― BEFORE DAWN ―
( 5 )







 棋院のドアを突き破らんばかりの勢いで、俺は外に飛び出した。
 背後に痛いほど、塔矢の気配を感じる。俺の方を見ているのか・・・だとしたら、一体どんな表情をしているんだろう?

「俺、これからデートなんで・・・。」

 出来るだけ声に何の感情も混ぜないで、口にしたつもりだった。それが上手くいったかどうかは、塔矢の反応を見ることもなく背中を向けた俺にはわかんないけど。
 今日だけは・・・今だけは、いつもみたいに塔矢を振り返ってよっ!・・・と手をあげたり、軽く笑い掛けたり、そんな無邪気なことは出来そうにないから。
 俺は、まるで何かに追わているかの様に足早に駅を目指す。






 おとといの夜、塔矢をバイクで送って以来、俺はバイクに乗っていない。今日も電車でここまで来た。
 バイクに乗るのが怖くなったなんて、自分でもちょっと可笑しいんだけどさ・・・暫くは止しておこうと思う。
 それは、おとといの晩塔矢の家から帰る途中、事故に遭いそうになったからかもしれないし、塔矢を乗せた時の感覚が、まだ俺の背中に生々しく残っていたからかもしれない。
 あの晩。塔矢が家に入ったのを確認してから、俺は重い腰を上げるようにバイクを発進させた。
 ・・・もっと、塔矢と一緒にいたかった。
 アイツが無事に家の中に入るまでそこにいて、安心したいというのは表面的なことだ。本音は、塔矢がもしかしたら俺と同じ気持ちで、一度は入りかけたのを止めて戻って来てくれるかも・・・ひょっとしたら、家に上がって行かないかと誘ってくれるかも・・・なんて淡い期待を抱いていた。
 ばっかみてえー・・・。
 この頃、塔矢と別れ際はいつも、もう少し一緒にいたいという感覚が俺を捉えて、さよならを引き延ばしていることに気付いていた。
 何を話したい訳じゃない。碁を打ちたいとか、碁の話をしたいとかでも、ない。
 ただ、塔矢と離れるその瞬間を決定出来ない。
 どこでさよならすればいいのかと、心の隅でタイミングを計っている。そして、離れがたい俺の気持ちがその瞬間をスルリと逃してしまう。
 そんなことの繰り返しで、結局最後は、塔矢の方からじゃあ・・・と言い出すのが常になっていた。
 もしかしたら、考えたくないことだけど・・・塔矢も既に、俺の態度の変化を不審に思い始めているかもしれない・・・。
 塔矢と喧嘩したお陰で、その日は久しぶりに何の躊躇いもなくアイツにさよなら出来た。
 下らないことでナニ意地張ってんだよ、アイツ!プラネタリウムくらい、一緒に観てくれたっていいじゃん?ケチ・・・なんて心で毒付きながら、図書館を後にした。
 でも、一日と俺の怒りはもたなくて・・・アイツとどうやって仲直りしようかと、そればっか考えてる自分に驚いちまった。
 ―――星を見た帰りに、アイツがはにかんだように「ありがとう」と言ってくれた時。
 俺は、凄く嬉しくて、思わず塔矢に触りたくなった。どこを、ということじゃなくて、手でも顔でもどこでもいいんだけど。ただ塔矢のもっと近くに行きたい、触れ合いたいという衝動が突き上げて来て、マジで焦った。
 男同士で、それはないだろう?
 スポーツの試合を観てる時、勝利の喜びで抱き合うなんてのはよくあるけど・・・塔矢の言葉に舞い上がって、抱き付いたり触ったりは、マズイいだろう!・・・そういう状況じゃないだろう?
 かろうじてその衝動にパンチを食らわせて押さえ込む。俺は、平静を装うことに成功した。
 バイクで俺に縋り付く塔矢の体が、行き道よりもうんと密着しているように感じたのも。別れ際に塔矢の方も何か物言いたげで優しい雰囲気だったのも。
 俺の願望がそう感じさせるんじゃないかと、自分の馬鹿さ加減に呆れるくらいだった。
 そんな風に、数時間前に遡って塔矢と俺の今夜の共有体験を思い返していたら・・・ふいに眼の前を何か巨大な影が爆風と共に駆け抜けた。一拍後にファファーン!・・・と、クラクションが鳴る。
 俺は赤信号を見逃して交差点に突っ込み、トラックに接触しそうになったのだと・・・数秒後にバイクと一緒に横倒しになった体のままで、ようやく悟った。
 走り去ったトラックの方に目をやると、赤いテールランプがフェードアウトしていくのが見えた。
 はあ・・・今思い出しても、あれは本当に危なかった!幸い、小さな交差点だったから後続車もなく、俺は命拾いをした。
 深呼吸をして、よいしょっとバイクを起こす。どこも怪我がないみたいだし、気を取り直してて発進しようとして・・・俺は、自分が震えているのに気付いた。手がぶるぶると小刻みに、自分の意思とは関係なく動くのを止められない。呆然と立ち尽くす。
 その時、今聞いたクラクションの音が耳に蘇って来た。

