― 吐息 ―
「塔矢、珍しいな。一人でいるなんて。相棒はどうした?」
気配を感じていなかっただけに、突然話し掛けられて、僕は驚いて振り向いた。
そこには、高永夏が立っていた。右手に水割りらしきグラス、左手は気だるそうに長い髪をかきあげる。もうそれだけで十分絵になる男だ。
不意を付かれて、しばし韓国語と日本語が僕の頭の中で交錯した。
「・・・ああ、相棒って・・・進藤のことか?」
「そう。アイツ、韓国にいる間中、お前か秀英にくっ付いているだろ?自分が韓国語が出来ないから、お前らを通訳代わりにしている。ちゃっかりしてないか?」
「それは仕方ないだろう。今回のことで、進藤も少しは勉強する気になったかもしれないし・・・。」
僕は今、この人の傍にだけはいたくないと考えていた、まさにその人物の視線に絡め取られていた。
自分の方が視線をはずしても、そのことだけは痛いほど肌で感じられた・・・。
僕と進藤は、他何人かの棋士と一緒に、北斗通信システム社の、韓国での最大規模の支社と工場建設を祝うイベントに招待されて、二日前にソウルにやって来た。第一回の北斗杯以来、すっかりこの棋戦は日本だけでなく韓国でも注目され、もうとっくに参加資格のなくなった僕らまで、この棋戦を盛り上げた立役者としてわざわざ招いてくれたのだ。
公開対局で、進藤と高永夏が対局し、洪君と僕が大盤解説をした。
イベントの中の一局ということで、進藤はいつも以上にアグレッシブな攻めを見せ、高もそれに応えるべく斬新な手で切り返して来た。見ている方には緊張感のある碁だったろうが、当人同士にとっては、ある意味これ以上はないというくらいにリラックスしているからこそ打てる、お互いでお互いの力量を測りつつ、尚且つ挑発しつつ、新境地を拓いていくような碁だった。
おそらく、洪君もそのことを感じていただろう。
対局の後、いくつかの行事が消化され、明日発つ日本の選手達の為に宿泊先のホテルでパーティが催された。ひとしきり社交が済むと僕は一人になりたくなって、洗面所に行くことを口実にして部屋を出て、そのままロビーに飾られた大きなアレンジメントの影の、人目につきにくい所でぼんやりしていた。
何となく、昼間の進藤と高永夏の対局内容と、その時の二人の言葉は交わさずとも激しく高揚している様子が頭から離れなくて、心の奥がざわつくような嫌な感じから抜け出せずにいた。
・・・僕は、どこかおかしいのだろうか?
進藤が、これまでも僕以外の誰かと素晴らしい一局を打ったことは数えられないくらいあるし、それを心から素晴らしいと称えるだけの度量はあると自負していた。
それなのに・・・・・。
そんな風に自分の動揺が一体どこからもたらされるものかはかりかねていた時に、よりにもよって当の高永夏に捉まってしまった。
どうやってこの場を去ろうかと思い巡らす一方で、普通に会話を続けた。
「今日の一局、いい碁だった。二人の持ち味が良く出ていたね。」
「んー?対局?ああ・・・そうだな・・・アイツと打つのは面白いな。でも、今回は・・・。」
でも、今回は・・・何だろう・・・その先に続く言葉は・・・?
「あー・・・!何だかいい気分だと思ったら、ここにカサブランカがある!他の花に隠れて見えにくいけど・・・香りで教えてくれた。コイツ、俺の一番好きな花。高貴な装いで、王様然としてるだろ?」
眼が半開きになって、花の香りを吸い込むように首を小さく振りながら顎を持ち上げる。恍惚とした表情が、僕の眼前に無防備に晒された。
「なあ、塔矢。花ってさ、ソイツを好きなやつが近くに来るとわかるんだぜ。そして、一段と匂いを強くして、喜びを伝えてくるんだ。このカサブランカなんて特にそう。」
一体、さっきの話はどこに行ったんだ?いきなり、花の生態について語りだすなんて・・・。
僕の戸惑いなんてお構いなしに、高は続けた。
「・・・花の匂いって・・・人間に例えるなら吐息のようなもんじゃないか?花から吐き出される、唯一の自己表現・・・俺が近くにいると嬉しそうに吐息をついて・・・ますます匂いがきつくなる・・・。」
この数年、何度か高と一緒にいる機会があり、彼が人の話を聞いているようで聞いていなかったり、突然場の流れにそぐわない話題を持ち出したりするのを経験してきた。高はこんなパーソナリティだと周りが諦めているのか、或いは、碁界の頂点の立つ人間だから許されるのかはわからないが・・・。
「この花は、君のイメージにぴったりだと思うけど・・・。」
何と答えたらいいのか混乱しつつも・・・やっと出た言葉は、又もや彼の目まぐるしく展開する内面世界からは、弾き飛ばされた。
「・・・進藤って、色っぽくなったな。」
僕の言葉など聞こえなかったみたいに、唐突に高は言った。一瞬、韓国語が未熟なせいで聞き違えたのかと思った。進藤が・・・男っぽくなったとか、大人っぽくなったとかならわかるが・・・。
・・・進藤が、色っぽくなった?
