18歳以上でない方はお帰り下さいませ!































「口さみしい…」

その日、酔っ払った塔矢は俺のマンションに来るなり服を脱ぎ始めた。

かなり飲んだらしいというのは、午前二時という時間からも想像出来る。
塔矢は基本的に強い。だから長時間飲めば、摂取したアルコールも相当な量になる筈だ。
そのことをチクリと言うと、塔矢は唇を尖らせた。

既に半裸になっている。
でも俺が用意した下着の替えやパジャマには手も触れないところを見ると…
今からヤル気なのかな?

「お酒はいっぱい飲んだけど…何だか、口さみしいんだ…。」

「口さみしい」―――?
それってこういう時に使う言葉…なんかなあ…

とかなんとか思いながらも、俺は塔矢の尖った形のいい顎を人差し指で掬い上げるようにして俺の方を向かせた。

「口さみしい?へえ?…じゃあ俺の、舐める?好きなだけしゃぶっていいぜ〜。」
「うん…。」
「…は?」
「君の、欲しい…僕の口、に…。」

そして塔矢は半開きにした唇から、赤い舌を少しだけ突き出して見せた。

「ちょ、ちょっと待てって…っ…そういう意味で―――いいの?」
「そういう意味だよ…最初っから。…君の、舐めたかった…頬張りたかった…。」

ひーっ、マジ!?
お前、一体どこでそういうや〜らしい言い回し、覚えたんだよ?

慌ててる俺に構わず、塔矢は浅い呼吸を繰り返しながら俺のパジャマのズボンに手を掛けた。

「わぁ…君んちの石鹸の匂いがする…綺麗にしたんだな…体…。」

ズボンのゴムを伸ばすようにして、塔矢がウエスト部分から手を入れて来た。
塔矢にしては行儀の悪い、でも、見るものにとってはめちゃくちゃドキドキする卑猥な光景。
―――あの塔矢アキラが俺のズボンの中に手ェ、突っ込んでるんだぜ!

ズボンと下着を中途半端に下げれば、確かにそこから俺の体温に温められた石鹸の匂いが立ち昇った。
同時にプリンと飛び出したものを、塔矢はその手の平で受け止める。

「可愛いな、まだ…でもこれがすぐに大きくなるんだ…あっという間に…。」
「だだだだってしょうがないだろっ、若いんだから…触ってるの、お、お前なんだから…。」

ふふふ…と鼻で笑う塔矢は目尻がほんのり桜色に染まってて、ソッチこそ可愛いじゃんか!

―――大体、男の酔っ払いなんて最低なもんだ。
息は酒臭いし、目はトロ〜ンとしてシマリがないし、頬は真っ赤だし、呂律は回んないし。

だけど塔矢は違う。全然、違う。
いつもは引き締まった唇がちょっとだけだらしなく開かれて、その唇が俺のものを含む。
唇をすぼめる仕草がそのまま俺のものをしごく動作になり、絹糸のような黒髪が額や頬に汗で張り付くまで、顎が疲れて唾液を飲み込み切れなくなるまで、必死で上下させてくれる。

あああ…も、駄目!
想像するだけで頭、真っ白になる。
…声、あげそう。

気付けばベッド脇に腰掛けた俺の股間に視線を注ぎ、床に座り込んだ状態の塔矢がいる。

俺は自分から腰を浮かせて促し、塔矢に全部脱がせてもらった。
すると塔矢は俺のものを愛しげに包んだまま、そのグロテスクな先っちょを綺麗な鼻の頭で突っついて来た。

「あっ!…お、い…塔矢…そ、そういうのは…っう…。」
「くすぐったい?ついついしたくなった。まだ可愛いから。口でしたらすぐに大きくなって…僕の方が苦しくなる…。」
「フェラするのって…そんなに?キツイ?」
「ん…だって君の…大きい…。」
「え、え、ええっ…そっかな?俺のって、そこまで?」
「うん、大きいよ…歯を立てないようにするの、苦労するんだ…暴れないでって思うけど、君のは言うことなんかきかないから…お構いなしに、僕を苛める…。」
「おっ、お前―――誰かと比べてんの?誰と?おい、答えろよ!」

思わずカッとなって塔矢の髪を引いた。

アッ、シマッタ!…と思ったけど、もう遅い。
眉間にシワを寄せて仰け反った塔矢の、その白い咽喉が目の前にさらされる。

一気に感じた俺は、その咽喉を追い掛けるようにして股間を塔矢の首筋に押し当てた。
固くなり始めた俺のものが、生き物みたいに塔矢の肌を這い昇りながら膨らんで行くのが見えた。

塔矢の細い、しなやかな十本の指が俺のものに絡みつく。
うっとりとした視線まで、俺のものに絡みつく。

もうこれ以上、僕の口が待てないって、早くしゃぶりたいって泣いて強請っているから、と。
本当に泣きそうな声で囁かれたと思ったら、すぐに含まれた。

塔矢にしては、精一杯大きく開けたんだろう。
周りの茂みを少し含むように根元まで吸い付かれ、半勃ちだったものはそれでまた一気に育った。

「ああぁっ…スッゲ!…も、これだけで…イきそ…。」

塔矢の温かい舌が、俺のものに纏わりつく。
確かにマックスまで行ったのだろうとわかったのは、既に塔矢がどんなに深く飲み込もうとしても、根元までは含めなくなってしまったからだ。