 ・・・ファファ――――ンンン・・・・・

 俺の全身。俺の心。全ての中で、それは反響している。

 ・・・ファファ――――ンンン・・・・・

 この警笛は、俺に向けて鳴らされたものだ。
 俺に、ここから先には行くなと警告を発している。
 塔矢アキラにこれ以上近付くな。塔矢アキラとこれ以上親しくなるな。塔矢アキラの瞳を見詰めるな・・・。
 ここから先は、行ってはいけない。ここから先は、危険地帯だ。
 もしこの世に神様がいるとしたら・・・その神様とやらが、命を脅かすことで俺に警告してくれたのだろうか。

 ・・・ファファ――――ンンン・・・・・

 その警笛は、不快というよりも切実な音を響かせ、いつまでもいつまでも俺の中から去ろうとはしなかった。






 あかりと会うことにしたのは、もう随分前のことだ。
 俺の方の用事で二度もキャンセルしたので、会うのは久しぶりと言っても良かった。家が近くてもばったりなんてことはないもんだ。
 あかりは私立の女子高に通って、宣言通り「囲碁同好会」なるものを作った。大したもんだと思うよ。
 俺も、時間のある頃は何回か指導碁に行って、女子校の雰囲気にはしゃいだりもした。でも、その内一人の女の子にモーションかけられそうになって、教えに行くのは止めた。代わりに、あかりや俺の部屋で何度か打った。
 それもこの冬、塔矢といる機会が増えてからは減っちゃったけどさ・・・。

「ヒカル!こっち!」
「おう!待たせた?」
「ううん。そうでもないよ。映画始まるからもう行こ!」

 いつも通りバイクで遠出したり、部屋で碁を打っても良かったんだけど、今回は俺の方から提案して渋谷で映画を観ることにした。キャンセル続きだったことへのお詫びの気持ちもあったけど、塔矢以外の人間とも自分は出掛けたり遊んだりして十分に楽しいんだということを、確認したかったのかもしれない。
 今にして思えば、浅はかな考えだ。
 映画を観終わって、カジュアルなイタリアンの店でパスタを食べた。ごく普通の高校生のデートっぽいことをして、自分達の町に帰る。小さい頃から一緒だったから、何を話してもくつろげるし気を遣わなくていい。
 俺の家よりあかりんちの方が駅に近い。そろそろ、じゃあと言おうかとしたら・・・。

「ヒカル、うちに寄って一局打ってくれない?」
「え?今から?んんー・・・もう九時過ぎてるけどいいの?」
「うん!大丈夫!もうすぐ高校最後の大会だし・・・ヒカルが疲れてなければ、だけど?」

 あかりが、俺を覗き込んで来た。
 髪を撫で付ける仕草に、ああ、コイツも随分女らしくなったなーと思う。幼稚園の頃なんかさ、俺のこと追いかけては泥団子投げ付けてたんだぜ?・・・とても同じヤツとは思えない。
 そう言えば、今夜は外で会ったから格好も今時の女の子風で可愛いし、ちょっとお化粧もしてるみたいだ。
 つい断り切れなくて、俺はあかりの家に久しぶりで上がり込むことになった。

