―  追熟 ―







「今日はお前のこと、考えてやれねえから。ソレ、最初に言っとく。体は平気だな?」
「君こそっ…っ!んっ…、っ…」

アキラの返答はあっという間に深い、というよりも荒々しいヒカルの口付けによって吸い取られ、咽喉奥まで犯し合うようなそれはこの先の交わりがどんなものになるのか、互いの体に予兆を刻むかのような激しさと甘さに満ちていた。



こんなに長く空いたのは初めてだった。
出張やアクシデント続きでなかなか会えない日々の果て、一ヶ月ぶりに抱き合ったヒカルとアキラは未知の暗闇へとまっさかさまに堕ちて行くような浮遊感の中、互いを引き寄せ合った。
すぐに風呂場に行き、服を脱ぎ捨て、再び始まった抱擁と口付けに溺れる。

「なあ、っ・・・?…もしかしてやっぱり、お前、っはぁ…っ、自分ではっ、しねえの?俺と離れてる、間っ…」
「…っは、そんな…ん…」
「あんなにすぐ…まるで、俺に触られたら待ってたみたいに震えて、大きくなって…すごかっ、た…」

こちらを煽るような淫猥ともとれるヒカルの言葉の数々に、アキラは己の耳を塞ぎたいと思うのにそれが出来ない。
両手で、ヒカルの首と背中にしがみつくのに必死なのだ。

「量もハンパなかったぜ?………ん、あっ!塔矢、それ、いいっ…」

己の羞恥の炎に油を注ぐようなこの憎い口を塞ぐには快楽を与えなくてはならない、それしか術はないとばかりに―――アキラはヒカルの耳の周囲をぐるりと舐めると、小さくて柔らかい耳たぶを甘噛みする。
ヒカルがこうされることに弱いのを、アキラは知っているから。

「お前、出した時、気持ちいいっていうよりも、イタッ…て、顔してた。溜まったもんを出すの、どっか痛みに、似てるもんな」
「だからっ…もっ…わかったようなこと、をっ…ああぁっ…」

図星だった。
余りにも長い間ヒカルに触れてもらえなかったアキラの体には瞬時に熱が回り、勃ち上がった場所は淫らな刺激に、淫らに応えることしか出来なくなっていた。
だからヒカルもさっさと、もうどうにかして欲しくて辛そうに震えているアキラ自身を手の中で追い上げてイかせた。
久しぶりの射精感。アキラにはどちらかというと痛みに近かったかもしれない。
思わず「イイ」よりも「イタイ」という顔をしたというヒカルの観察眼は大したものだと、アキラは悔しいけれど認めざるを得ない。

それだけ愛されている―――わかられて、いる…

一度達してグズグズになりそうな感覚を必死で持ち直そうとしているアキラのことなどおかまいなしに、ヒカルは壁に押し付けたアキラの下半身へと降りて行った。
「ずっと欲しかった…飢えてた…口の中が、寂しくて…今度は俺の口で…」と、すぐに含み、嫌だ嫌だとかぶりを振るアキラの乱れ声には耳も貸さず、広げた舌で先端を包んでは甘やかすように転がしたり、唇で圧をかけて上下にしごいたりした。
そんなことをされては意地だけで耐えられる筈もなく、アキラが二度目であるにも関わらず昇り詰めてしまうのにさほど時間はかからなかった。

呆気ないくらいすぐに達してしまったことを恥じるようにアキラは顔を隠したが、勝手に跳ねる腰は止められない。隠せない。
ヒカルは容赦なくアキラの手を引きはがし、残滓で汚れた顔を見せつけて来た。

「流して…お前が綺麗にしろよ…な?」

時折り、ヒカルは底意地の悪い言い方をする。
だが、優しくされるよりもよっぽどいいと思うアキラもまた、自分が男でありながら男を愛し抱かれる、その背徳にも似た仄暗い想いから目を背けることが出来ないでいるのだ。