「ナンだよ?もう、苦しいの?俺の、そんなにデカイんだ。お前がこんなことするからだろ?自分がワリイんだよ…淫乱なんだよ…口さみしいからって、俺のを思い出すお前がさ…。」

いくらでも際どい言葉で攻めたくなる。
当然、俺のをいっぱいに頬張っている塔矢は反論なんて出来ない。
俺の手も、もっとしっかり咥えろとばかりにその頭を抑えてしまっている。

だけど塔矢は抵抗する素振りも見せず、素直に口を使って俺を悦ばせ始めた。

「あっ、っく…お前まさか…夜は俺の、思い出したりして…口、無意識に動かしたりしてんじゃねえだろうな…俺のおっきくする練習とか、してんじゃ………この舌、悦過ぎんだよっ!」

乱暴に叫んだ瞬間、塔矢の口の中で弾けた。
射精のリズムに合わせて跳ね上がる腰とシンクロして、頭も大きく振れた。

それを宥めるみたいに俺は背を丸めて塔矢の背中に縋り付き、手は思いっきり何かを握り締めていた…

「どうしてわかったの?僕がいつも君のコレを思い出して、口さみしいって思ってること…だから舌がね、君の形を思い出してはそれに馴染むように…口の中で無意識にうごめいていることがある…。」

人に知られたらとってもとっても恥ずかしい行為だよな…息が止まりそうなくらい。
やっぱり僕は君の言うとおり、ひどく淫乱な男なのかもしれない…

俺のをギリギリまで飲み込んでくれた塔矢は涙目になりながらも、素直に告白して来る。

それがまたどこまでも俺を煽り、夜が明けるまで塔矢の細い体を軋せ続けた俺は、塔矢を悦ばせるためだったら俺自身がいつまでも大きく、固いままで、精が尽きなければいいのにと、馬鹿なことさえ願うのだった。







大好きな某絵師さんが「ヒカルは大きい」説を唱えていらしたので(笑)当時、賛同の意味をこめて書きましたv (2010.2.1再アップ)







「もしも吹雪の中で」

テレビでさ…ドラマ、観てたんだ。北海道の雪深い町の話だ。

吹雪の中で男女が二人きりで残されるんだけど、おさまるのを待つことになって…

登場人物の一人が言う訳。

雪の中では、体が冷たくなるのを防がなくちゃいけない…
それには、裸になって肌と肌を直接くっ付けて、一つの寝袋に入るのが一番いいって。



――考えたよ…ああ、ああ、即、妄想しちまったよ!



俺さ、凄く好きなヤツがいて…でも、多分片思いなんだ…

――例えば。
何の偶然か、その相手と二人で吹雪の中に取り残される。物陰に隠れて吹雪をやり過ごそうとする。

裸になって、それこそ下着だけになって、隔てるものなんかほとんどない格好で素肌を重ねる。
…きっとこんな切羽詰った状況だし、誰も抵抗はしないよな?

互いの体に腕を回して、狭い寝袋の中でこれ以上は無理ってくらい、くっ付くんだ。





君、相当酔ってるだろう?そんな話を僕にするなんて…大丈夫か?妄想もいいけど、飲み過ぎは体に悪い。





なあ、塔矢…お前だったらどうする?
そんな状況になっちまって、平静でいられるか?

好きなヤツとお互いの体温で温め合って、ソイツの肌のどこもかしこも触れる距離で、そしてそうしても多分不自然じゃない…

命を守る為なんだから――





進藤、もうこれ以上飲むな。自力で歩けなくなるぞ。





なあなあ塔矢ぁ…俺だったらぜーーーったいに我慢出来ねえって思うんだ。

絶対抱き締めて、足も手もぐるぐる絡ませちゃって逃げられないようにして…
だ、大事なところもくっ付けちゃって…



んで………………キス、しちゃう…

もう、これが最初で最後になってもいいから、キスする…

だって、そのまま死んじゃうかもしれないんだ。
その前にソイツに触れたい…ちょっとくらい、いやらしい気持ちで触れても…許して欲しい…





ふうん…じゃあ、そんなことしておいて無事に助かったら――大変有り難いことではあるけれど、困ったことも起こるんじゃないか?





…あっ…そ、そだ…そだな…ホントだ…

ひゃ〜、考えたら怖いなぁ…それって…確かにお互い、どんな顔して会えばいいんだろ。
いや、ソイツは俺のこと軽蔑して、もう友達ですらなくなっちゃうかもしれない…



ははははは…
止めた止めた…んなこと考えてると、酔いがさめちゃうよ。折角さ、初めてお前と二人で飲んでるのになぁ?





君、本当に幸せそうに語るんだな…その相手のこと。そんなに好きなのか…





…うん…うん、好きなんだ…魂持ってかれるくらい、好き…

だから、やっぱりね…もしも…もしもそのまま雪の中で二人して息絶えても。それが俺の天命だとしても。

ソイツには気の毒だけど、俺にとってはある意味、サイッコーに幸せな最後かもしんない…





――そろそろ行こうか?





行くって…もう帰るの?