「あれ?おばさん達は?」

 部屋に通され、碁盤を出すあかりに声を掛ける。足付きの碁盤を自分の金で買ったと聞いた時は驚いたもんだ。コイツが、ここまで碁が好きになっていたなんてさ。

「今夜はお父さんと二人でお芝居観に行って、食事して来るって。最近はさー、二人でカラオケ行ったりして仲がいいんだよう〜。帰りも午前様とか・・・不良中年でしょう?」

 ふふふと笑うあかりを見て、慌てた。
 あかりの姉さんは地方の大学に行って、二年前にこの家を出てしまった。・・・てことは、今この家にはあかりと俺の二人だけ?

「ささ、用意出来た!置石はこれでいい?ちょっと多いかな?久しぶりだからこのくらいかなーと思ったんだけど・・・。」
「ん?ああ、それでいいぜ。じゃあ、お前先番ね。お願いしまっす。」
「お願いします!」

 まあ一局打つだけだし、幼馴染なんだし?固く考えることはないかと、俺は対局に集中することにした。

「うわあーっ!もう、全然駄目だ!ここんとこ怠けてたから・・・高校最後の大会では、絶対いいとこまで行きたいのにぃ〜!」
「でも、結構いい読みしてたぜ?えっと、でもこの辺が甘かったかな?後はー・・・。」

 悪いかなと思ったんだけど、指導碁というよりも俺の思い通りの展開に持って行き、さっさと終わらせてしまった。
 対局中はいいんだ。でも、終わってから改めて二人きりで向き合うとソワソワしてくる。検討を終え片付けてる内に、あかりと手が触れた。
 うわあ・・・ありがちな展開だーっ!・・・と、どぎまぎしていたら・・・予想してはいたけど、あかりが体を寄せて来た。
 でも、俺には跳ね除けることが出来ない。

「ヒカル・・・今日は、ありがとう・・・。」
「うん・・・。」
「二人で出掛けたのなんて三月にバイクに乗せてもらって以来だから・・・凄く嬉しかった・・・。」

 そう。最初に俺のバイクに乗せたのは、あかりだった。丁度、俺が荒れがちだった去年の夏頃だ。
 それから何度かバイクで遠出したり、こうして碁を打ったりした。一ヶ月にせいぜい一回か二回か・・・それでもこれは、十分付き合っていると言っていいだろう。俺達の原点が幼馴染でさえなければ。
 しかも―――
 俺は一度・・・たった一度だけど・・・あかりとキスをした。
 三月のホワイトデーだった。バレンタインのお返しにとバイクで出掛け・・・花畑の中でいいムードになって、つい、触れ合うだけのキスをした。
 その頃にはかなり塔矢と親しくなってたけど、アイツと親友になりたいと意識したばかりでもあった。
 俺の中で、塔矢とあかりは全然違う場所に存在しているから、その時は、イイ雰囲気に流されてあかりとキスすることも、罪悪感を感じるべきだとは思えなかった。
 ただ、塔矢にあかりの話をする時はあくまでも幼馴染としてだ。勿論あかりにも、俺がここんとこ仕事以外の空き時間は殆ど塔矢と過ごしていることを言わない。
 俺は、ずるいことをしてたんだろう・・・。

「ヒカル・・・私、ヒカルじゃなきゃ、嫌だな。」
「え?」
「こんなことするの、ヒカルだけ・・・ヒカルは、私じゃ駄目かな?」

 あかりが座ったまま俺にもたれ掛かり、遠慮がちに俺の胸に手を当てた。俺もその肩を抱える。
心臓が、ダッシュで駆け出したのを感じた。

「私・・・ヒカルが何より碁が大事なことわかってる。だから今までだって絶対に我侭言わないでいたんだ。ヒカルのこと、大切だから。ヒカルが私のこと、彼女だと思っていないのはわかってるけど・・・でも・・・友達以上でもないのかな?まだ、ただの幼馴染のまんま?」