「進藤って、最初会った時から子供子供してて、思ってることが全部顔に出るやつだったけど・・・今日久しぶりに会って打ったら、変わってた。男の色気が出てきたよ。」
間違いない。進藤のことを、男の色気云々などと、碁と関係のない彼への印象を語っているのだ。
僕は驚きのすぐ後に、たまらない不快感が押し寄せてくるのを止めようがなかった。
「君、何が言いたいんだ?進藤に興味があるのか?」
僕の語気が思ったよりも強かったせいか、韓国語だからストレートに言葉を選んでしまったせいか・・・。
高が何か面白いものでも見つけた、いたずらっ子のように眼をキラリと光らせた気がした。
「そうか・・・もしかしたらと思っていたが・・・進藤をあんな男に育てたのは塔矢・・・お前だったのか?」
・・・しまった・・・と思った時にはもう遅かった。虚を付かれて、否定するタイミングが大きく遅れた。驚きの余りに言葉が出なかったと言い訳するにも、遅過ぎるくらいに・・・。
「何を言ってるのか意味がわからないな。もう少しゆっくり喋ってくれないか?僕には難しい会話のようで・・・。」
言葉が理解できなかったことにしてしまえととっさに取り繕ったが・・・高には多分、見抜かれていたに違いない。次に彼が発した言葉がそれを匂わせる。
「ふふん・・・それだけ韓国語が出来るくせに・・・話したくない話題にはその手で来るか・・・。まあ、いい。何もそんなに警戒することはないさ。お前の進藤をどうこうしようなんて、思っちゃいなかったさ、今の今までは・・・。」
僕は自分の顔に熱が集まるのを感じた。コイツ・・・高永夏ってやつは・・・一体・・・。
「ははは!!絶句したり、紅くなったり、こんな塔矢は碁の時にはきっとお目にかかれないな!心配するなよ。ふふふ・・・俺にだって恋人くらいはいるさ。」
何を返しても墓穴を掘るだけになりそうだから、出来るだけ無表情に聞き流そうと務めた。
「・・・女の恋人と・・・男の恋人が一人ずつな・・・。」
この瞬間ほど、本当に韓国語がわからなければどんなに救われただろうと・・・聞き取れてしまったことが悔やまれたことは後にも先にもなかった・・・・・。
最悪の気分だった。
あの後、高は捨て台詞ともとれるその言葉を残し、ご自慢の長髪をなびかせて去って行った。
後には、むせ返るばかりのカサブランカの香りが漂い、心配した進藤が捜しに来るまで僕はその場に磔にされたみたいに、動けないでいた・・・・・。
後は機械的に社交をこなし、部屋に辿りついた時には、心底脱力した。
用意されている部屋はダブルで、一人に一部屋ずつに割り当てられているからゆっくりと過ごせる。明日はもう帰国だし、勿論その後は何の予定も無いから進藤の部屋に直行することにして、今夜は壁一枚隔てた隣の部屋の彼のことを思いながらぐっすりと眠りたい・・・・・。
その僕のささやかな希望は、シャワーから上がった後にかかって来た進藤からの電話で打ち砕かれた。
「進藤?どうした?」
「と、塔矢〜・・・。俺、どうしよう・・・。とにかく俺の部屋に来てくれない?ここ、凄いことになってんだよぉ・・・。」
「・・・今すぐ行く。」
進藤の声の調子で、何かとんでもないことが起こってる。それも、高永夏絡みでという直感が働いた。
「進藤?僕だ。」
「塔矢!良かった・・・入ってよ・・・でも、驚くなよ・・・って言っても無理か?」
進藤の部屋に足を踏み入れて・・・確かにそこは驚くなと言うほうが無理な状況だった。
部屋中が、大輪のカサブランカの白い輝きと、独特の匂いに満たされて・・・嫌な匂いじゃないのに、でも強烈過ぎて、思わず手が口元を覆う。
息が苦しい。花酔いとは、こういうことを言うのだろうか?