こんな話の後で…呆気なく帰ろうって…言うか?フツー…

お前って、ツレナイなぁ…はああぁ…俺、切なくなっちまうよ…

もちょっと相手してくれたって…いいじゃんか…





帰るんじゃないよ、一緒に行くんだ。君と僕、二人で。
どこにするかは決めてないけれど――少なくとも、吹雪の中じゃない。

それとも君、吹雪の中で取り残されるなんていう危機的状況に追い込まれなければ、僕と裸で抱き合う気はないのか。





…は?何、言ってんの…俺、ソートー酔ってる?
お前、今、裸とか抱き合うとか…そゆこと言ったっけ…





言ったよ、言った。…ついでだから言おうか。

僕にとっても吹雪に巻かれて一緒に死んでもいいと思えるほどの相手は、この世でたった一人しかいない。

――君だ。





塔矢…





行くのか、行かないのか。どっちだ、進藤。





ちょ、ちょっと、待って…頭がついて行かねえ…





進藤…君と最後を迎えるシーンなんて、僕だって想像したことがある。

死ぬ時まで君の傍にいられたら、一緒に打てたらどんなにいいだろうって、自分達の最後を想像しては…胸が潰れそうだった…

そんな想像、何度も何度も繰り返しして来たんだ…多分、君がするより以前から…





…本当、に?





本当だよ。

…ああ、そうだっ!寝袋の中で温め合いながら、目隠し碁というのもいいかもしれない。
君とだったら碁盤がなくたって、息絶える瞬間まで打っていられそうだ。

…君が良ければ、だけどね。



さあ、立てるか…進藤?





駄目、全然駄目だ…腰抜けちゃってるかも…あんま、驚き過ぎて…
なあ、塔矢。手、貸して。支えて。情けないけど、今はお前に縋るしかないみたいだ…



くっそ、笑うなよぉ…めっちゃ嬉しそ〜に笑いやがって…



覚えてろ。

後で、笑えないくらい激しいキスしてやるから…

俺の妄想を舐めんなよ。

今度はお前が足腰、立たなくなるかもしんないぞ。



だって。
吹雪の中で死にそうになってたってキスしたいくらい…俺、お前のこと、ずっとずっと触りたかったんだから――





― アキラサイド オマケ ―

フラフラする進藤と支え合って、店を出た。
ほんのりと花の香りがする早春の街は、まだ肌寒い。

小さな児童公園が見えて、その入り口に煌々と輝く自販機があった。
進藤はそこに向かって走り出し、僕も続く。

ああ、足がよろけてるじゃないか…真っ直ぐ歩けてもいない…全く、飲み過ぎだ…

僕の心の声が聞こえたのか、進藤が水のボトルを買ってから振り向いた。

「仕方ないじゃん!お前と飲めるって嬉しかったんだ…それに、飲んでるうちにあの話、どーしてもしたくなっちゃって…シラフじゃ無理だって…とても…。」
「いや、責めてるんじゃないよ、そうじゃなくって…心配してるんだ、君の体を…あ…。」

進藤は、ボトルの水を飲んだかと思うと、次には残った水を頭から被った。

「なっ、なにするんだっ!?進藤!?」
「ひゃ〜、ちべてえ…ううう…でも駄目だ、まだこんなんじゃ酔いはさめそうにないや。」

唖然とする僕を残して、再び進藤は駆け出した。今度は夜の公園の中に走って行く。
そして水飲み場でしゃがみ込んだかと思うと、とんでもないことを始めた。

「進藤っ!馬鹿なことするなっ、風邪引くぞっ!?」

彼はジャブジャブと顔を洗い出したのだ――公園の水道の水で!

「あんなちっこいボトル一本位じゃ全然、足りねーよ。もっともっと冷やして頭スッキリさせなきゃ…。」

言いながら、さっきのボトルに水をくんで、また頭から被る。豪快に被る。
それからブルブルと頭を振った…まるで犬が水を飛ばすみたいに。

彼から飛び散った雫が引っ掛かり、僕の頬まで濡らした。冷たい…

「どうしてそこまで…。」
「だって今からお前と抱き合うのに、酔っ払いなんて嫌だ。絶対にやだから…。お前と最初にする時は、ちゃんとしっかりしてたい…ちゃんと、抱きたい…。」
「進藤…君ってヤツは…。」

それ以上、言葉が続かなかった――

背後を誰かが通る気配がしたが、異様な雰囲気の僕らを見て警戒したのか、急いで通り過ぎる靴音が響いて…すぐに消えた。

僕は彼の髪に手を伸ばし、その濡れそぼった前髪をきゅ…と絞ってみる。
足元に、雫がしたたり落ちた。

「まるで雨に濡れた捨て犬みたいだな…ひどい格好だ…ははは…。」
「笑うなよ〜、これでも必死なんだぜ?だって…。」



――初めて見せてもらう塔矢アキラを、隅々まで見たいし…心込めて、触りたいんだもん…



唇を少し突き出し、甘えた口調で言われた。

こんな顔でこんなこと言うなんて…何だか反則みたいだ…

胸の奥が、熱い何かでぎゅうっ…と掴まれたみたいにジンジンして来る…

「ふぃ〜…ちょっとはさめた感じする…あれ、塔矢?お前も顔、赤くない?」

指摘されて、更に熱が上がった。
頭で計算した訳じゃなかったが、どうしてだか僕も水飲み場にしゃがみ込むと蛇口を勢い良く捻り…
進藤がしたのと同じことをしたのだった。