 あかりの温かい体と、切ない息混じりの声。恥ずかしさに伏せた睫にラメ入りのマスカラが乗っていて、それがキラキラ光ってた。
 とうとうあかりの体をそっと抱いて、ゆっくり撫で始めた。このまま流されれば、あかりと俺は付き合っていることになるだろう。ごく普通の、十七、八歳のカップルだ。
 その考えが俺の中で脹らみ、それは思っていた以上に安心感をもたらしてくれた。
 そうだ。あかりは彼女。塔矢はライバルで親友。
 この図式は、すっげーシンプルだ。
 それでいいんだ・・・俺は普通に女の子と・・・自分をずっと好きでいてくれた女の子と付き合う。付き合える。普通の十七歳の野郎として・・・。
 もうこの流れに乗って楽になってしまおうかと、あかりの唇を探した。あかりと俺のそれが触れ合って、二人とも体がビクッ・・・と揺れたけど、俺はそのまま押し付けていた。体がフワフワと浮き上がって、それなりの快感が生まれる。
 女の子の体って、当然だけど柔らかい。いい匂いもする。髪の毛もさらさらと流れてキレイだなぁ・・・。

 その時。不意に、俺は目を開けた。
 そして目の前の、俺がキスしている相手を見た。
 ・・・違う・・・これは、違う・・・これは、俺が本当に望んでいるキスじゃ、ない―――
  瞬間、フラッシュの様に塔矢の顔が閃いた。
 それは、碁盤を挟んで思いっきり俺を睨み付けて来る時の、アイツの射るような目の光にも似て、俺を責め立てる。
 ・・・君は何をしている?そんなことをして、許されると思っているのか?君は、そんな人間だったのか・・・・・
 俺はあかりの肩を掴んで、そっと二人の間に空間を作った。
 あかりの怪訝そうに見上げて来る瞳を見返すことは、身を切られる様に辛かったけど・・・逸らしてはいけなかった。

「ご免、あかり。俺、やっぱ出来ねー・・・。」
「ヒカル?私、いいんだよ。ヒカルがまだ気持ちを決められなくても、私にはヒカルしかいないから・・・今夜はいいの。」
「違う。そうじゃないんだ。体は反応しても・・・心がついて行かねえ。」

 多分、最も残酷なセリフだったろう・・・。
 あかりの顔が驚きで石のように固まったかと思うと、次には苦しそうに歪んだ。唇が震え始める。

「酷いな・・・それって、女としては見れるけど・・・でもだから好きになれる訳じゃないよって、言われてんだね。」
「ご免!本当にご免・・・俺・・・。」
「酷いよ、ヒカル。そんなこと、聞きたくなかった・・・。」
「あかり!俺、今まで随分気をもたせることばっかして・・・優柔不断で、お前の優しさに甘えて・・・本当にご免な・・・。」

 あかりが立ち上がって、俺に背中を向けた。頭が前のめりになり肩が上下し始めたけれど、もう何も出来ない。俺には出来ない。
 俺はその悲しみを慰める資格を、この世で一番持たない人間になったから・・・。






 どうやって、何を言って、あかりのうちを出たのか記憶になかった。
 外に出た時には、雨が降り始めていた。
 俺はこのまま家に戻る気になれず、雨に打たれながらフラフラと反対方向へと歩いた。
 あかりと俺が幸せな子供時代を過ごして来たこの町に、俺は今、存在してはいけないような気がする・・・。

 丁度、近くの店から出て来た女の人が、俺の目の前でジャンプ傘を開いた。真っ赤な花がポンッ!・・・と咲いたみたいで、目が釘付けになる。
 ああ・・・そう言えば佐為のヤツ、ジャンプ傘が開くのを初めて見た時めっちゃびっくりして・・・腰を抜かさんばかりだったなあ。その内慣れちゃって、ちっとも驚かなくなっちゃったっけ・・・。

 ・・・佐為・・俺さ・・・酷いよなあ・・・あかりに何てことしちまったんだろう?
 ・・・お前はあかりのこと好きだったよな?可愛いって言ってたし、碁も打ってやったし・・・。