「なあ、凄いだろ?さっきお前より少し遅れて部屋に戻ろうとフロントに寄ったら、お部屋にお届け物がありますからって日本語の出来るスタッフに言われて・・・部屋に入ってびびっちまった!これ、何の冗談?とかパニクッってたらカードがテーブルに置いてあって・・・これ・・・。」
進藤がおずおずとそのカードとやらを差し出す。僕の予想にたがわず、それは高永夏からのメッセージだった。きっと日本語が出来る誰かに代筆してもらい、署名だけは自分でしたのだろう。
「・・・今日の素晴らしい対局に・・・カサブランカは僕の賞賛と感謝の証だ・・・。」
僕は、声に出して読み上げた。
「なあ?キザったらしいだろ?こんなことするなんて、寒くなんねー?うー、ぶるぶる・・・。アイツ、ソウル中のこの百合?・・・の花をさ、買占めたんじゃないかと思うだろ?ここまでするか?」
ここまでするから、高永夏なんだろう!
口には出さないで胸の内で悪態をつくと、ゆっくりと部屋中を歩き回りながら花を観察した。花瓶にさしてあるものもあれば、直径50センチ以上はあるかと思われる大きなバスケットにアレンジメントとして飾られているものもあって、テーブルやベッドサイドや果ては床まで占領されている。それが残らず全て、これ以上は開けないというほど満開の・・・大輪の・・・純白の・・・カサブランカなのだ。
やってくれるな・・・高永夏め・・・彼がさっきの僕との会話で、進藤と僕の仲を確信したとしたら、これは明らかに僕への「宣戦布告」だ・・・・・。
進藤の周りにいる女性に嫉妬を感じたことは、今まで不思議なくらい無かった。碁を打たないミーハー的ファンはとるに足りないし、女流棋士の中にあっても、進藤は皆と仲良しといった程良い距離のとり方をするので、特に誰に誤解をさせることもなく、またアプローチもさせない雰囲気を作り出しているようだった。
「その点に関しては、お前の方が女心をわかってないから危ねえ・・・。」
などと偉そうに、僕に女性を遠ざける上手いやり方とやらを伝授しようとしたこともある。
しかし・・・高は違う。男なのに、今までの誰とも違う。
それは、今日の対局と彼の様子を見れば、わかる。進藤にあんなにレベルの高い碁へと誘うことの出来る世界屈指の実力・・・バイセクシャルであることを何のハンデにも感じてないような人を食った堂々たる態度・・・加えて、一度その完成美に魅せられたら虜になってしまいそうなルックス・・・・・。
「塔矢?どした?・・・お前もやっぱ呆れてモノが言えないよなぁ・・・。なあ、俺、明日この花ぜーんぶ持って飛行機に乗んなきゃなんないのかな?」
「進藤、君、案外喜んでる?こんなことされて・・・。」
そんなわけないだろ?お前何、言ってんだよ!と僕に食って掛かる進藤をじっと見つめた。そう・・・僕の中に、言葉にし難い感情が生まれ、それは一秒一秒カサブランカの吐息を吸って育っていく・・・・・。
その時、部屋の電話が鳴った。
「・・・はい・・・え?ああ、スヨン?・・・うん!そりゃあ、びっくりしたさ!・・・うん・・・。」
電話の相手は洪君か・・・安堵しかけて、ふと思いなおす。もしかしたら?