「おいっ!塔矢、お前まで付き合うことねーって!風邪引くってば!」
「案外、気持ちいいもんだな。やっぱり僕もかなり酒が回っていたのかもしれない…ふうぅ…。」
「いいってば、もうっ!二人で風邪引いたらシャレになんねえだろ?」
「ふふふ…それもそうだ。」
「お前の髪って、中途半端に濡れるとそんなんなるんだ…ちょっと新鮮かも…。」
「君だって…ほら、服までこんなに濡らしちゃって…。」

その時、進藤の体がブルリ…と震えたのがわかった――見ているこちらにまで伝染するような、震えだ。

「流石にさみいや…今度はあっため合おうか?」
「うん…どこか温かいところに行こう…。」
「あ、待って…その前に、これだけ…。」

進藤は濡れた服で僕まで濡らさないようにと気を遣ったのか、指先だけを伸ばして僕の顎を器用に掴み…

唇を重ねた…

あ、来る…と瞬間悟り、僕も動かぬままその口付けを受けた。

出会ってから長い年月の果てに辿り着いたのは、水で冷え切った唇同士の、小さな触れ合いだった――



しかし、僕はこれだけでは満足出来なかった。

これから先、きっと何度でも抱き合う機会はあるとわかっていても、人は今、この瞬間の抱擁を逃したくないと切望することがあるのだと知る。

最初は、こら、これ以上お前を冷たくしたくないと抵抗した彼も、待ち望んだ抱擁にそう長く抗える筈はなく。

やがて、せっかちなヤツ、どうして服を着替えるまで…いや、温かいところで裸になるまで待てねえの?と言うから、先にキスして来たのはどっちだと返した。

笑い声と共に、強く、深く、抱き締められて…僕は溜め息混じりの恥ずかしい声を上げさせられたのだった…



どうやら水被りのお陰で、彼の酔いはすっかりさめたらしい。

そして僕らはその夜――
二人一緒に、酒を飲むのとは違う種類の陶酔に身を投じることになった。







関東に雪が降った記念に! (2010.2.2再アップ)









「眠り王子」

棋院に立ち寄る途中の道で、進藤を見かけた。

たくさんの女性に囲まれて嬉しそうにしている。女性は誰も若く綺麗で、魅力的に見える人ばかりだ。

僕はそこに立ち尽くして、ずっと彼らを見ていた。見ているだけだった。

やがて、その中の誰かが進藤に好きです、付き合ってくださいと告白するのが聞こえ、皆がどよめいた。

進藤は満面の笑顔を見せると、頷いた。

一瞬…彼が承諾したのだろうかと、僕の心臓は凍りつく。

しかしそのすぐ後に、彼はその女性に真正面から向かい合うと、優しく言った。

「ありがと。でも俺、好きなやつがいるからご免ね。」

それを見て僕は僕は、全身の力が抜けていくほどに安堵し…

思わず彼の名前を呟き…

そしてそのまま、僕の意識は遠のいた――







「塔矢?おい、塔矢、大丈夫?」
「…え?…しん…。」
「ああぁ、良かった…お前、うなされてたぞ?大丈夫か?鍵、開いてたから勝手に入って来たらお前が唸ってる声が聞こえて…はあ、ビックリした〜。」
「…夢を見ていたのか…。」

風邪薬というものは、飲み慣れない体にはなんてよく効くのだろう。
外は春めいて来たというのに、季節外れの風邪をひいた僕は薬を飲んで横になった途端に眠りに落ち…
そして、夢を見たのだった。

進藤が心配そうに覗き込んで来る。
僕は両手で布団をズリズリと上に引き上げて、顔の半分を埋めた。照れ臭い…

それから布団に覆われたままの口をもぞもぞと動かして、訊ねてみた。

「僕…何か言ってなかった?」
「ああ、言ってた言ってた!そこは失着だ〜とか、好きじゃない形だ〜とか、あ、ふざけるなっ!…もあったっけ。」
「嘘ばっかり言うなっ!そんな夢、見てないっ!」
「あははは…バレたか…そうじゃねえ…唸ってる声は聞こえたけど、何を言ってるのかはわかんなかったぜ。」
「そうか…いや、それならいんだけど…。」
「なあ、どんな夢、見てたの?教えろよ。見舞いに来たお礼に…どう?」

決して無理強いされている訳ではないのはその口調でわかったが、僕は話したかった。

…話すことで、自分の気持ちを彼に伝えようと決めた。

僕は布団の上に横たわったまま、目の前に坐る進藤に向けて、今、見た夢の一部始終を語り出す。

途中で彼が息を飲み、体を揺らしたのを感じたが――

僕は最後まで続けた。

「…それでお前は安心したの?俺がコクった子を振ったこと…。」
「うん、凄くほっとした…断られた子が気の毒だと思うゆとりもないくらい、ほっとした…。」

そこで進藤は、姿勢を直した。
あぐらをかいていることには変わりはなかったけど、背筋を伸ばし、手を前で重ねている。
居住まいをただした、とでも言うのだろうか…何だか、今から対局でもするみたいだ。

僕は、重たい頭でぼんやりと彼を見ていた。

「…なあ、そういうこと?塔矢…俺、うぬぼれてもいいのかなぁ…。」
「うぬぼれなんかじゃない…いいんだ、君が思ったとおりで間違ってない…でも、君は驚いただろう?…さっき、話の途中で驚いたような顔をした…。」
「あ、あ?…いや、お前の気持ちは薄々わかってたし、ちゃんと言ってくれたこと、めちゃくちゃ嬉しいし…でも、そのことじゃねーんだ。」
「じゃあ…。」