 俺は、自分の気持ちから逃げる為にあかりの好意を利用しようとした、最低の人間だ。それを、塔矢のあの真剣な瞳で告げられた時、全てがはっきりとした。
 事実を事実として受け止めよう。どうせ、どこに逃げても逃げ切れない。もう、そういうところまで来ていたんだ。
 二日前の晩バイクで事故りそうになって、神様から警告を受けたと思ったのは、塔矢から逃げろという意味じゃない。自分の本当の気持ちから逃げるな、逃げたら誰かを傷付けるぞという意味だったんだと、はっとなった。

 ・・・佐為・・・俺さ・・・塔矢のことが好きみたいだ・・・
 友達としてじゃなくて・・・さっきあかりにしたみたいに、触ったり、抱き締めたり・・・キスしたりしたいんだ・・
 ・・・塔矢の心も体も、丸ごと全部、好きなんだ・・・

 男同士なのに俺って頭がおかしいのかな、ホモなのかなって思うと、そんな考えに蓋をしたかった。だって俺は、綺麗な女の子を見てもいいなあと思うし、エッチな雑誌で興奮もするし、普通の男だってことは間違いない。
 ああ・・・それなのに!こうしている間にも、塔矢の色んな顔が浮かんで来る。
 鈴木先生のお通夜の晩、「青い鳥」の話を興奮気味にしてくれた塔矢。
 イベントで拗ねた子供が戻って来た時、とびきりの笑顔を見せてくれた塔矢。
 二日前の晩、「この日を忘れない」と言い、俺に感謝を精一杯示してくれた塔矢。
 まずいまずいまずい、まずい・・・塔矢に対するこんな気持ちは、まずいよ・・・。

 ・・・佐為、俺はどうしたらいいんだよ?

 さっきジャンプ傘を差した女の人は、丁度俺の数歩前を歩いていた。深紅の傘が、彼女が歩くのに合わせて揺れるのをぼんやり見ていたら、俺の視界はその色に塗り潰されていった・・・。
 雨が一層激しくなる。頭からしたたる水分に邪魔されながらも、尚も見詰め続けているとその紅は、俺に「血の色」を連想させた。
 あれは、一体誰の心から流れて来る血なんだろう?
 俺にさんざん振り回されて、あげくにひどい傷を負わされたあかりの?
 塔矢を好きだと自覚して、これからどんな苦しみが待っているのかと未来に絶望している俺の?

 それとも―――

 これで俺というライバルで友達から、一方的に狂おしい目で見詰められることになった塔矢に、俺がこれから流させるかもしれない血だろうか・・・。
 雨が、俺を容赦なく打ちつけるのが心地良かった。まるで誰かにお仕置きされているみたいで、こんな醜い自分にはぴったりだ。
 もっと、もっと、激しく強く降ればいい・・・。

 ・・・佐為・・・俺・・・本当に塔矢が好きだ・・・。

 アイツを愛してる。アイツの心も体も、全てが欲しい。アイツに俺だけを見て欲しい。俺だけに応えて欲しい。
 欲望を語る言葉はいくらでも溢れて来るというのに・・・俺の気持ちは所詮塔矢アキラ本人にとっては、単なるよこしまで、忌み嫌うようなものでしかない。
 そのことが、愛を自覚した瞬間から判り切った事実であるというのが・・・めちゃくちゃ皮肉だよなぁ?

 雨が当分、いや、永遠に降り止まなければいいのに。
 世界が全て流されて無になってしまうくらい・・・俺の心が錆びて壊れてしまうくらい・・・ずっとずっと降り続けばいいのに・・・。
 俺と塔矢の間に決定的な楔が打ち込まれる、その前に・・・俺が塔矢を一方的な愛ゆえに傷つける、その前に・・・。
 世界が終わっちまえば、こんなに楽なことはねーのになぁ・・・。
 ・・・佐為・・・お前もそう思わねえ?

 全身びしょ濡れになりながら、ゴミ箱に捨てちまいたいくらい下らない想いを抱いて・・・。
 俺は雨に洗われていく夜の街を、いつまでも彷徨い続けた――――














NOVEL

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