だがしかし。
命令口調で言われて素直に「うん」などとは言うものか。
ただ、ヒカルの顔に湯をかけるようにして、そのまま広げた手で優しく擦る。
濡れた指先でなぞる恋人の顔は、とても綺麗だとうっとり思う。
アキラより彫りが深くはっきりとした顔立ちのヒカルは、目の周りの造形も凹凸が大きいのでなぞり甲斐があるなどと思う。

アキラだけ先に達かせたヒカルは、まだ質量と硬度を保った自分のものをアキラの腹や腰にグイグイと見せ付けるように押し付け、それもまた、アキラにとっては形を変えた愛撫に他ならなかった。

「お前もしてよ…俺の、こんなだし…お前の、この可愛い口で…」
「可愛く、なんか…っ………ん!」

ヒカルの指が、アキラの口内を犯す。
先に俺の指で慣れて、それから下のもっと大きいのも頼むな?と、半ば茶化すようなことを言うが、ヒカルの目は当然のように笑ってなどいない。本気だ。
熱っぽく潤んだ瞳でアキラを見詰め、口元からは昂奮を伝える早い呼吸に伴う喘ぎが漏れていた。

(昂奮している…進藤が、僕に昂奮しているんだ…)

こちらの脳も真赤に染まるのではないかと思うくらいヒカルの熱が伝染したアキラは、バスタブの淵に腰掛けて待っているヒカルの股間に躊躇いもなく黒髪の頭を沈めた。



風呂場での二度もの射精は、長く尾を引くような快感をアキラの体に呼び覚まし、既に今は三度目の坂を昇っている。
ヒカルが出した後は、やっぱりアキラの口中もヒカルが綺麗に洗ってくれ、それから二人はベッドへ移動した。
部屋にはアキラの好きなアロマが炊かれているが、灯りは暗めだ。

ベッドの上でもヒカルは寝たままアキラを横抱きにした格好で、愛撫の手を休めない。
片手はアキラ自身の昂ぶりを掴み、片手はアキラに腕枕をしたその先で、届く範囲の肌を愛撫する。
抓りあげた胸の先が指にしこりを感じさせるほどまで育てば、アキラは背を何度もそらせたり、逆に丸めたりして、快感を逃そうと身を捩った。
そのたびに黒髪が背後のヒカルをなじるように叩き、ヒカルは細く、なめらかなうなじに噛み付いては、アキラにも底のない悦びを注いだ。

しかしヒカルは猛り狂ったものの先端でアキラの割れ目をなぞりはするのに、なかなか入って来ない。
それどころか焦らすように入り口を突くばかりで、どちらかというとヒカルの愛撫はそれ以外に集中していた。
うなじに星を散らすように細かく何度も吸ったかと思うと、耳朶からその奥の穴まで犯すように食んだり、無理矢理な体勢からアキラの唇を呼んだりする。
手は火照った肌のあちこちをまさぐり、その落ち着きのないヒカルの手の動きすらもアキラには快感でしかなかった。

ヒカルが入って来ないのに焦れる感覚というのは、このまま三度イってしまいそうになった時がピークだった。

「だめっ…あ、ああっ…駄目、だ、しんどっ…も、駄目えっ…」

自らの腰でヒカルを押し戻そうとした瞬間、ヒカルが容赦なく逃げる腰を掴み、片手でひょいとアキラの片足を抱え上げた。
そのまま腰を軽く浮かせる格好で持ち上げて行くと、丁度良い角度まで来た時に膝をついた自身を宛がった。見ようによっては、中途半端ではあるが四つん這いで重なる体勢でもある。

アキラのそこは欲望とは裏腹に間が空いたせいで、閉じて固い戸口となっている。
しかし、ヒカルはいつの間にか自分の方にたっぷりと施した潤滑油のぬめりを借りて、アキラを貫いた。
ゆっくりと入っていくのではなく、一気に最奥まで腰をすすめたのだ。

ヒカルが入って来る瞬間は何とか悲鳴を耐えた。
唇を切れるほどに噛み締め、黒髪を打ち振り、アキラは一ヶ月ぶりに抉じ開けられる場所が代わりに悲鳴を上げているみたいだと―――音なき音を、体を通して聞く。