そこで進藤は、片目を瞑って見せた。

「俺もお前を驚かせてやるよ。俺、ここへ来る前、ついさっき…コクられちゃったの、何度か打ったことのあるアマの女の子に…んで、ちゃんと断った。俺、好きなやつがいるから君とは付き合えないって。」
「え…まさか…。」
「まさかって思うよなぁ?俺だって、お前、夢とか言っちゃって実は本当は俺のこと盗み見てたんじゃねーかって…疑いたくなるような、スゲー偶然。でもお前はこんなんだし、絶対にそれは有り得ねえもんな。」
「信じられない…まだ、夢の続きなのか…。」

僕はのろのろと布団の中から手を伸ばし、進藤の手を取った。…無意識にそうしてしまった。
これが夢ではないということを、進藤の体に触れることで確かめたかったのかもしれない――

「お前、意識だけ俺んとこに飛んで来たのかな?胸騒ぎでもしたんじゃねえ?俺が女の子に持ってかれるんじゃないかって…体調悪い時って、マイナス思考になったりするじゃん。」
「でも、持っていかれなかった…君が誠意を持って断ってくれて…良かった…。」
「うん、それは…はぐらかそうとは思ってなかったよ。これからも誰かに聞かれたら堂々と言う。好きなやつがいるって。勿論、相手の名前は絶対に言わないけど…。」

真上から、彼のはにかんだような笑顔と柔らかい声が降って来る…

「僕もうぬぼれていいのかな?夢の中の進藤が言った好きな人も…本物の君が言う好きな人も…同じ人物でいいんだろうか…。」
「勿論…他に誰がいるってんだよ?今更、お前らしくねー気弱な言い方すんな。」

僕は静かに、進藤の手の甲に口付けた。
ぅわ、お前の唇、あったけえ…まだ熱が高いだろ、と、慌てて彼が引っ込めようとしたので、僕はそれを引き止める。
本当は唇にしたいけど、風邪をうつしたくないから…と囁いた僕の唇は、すぐに彼のそれに閉じ込められた。

「こ、らっ、うつる…。」
「ファーストキスが風邪っぴきじゃ嫌か…んじゃ、かる〜いやつだけで我慢する。ベロちゅうはお前が元気になってからな。」
「もう…。」

彼の言葉に、僕の熱は一気に上がったんじゃないかと思う。顔が熱い…

「なあ、さっきみたいに呼んで…進藤って…甘ったるい、か〜わい〜声で…。」
「え?」
「本当は聞こえてた…お前、俺の名前、鼻にかかった泣きそうな声で呼んで…そいでふう…って、色っぽい溜め息ついてた…。」
「…っ…こ、この嘘つきめっ!」

彼の手を力いっぱい握ったら、病人とは思えない馬鹿力と笑われた。
あんなに寝たのに安心したらまた眠気が襲って来て、僕は彼の手を人質のように離さずに目を閉じた。

今度はきっと…
夢も見ないような深い眠りに落ちるだろうと、幸せな予感に包まれながら――







今日は節分。何となく、不思議系の話にしたかった(意味なし) (2010.2.3再アップ)









「大人になったらこんな節分(笑)」  

「おはよう…。」
「あ、あれ、来てたんだ。…はよ。」
「うん、昨夜は忙しかったからね。朝っぱらから襲いに来た。」
「おおっ、急襲、大歓迎!こっち、来いよ。」

布団を開けて、塔矢を誘う。
ベッドの淵に腰掛けて、塔矢は微笑んだ。スプリングが軋む。

「君は襲い甲斐がないなぁ…少しは抵抗したらどうだ?」
「えーっ、塔矢、いや、やめて、そこはだめーっ…て?こんなもん?」
「それじゃますます襲いたくなくなる…情緒というものが…。」
「そら、情緒ならお前の方があるもん。俺が触ると黒髪揺らしていやいやするくせに、あっという間に体は…。」

最後まで言わせてもらえなかった。塔矢が、俺の頭を軽く小突いたからだ。
不満を表すように口を尖らせて見せると、そこにキスをくれた。

ちゅ…

粘着質な音は一瞬のことで、俺は当然物足りない。腕を掴んで強引に引っぱり込む。
わき腹から背中へと手を回し、塔矢の首筋に辿り着いたら、乱暴に指を突っ込んで襟を乱した。

「…ぁ…ん…。」

もうそれだけで、色っぽい声が漏れる。
右手で首やうなじを擦りながら、次第に胸元を広げる。
もう片方の手はわざとシャツの上から乳首を撫で、布地越しにクリリと摘んでやった。

「…っ!ここって…。」
「え?な、に…んんっ…いた、ぁ…。」

塔矢の乳首を弄んでいたら、不意にある感触を思い出した。

―――昨日のことだ。子ども囲碁教室でのイベント。

節分。豆まき。はしゃぐ声。
案外小さな豆もあるんだなぁ…
床に散らばった豆を拾うのに、指の腹で抑えてくっつけた。
その時、指先の圧力でもろく潰れたりもしたっけ…

俺は豆を摘んだ時みたいに、指の腹で押してみる。
塔矢のそこは割れることはなく、でも、押し返すこともなく、芯を主張しながらも柔らかく沈んだ…

それから思いっきり押し倒して、何かゴチャゴチャ言ってるのを無視して、シャツをはだける。
下着の上から吸うと、ジワリ…と布が濡れて肌に張り付くのがイイ感じだ。
快感と冷たさの間で塔矢が身震いしたのも、凄いキた。

