の人、かも…。」
「大丈夫。誰が訪ねて来たって、鍵がなきゃ入れない…平気だよ。」
「でも進藤…………うう、ん…っは!…ぁ…。」
彼が続けるつもりなのは、再開された愛撫でわかった。
「や、だ…しんど…もし、誰かが…ああ、っん…っ、っ…。」
「お前、止められるの?ここまで来て…俺は、無理…。」
手の中のものを強くしごかれて、声と一緒に顎が上がった。反り返った胸の先端で疼いていた粒も、彼の指先で摘まれたり潰されたりして、もはや快感を生み出す場所でしかない。
止まっていた腰の動きも、さっきよりも一層激しくなった。
強過ぎる刺激に目の前がチカチカするようだ。何も考えられない。理性がどこかに散らされる。意識も飛びそう……
もしも玄関ドアの向こうにいるのが、知り合いだったら。
鍵を持っている人物で、いきなり入って来られたら。
危険極まりないと頭で警鐘はなっているのに、体は止められなくて、僕らはただ目の前の快感にしがみ付き、獣のような声を上げながら共に昇り詰めた…………