ところが決壊したのはその後だった。
届く限りのところまで来たヒカルはアキラの汗ばんだ背中に被さり、アキラの耳を舐めながら「イけよ」と短く、しかし直接的な言葉を突き付けた。
それだけでも感じたのに、そのすぐ後に腰を引かれた時にアキラは最高潮に達してしまったのだ。

(抜けるっ…嫌だっ…)

ヒカルのものが全部出ていく寸前まで引き抜かれた瞬間、その刺激が今までにない強烈さでアキラを襲った。
期せずしてイイところを掠ったのもそうだろうが、折角アキラの内部に馴染み始めた質量がズルリと失われていく感触が、アキラを小さなパニックに陥れたのだ。
ヒカルを逃がしまいと本能的に締め付け、その刺激で今度はヒカルの腰が勝手に乱暴に抜き差しを始めた。
いつものようにアキラの前を握るヒカルの手と、腰の動きがその速度まで合わせてアキラを押し上げれば、突っ伏したアキラはされるがままに甘苦しい喘ぎをシーツに幾度も幾度も吸わせるしか出来なくなってしまった…



ヒカルにとって二度目、アキラにとっては三度目になる行為は、さすがに若い二人にも例えようのない疲労感を連れて来た。
だがヒカルは終わった後もアキラの肌を離さない。
間が空いて久しぶりということも手伝って、ヒカルの愛撫はむしろ繋がっている時よりも濃い。
男性の特性である、達してしまえば急速に熱が冷めるという感覚はどこへ行ったのやら―――かえってどこもかしこも過敏になったアキラは、抵抗する力も湧かないように見えた。

中途半端は辛かった。
四度目は意識していないのか、或いはただ、アキラを甘くなぶりたいのかわからないが、ヒカルの触り方は最後まで導く激しさもない代わりに、アキラを楽にするつもりもないようだ。

「すげえ…三度だぜ?一晩で三度もイったのに、お前のここってば、まだ欲しがって…垂らしてる…」
「やっ…も、ちゃんと、しろっ…」
「ちゃんと?ちゃんとって、何だよ…出したいってこと?でも、出すもん、残ってるの?え?」

ベッドの上、ズリズリと上に体を這い登らせるアキラを、ヒカルも絶え間なき愛撫とからかうような口調で追う。

(逃がすものか…もっともっと、愛してやるから…)

ヒカルの大きな瞳の奥で揺れる光は、優しさと凶暴さとを交互に浮かび上がらせながらアキラを包む。
ベッドボードまで追い詰められたアキラを、最後はまるで獲物を見るような鋭い目で見詰めたヒカルはアキラに自分の上に乗れと、とんでもないことを言い出した。
素早く場所を入れ替え、今度は自分がベッドボードに背中を預け、胡坐をかくように長い脚を組んでアキラを促す。

「そんな力っ…残ってな………っ!あっ!」

待ち切れなくなったヒカルは両手でアキラの細腰を支え出来るだけ高く持ち上げると、勝手に自分の上に乗せた。
ヒカルにはまだこんなに体力が残っていたのかと、アキラはむしろ感嘆する。

再び体を繋げた二人は息も絶え絶えだ。
アキラは屹立こそほぼ完全ではあるが、幹を濡らすものが先ほどよりも少ないのがわかる。
ヒカルの指先がツルリとした場所や、くびれた輪を愛しげにそっと撫でるのすらアキラの欲望を膨れ上がらせ、そこはヒクヒクと震えるほどになっている。

まさか本当に四度目もこんな早くそうなってしまうのだろうかと、アキラが自分で自分の体に対して恐怖に近い戸惑いを感じているうちに、ヒカルが言う。

「会いたかった…お前に会いたくて会いたくて…夢で狂ったように何度も、抱いた…お前のこと…」
「僕だって…会いたかった…僕も…君と…何度も…」
「ああっ、塔矢!俺も、お前が俺の腕ん中ですすり泣くの、思い出して…早くっ…早くこんな風にお前をっ、俺がっ…」