「進藤…ん…なんで…っ…今日はそこ?」
「黙って。味あわせて。美味しいの。もっと。」

言う間も愛撫を止めない。散々弄りまくって、右を敏感にさせた次には勿論、左。
指と舌と。右と左と。
交互に可愛がってやる。
塔矢の胸で密かに生きている豆二つは、今や下着の向こうから紅く色づいて、はっきりと勃って―――俺を満足させた。

「後で本物の豆…。」
「まめ?」

俺に愛撫されている間、俺の髪をかき混ぜながら、足首に足首を絡ませ、悶えていた塔矢。
俺を見下ろし、不審そうに訊く。

「貰って来てある。一日遅れでまく?」

塔矢が、ああ…なるほどと、目を細めた。

「そうだね、この部屋は少し邪気をはらった方が良さそうだ。」
「ヒデエ。邪気が育つのは誰のせいだっつーの。」

深く口付ける。息が荒れる。
急いで着ているものを脱がせ合ってから、もう一度口付ける。
舌を絡ませて吸い上げる頃には、俺の胸の豆もかたくなって、塔矢のそれと擦れ合うだけで真っ白になりそうだ…

しつこく胸と胸と合わせているうちに、必然、離れたり吸い付いたりをせわしなく繰り返していた俺たちの口元からも、甘い唾液がツルツルと零れ始めた。







節分ネタはないものかとやっと探し出したのが・・・これか!(笑)(2010・2・4)








「バタフライ・キス」

「なあ、塔矢……お前バタフライキスって、知ってるか?」

「……え?何だって―――。」

「バタフライ、キ、ス。……知らないよな?」

「魚のキスと関係あるのか?それとも、蝶の方に関係あるのか?」

「さか……っぶぶっ!!くっくっくっ……い、いいや、確かに蝶は蝶なんだけど……キスは魚じゃなくて、口付けのキスだよぉ。」

進藤の口から口付けなんて言葉が飛び出して、僕はドキリとする。
キス、くらいだったらまだ全然やり過ごせる。しかし、口付けはちょっとまずい感じだ。
思わず進藤の唇を見てしまいそうになって、ぐっと堪えて視線をそれまで読んでいた詰め碁集のページに再び落とした。
うん、大丈夫……不自然ではない、筈だ。

「あのさ、俺がどういうものか教えてやるから……目、瞑って?」

「ええぇーっ!?教えるって、進藤……ちょ、っと待って。」



―――僕の部屋で碁を打った後、暫くくつろいでいた時のことだ。
進藤は炭酸を持参しており、僕にはアイスティーの缶をお土産と称してくれた。それを、対局の興奮を鎮めるように口にしていたら。

進藤が僕に唐突に投げ掛けた言葉は、何かの呪文のようで面食らってしまう。
しかも『キス』……『口付け』……『俺が』『教えてやる』…………更には進藤の顔が僕の顔に近付いて来るからたまったものじゃない!!
肩を掴まれて、間近で見詰められながら、ほら、目ぇ閉じれよと優しく命令されて。
反射的に目を瞑った僕の頬に、一瞬の間があってから―――何かが触れる感触がのった。



―――何だ?これ……くすぐったい……でも、凄く密かで、軽くて……何か羽のようなもので撫でられているような感じだ…………。

唇ではない。そんな温もりのある体の一部では、ない。
んー、もっと……もっと、小さな部分だ。
でも、でも、一体どこで?……何かモノでも使っているのか?

それに加えて、進藤の息遣いだとか体温だとかがごく近くに迫っていて、どうにもこうにも落ち着かない。



「んふふっ……お前くすぐったそうっ!な、どんな感じがした?どこでキスしたと思った?」

進藤の声が明るく弾けて、僕の目を開けさせた。
彼の顔を見ると、愉快でたまらないとワクワクしている様子がありありと感じられた。

「わからないよ……一体今、何をしたんだ、僕に……。」

まさか、気が付いてからかっているのか?僕の気持ちを―――おもちゃにして弄んでいるのか?

「あのな、実は今さ、ここ使ってお前のほっぺにキスしたのっ!!」

そう言って。
進藤の指が示した先には、進藤の右目があった。僕を真っ直ぐに見ている、その目だ。
キラキラした大きな瞳に、僕が、僕だけが映っている……。

「……は?目?……目でキスしたのか?」

「違〜うっ!!目じゃなくって……おま、目でどうやってキスすんだよぉ!?ああ、もう、塔矢って案外鈍いんだな〜、ほらっ!!もっかいしてやるから今度は目をしっかり開けて見てろよっ!!」

彼の言葉に従った訳ではないが、あまりの出来事にびっくりして僕は目を閉じるどころではなかったのだ。
いきなり、進藤の頭が僕の顔、右半分に重なる格好で密着する。



……あ……っ!!この感触だ……さっきのは……とハッとなって。

それから、息が止まりそうになった。自分が今されていることの全貌が理解出来てしまったから。



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それは。
僕の頬を優しくパシパシとくすぐっているのは。

―――進藤の、まつ毛だった!!
進藤ヒカルが目を高速でしばたたかせながら、僕の頬にそのまつ毛の先で触れていたのだった!!