「気持ちよくしてやりてえっ!」と叫んだと同時に、アキラの中をいっぱいにしていたヒカル自身が一層膨らみ、脈動とともにアキラの奥を突いた。

そんなことが最後の引き金となるとは二人とも予想していなかったが、心と体を隅々まで侵食するようなヒカルの言葉と腰の動きに、アキラの中の何かがうねり出して波を起こし、それは体の隅々まで甘い痺れとなって駆け巡った。
勝手に体が動いていた。理性ではどうにもならない衝動だった。
爪先がピンと強張り、背中の中心が細かく震える。口が開いて舌まで震え出す。
思いっきり仰け反った咽喉元からは、何かが食い破って溢れ出そうだ。

―――やがて。
きつく閉じた瞼の裏でチカチカと白い光が弾け、同じような破裂感にアキラの下腹部は激しく反応していた。

「あああぁっ………っっ、っ…」
「っ!?…と、やっ…くっ…」

峠を越えた感覚にアキラが体を弛緩させた時には、どうやら全てが終わっていたらしい。
悲鳴の余波が木霊のように遅れてアキラの意識に届いた後、ヒカルが上ずる声で言った。

「お前っ…今、出してないけど………イった?」

それがドライ何とかっつーんじゃねえ?男は出さなくてもイけるって言うじゃん?と、ヒカルの言葉を理解するのにも時間がかかったが、自分の身に起きたことを反芻すれば、アキラはかつてないほどの羞恥心に眩暈どころか失神しそうだった。

「ま、さか…知るか、そんなの…嫌だっ…言うな…」
「塔矢塔矢塔矢っ…ああぁっ…会えない時間がさ、気持ちだけじゃなくって、お前の体まで変えたのかな…だったらスゲエッ…」
「だからっ!そんな恥ずかしいことをっ…この馬鹿っ…」
「いいじゃんか…会えない間に、どんどん感じやすい…やらしい体になれよ―――大好き…」

酷いことを言うくせに、最後の最後は「大好き」などとシンプルで可愛らしい言葉でアキラの心をぎゅっと掴んでは濡らしてしまう。
ヒカルはテクニックを越えたところでアキラを感じさせる。それが紛れもなく愛というものなのだろう。

「なあ?どんな感じ…した?出さないでイくって…どうなの?なあなあ?」

腕だけではなく甘えるような声音でもアキラを抱き締めて来るヒカルは、半端に萎えた場所が本当に何も出していないことを確かめるようにまさぐる。
達した時と同じ快感が突き抜けたのは確かだが、ヒカルの言うところの射精を伴わない絶頂感もあるのだということを、アキラは身を持って証明したらしかった。

「なあってば…俺はお前がイく時と、同じように悦かった…だから教えてよー、お前も出なくてもおんなじだった?何か、違ったの?」
「馬鹿っ!馬鹿馬鹿っ…き、君だって、出さないでイけばいいっ…そしたらわかるだろうっ…」

僕を見ただけでイきたくなるくらい、君の体だって会えない時間にいやらしく変わってしまえばいいんだとヒカルを罵倒するアキラを、当のヒカルは嬉しそうに見ては「やっぱ、俺を叱る時のお前はイった後とおんなじくらい綺麗…ゾクゾクする」と憎ったらしいことを口走ってアキラを更に怒らせる。
本当にヒカルの体を叩くアキラの拳を捉え、ヒカルは強引に口付けた。頭の芯がクラリ…とするような深い口付けは、手に余るほどのあらゆる感情を呑み込む。
ヒカルの手がアキラの手首を滑り、やがて二人の手と手はごく自然に繋がれていた。



離れたくない、一秒でも―――そう激しく思う傍らで、離れている時間があるからこそ互いを求める気持ちが高まり、体の反応にも愛し合い方にも変化を持たらすことがある。
愛は自分達が知らなかった世界を見せてくれると、ヒカルもアキラも固く交互に組み合わせた指と指にすら互いの命を感じながら、口付けを続けた。














うちの裏はドロドロしてるって(?)言われたので、汁気のないドライなエッチって?
とか思ったら、即物的にドライなネタに行き着いたらしい(最後のところ、ですね)
タイトルはテレビでね、バナナの追熟をやってたの…ピッタリかと思って…(逃げろーーーっ)

NOVEL