ドッキ――――――――――ン!!ドクンドクンドクンドクンドクン…………。



―――正直に言おう。僕は進藤の目がとても好きだ。
大きくて無駄にクリクリと回転する眼球は、時に光を得て琥珀色に見えることがある。
何かに心を躍らせていたり、何かに胸を締め付けられていたり。
彼の感情を映し出す鏡のように雄弁で正直なその目が、とても好きだ。

そして。
その目を一層引き立ててるのが、縁取りのまつ毛だ。
男にしては長いまつ毛が、密集し過ぎることもなく程好い間隔で生えていて、(例えば高永夏のような派手派手しい雰囲気ではなく)彼がまばたきをするたびに揺れて、ああ、何て可愛い目元なんだろうと思う。

そう、目だけでなく、まつ毛や目の下の膨らみやくっきりとした二重瞼や、そんなもの全部がかもし出している、彼の目元のニュアンスが大好きなのだ。
だから。だからこの状況はもうどうしたらいいのかわからない。
パニックだ……内心は大パニックだ!!

それでも頑張って進藤の様子を覗うと、僕の頬に前髪が当たらないようにと片手で前髪をわざわざ押さえてまで、必死でまつ毛を動かしている。
あああぁぁ……進藤の……進藤の顔がこんなに近くにあるだけでも心臓に悪いのに。
僕の大好きな彼のまつ毛が震えるようにして、僕の頬を掠めているのを目の当たりにしてしまうとはっ!!



「はあぁ〜っ……もう目が疲れた〜、ずっとまばたきしてるのって、目元に力が入っちまってけっこ、疲れるもんだなぁ……。」

やっと進藤が、僕から離れてくれた。
深い溜息をついたところを見ると、いかに彼が一所懸命してくれていたがわかる。

……嬉しい…………これは、凄く嬉しいことなんではないか?
でもやっぱり、進藤に対してはどういう態度をとったらいいのかわからなくて、僕は口をモグモグさせるばかりで言葉が見つからない。



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僕の妙な緊張が、進藤にも伝わったのだろう。

彼が、そんなに肩に力入れるなって〜、これでどんなキスかわかっただろ?少しは気持ち良かったか?なんて屈託もなく言うから、ふにゃふにゃになりそうだ。
……僕が……塔矢アキラが、腑抜けにされそうになるなんて!!
たったこれだけの接触で。
冗談みたいな、子供のイタズラみたいな、バタフライキスなんてふざけた名前のキス一つで!!



「なんだ、まつ毛の感触が蝶々の羽ばたきみたいだからそういう名前なんだな。」
「うわ、お前スゲーつまらなそうに言うなぁ〜?俺が決死の思いでしてやったのに!!」
「別に男のキミにされても嬉しくも何ともないよ。大体どこでこんなこと覚えたんだ?」



どんなもんだ!?……ええ?
好きな男にこんなことされても、平静を保てるくらいには僕は常日頃から平常心を心掛けている。
その日頃の鍛錬が、今の僕の強靭な精神を、揺るがない棋力を支えているのだ!!



「なあなあ、じゃあさ、俺にもやってみてくれる?バタフライキス〜。塔矢のまつ毛の感触ってどんなんだろーっ!?」



ドッカ――――――――――ン!!バクバクバクバクバクバク…………。



進藤がとびきりの笑顔で僕を捕獲した。
くもの巣にひっかかった蝶々さながらに、僕はほとんど怯えに近い感覚で、バクバクする心臓をなだめながら、目を閉じてほれほれと頬を差し出す進藤ヒカルから逃れたくてもがく。

これはキスという甘い名前の『拷問』だろうかと、ふと思う。

目の前で進藤のつやつやしたほっぺが僕のまつ毛の感触を期待し、その閉じられた瞼の先で、長く綺麗なカーブを描いたまつ毛が小刻みに震えていた。

それを見ているうちに僕は自分の感覚が更にディープに混乱するのを覚えて、頭に血が昇ったんだか血の気が引いたんだか全くわからなくなってしまった…………







バタフライ・キスはヨンハの得意技かもしれない(笑)(2010・2・5)









「リストランテの夜〜ある夜のこと〜」
(小説部屋にあるパラレルの番外編?ですので、ご注意ください)

「…ぁ…いや、ぁ…も、放して…。」

アキラの股間で揺れている彼の髪は、まだシャワーを浴びたばかりで乾き切っていない。
ほんのりと濡れて冷たい髪が内腿を微かに撫ぜていくのも、たまらなくいい。ゾクゾクする。

彼にしゃぶられてこれ以上はないくらいカタくなっているアキラ自身は、先端を舌先で刺激された途端に激しく吐精した。
あ、あ、あ、とリズムをつけてあがる声も止められないが、跳ねる腰だってそうだ。

彼の咽喉奥にどうしようもなく突き立ててしまえば、彼は躊躇いもなくそれを受け止め、吸いあげ、そして嚥下しているらしかった。
アキラが放ったものを飲み込むだけでなく、アキラの体内に一滴たりとも残すものかと、じっくりと先端の穴から吸い出される感触があった。
痛みスレスレの行為に、再び腰が悶える。

「馬鹿…嫌だっていつも言ってるのに…また…どうして飲んだり、なんか…。」

過ぎた快感と羞恥に混乱を極めたアキラは、今夜もすっかり涙目になっている。声も細く、震える。

彼は両方の口端を手の甲で拭いながら、そんなアキラへとゆっくり近付いた。
そして己の手についた残滓を認めると、目線はアキラに固定したまま、ペロリと舐めて見せた。

「味、確かめたいんだ。俺の料理を食べるようになって、あなたの精液の味って変わったのかな?」
「ばっ…!!」

ひどい、君は変態だ、死んでしまえと罵るアキラを、彼が薄笑いで包む。
見下すような、哀れむような…いや、アキラをいたぶって楽しんでいるような彼の全てが悔しくて愛しくて、喚き叫びたいくらいだった。

とうとうアキラは彼の胸をドン!と叩いて突き飛ばすと、ベッドに沈んだ彼の裸身に圧し掛かった。

「僕のを飲むようになって、君の味だって変わったかもしれないじゃないか。」

こんな恥ずかしいことを言えるようになるなんて、僕は既に気が狂ってしまったのだろうか…
僕こそ変態なのだろうか…

しかし、彼は心から嬉しそうに笑った。
まるで自分の料理の味を褒められた時のような、曇りない笑顔。

それを見たアキラもグチャグチャになった頭でものを考えるのは止めることにして、今度は自ら彼の股間に顔を沈めた――――





(2010.2.6再アップ)






「しずく」

 ― SIDE H ―

清潔そうなベッドの上。力なく投げ出された、細い腕。

手の甲には点滴の管が刺さって、固定されて、痛々しい。

目を閉じたアイツは、バラけた黒髪の間から白い額を覗かせていた。



横たわった時にしか見れないアイツの額は、かつて俺のものだった。

俺だけがそこにデコピンしても、キスしても……何をしたって許されていた。

そこに指を這わせる。
やがて、ツツーッと血管を辿るようにして、眉間に降りる。綺麗な鼻筋から、頬へと流れて。

手のひら全体で、すっかりこけ落ちた頬を包んだ。
骨ばった感触が、俺の胸を刺す……



俺は目元に集まる熱をどこかにやりたくて、顔を逸らした。

俺には、泣く権利はない。コイツの為に泣くことは許されていない。
……そんな資格はない。



目に飛び込んだ、点滴の管を眺める。

一滴  一滴  規則正しく、落ちていく。

この液体が。この小さな一滴が。

俺の愛するものを救い、力を与えてくれるのならと。どうかそうあって欲しいと。

その落ちて来る雫を、いつまでも飽くことなく見詰め続けた。

塔矢アキラの横で、塔矢アキラを見ることなく、何時間でも。

ただひたすら見詰め続けた―――










― SIDE A ―

目が覚めた時、気配を感じた。残り香を感じた。

これは……彼の……まさか…………

そんな筈はないとわかっていても、点滴を取替えに来た看護士さんに尋ねてみる。
誰かが見舞いに来ていたかどうかはわからないという答えに、安堵するようながっかりするような。
……小さな溜息を噛み殺す。



既に僕の世界の人ではない彼を、何年も待っているような気がする。
こうして病院のベッドの上で、夢とうつつの境を行ったり来たりしていると、押さえ込んできた願望が浮上してくるのかもしれない。



僕らはよく喧嘩をしたね。
酔っ払って、派手な取っ組み合いだってしたことがある。

でも。

仲直りの後は壊れるほど……いや、凶暴と言ってもいいほど、激しく果てなく愛し合って、互いを離さなかった……

凄く、未熟で。恥ずかしいくらいに、若くて。
でも、熱くて真っ直ぐだった。純粋だった。



もし、僕の命があと少しであるならば、君が僕をさらいに来てくれたらいいのにと思うよ。
この白い、色のない部屋から僕を連れ出して、二人きりの場所へと。
そしてそこで、僕らは命の火が消えるまで、共に打ち続けるんだ。
今度こそ、誰にも何にも邪魔されずに……いつまでも……



―――進藤の幻をそこに見たいと。
部屋の中を見回す。
すると、今では僕の日常の中に埋もれている点滴の管が、目に入る。

一滴 一滴 ゆっくりと落ちていく、透明な雫……
一滴が一秒の速さ。一分間に60滴が、僕の体に流れ込んでくる。



この一滴が、時を巻き戻してくれる「魔法のひとしずく」であったらどんなにいいだろう。

一滴一滴ごとに一秒ずつ時間が巻き戻って、あの頃の君に逢えたら……
いや、逢いたいと思う。
あの頃の進藤ヒカルに逢えるなら、僕は今持てるもの全てを投げ出していい。未来すらもいらない。命すらも……



―――塔矢 迎えに来たぜ こ〜んな消毒臭い部屋からお前をさらって行こうと思ってさ ほら 来いよ しっかり俺に掴まって―――



点滴の雫を見詰めながら。
とっくになくしてしまった君の笑顔と明るい声を、僕は胸に抱いていた……







この二人はここまで気付いているのだから、間もなく結ばれるでしょう。
だからラブラブなのでーす(^^)

一度は、周囲の目、過去のしがらみ、相手の幸せ、色々なものを抱えてアップアップになり、別れた二人。
だけどきっと思い直す。
ありのままの嘘のない心に従うことが、結局は周囲にも誠実であり、人として本当に大切なことだと気付く。

ヒカルとアキラはそんな二人だと思いたい…
この勝手な想いを、託させて欲しい…

だから私はこれからもずっと、ヒカアキを書いていくつもりです。(2010・2・7再アップ)






NOVEL