「え?そこにヨンハがいるの?一緒に上のバーで飲んでるんだ。」
そういうことか・・・。僕の中で育ちきった感情が、とうとう理性という名の器からはみ出してしまった。
「じゃあ、俺の代わりに礼を言っといてよ、俺、韓国語わかんねーからさ。」
進藤はベッドの淵に腰掛けて電話している。僕は彼の両膝を左右に開かせて、その間に身を滑り込ませるとひざまずき、そして進藤の腰に両腕を回してぎゅっと抱きしめた。
「・・・あっ・・・。」
進藤が息を呑んで、僕をびっくりまなこで見てきた。二人の視線がぶつかる。
「塔矢、こんな時に何すんだよ!?」
受話器を手で押さえて、小さな声で抗議してくる。
「まだお話中だろ?早く返事しないと、変に思われるよ?」
僕も囁くような声で彼を促した。
「・・・ん?ああ、スヨン、聞いてるよ・・・えー!?今からそっちに?いやあ、それは・・・。」
進藤がチラと僕を見たのがわかったけど、もう引く気はなかった。高永夏がその気なら、僕も受けて立つまでだ・・・。
僕はひざまずいたまま、もう緩めてあった進藤のネクタイに指を入れてはずすと、ベッドサイドのカサブランカの花の上に放り投げてやった。次にシャツのボタンも、上から順にはずしていく。両手でシャツの前をはだけさせて、そのままゆっくりと進藤のしっとりとした肌を撫で回す。
流石にそこまですると、進藤が耐え切れなくなって声を漏らした。
「ぅあ・・・い・・・。」
進藤が上から僕を睨みつけて、ゼスチャーで訴えてきた。・・・やめろよ!声が出ちゃうだろ?・・・とでも言いたいんだろうけど。僕はそれを無視して、彼の程よく筋肉のついた硬いお腹の真ん中にある、小さな窪みにキスをした。舌を這わせながら上って行き、右にいこうか左にいこうかちょっと迷って・・・左の先端に強く吸い付いた。
「・・・んん!・・・いや、ご、ご免・・・今、手に持ってるペットボトルを落っことしそうになってさ。はは・・・。」
進藤、君、まだ話し続ける気なの?
うーん・・・いつも僕はしてもらうばかりで、君がどうしたら感じてくれるか知ろうともしなかったから、こんな時は自分がされてきたことしか思い浮かばなくて・・・。
僕が感じるからと執拗に攻めてくるわき腹を、進藤も感じるかなと思いながら撫で摩り、両方の突起をかわるがわる舌先で弄んでやる。男でもこんな所が気持ちいいなんて、進藤に愛されるまで知らなかったけど・・・あれ・・・?・・・舐められる方だけでなく、舐めてる方も何だかいい感じだ・・・。
「今夜は・・・もう疲れてるから・・・ホント悪りぃ・・・又いつか・・・な・・・。」
ここまでしてるのに、まだ話し続けられる進藤・・・もしかしたら・・・この卑猥で隠微な状況を、君は楽しみ始めているの?
進藤も、意外と快感に貪欲なのかもしれない。僕は、彼の胸やうなじやに印をつけながら、ズボンのベルトに手をかけた。ジッパーを下ろすと、下着も少し下ろして中から彼のものを両手に包み込むようにして導き出してあげた。何だ・・・もう半分くらい固くなっている・・・じゃあ、ちゃんと感じてくれたんだね、僕からの初めての愛撫に・・・・・。
「じゃあ・・・おやすみ・・・。」
やっと電話が終わった。・・・と思ったら、続いて大きな溜息が僕の頭上に降ってきた。
「あー・・・塔矢ぁ・・・お前今夜はどうしたんだよ?こ、こんなことして・・・何の真似?俺のこと、何か試そうとか・・・してんの?」
「・・・君は、僕のものだ。」
進藤の快感に歪んだ顔を見上げながら・・・僕は誰かに聞かせるみたいにきっぱりと宣言した。
「君の、心も、体も、全部、全部、僕だけの・・・。」
「と、塔矢・・・お前にそんなこと言われると・・・俺・・・嬉しいの通り越して・・・怖いくらい・・・。」
「・・・怖い、くらい?なーに?」
「どうしたのかな・・・この花の香りが俺をおかしくしちまったみたい・・・めちゃくちゃ感じる・・・。」
「僕も・・・君にこうしたくてたまらなくて・・・カサブランカが僕のこと・・・狂わせちゃったのかも・・・。」
目を閉じて、進藤自身に口付ける。進藤の息が荒くなって、胸が海の表面みたいに大きくうねった。
・・・もっと、もっと、君を悦ばせたい。
ためらいはなかった。十分に張り詰めたそこを、舌で辿り、先端をつつき、すっぽりと僕の口内に取り込んだ。彼がいつも僕に施してくれる全てのことを記憶の底から呼び戻し、なぞりながら、同じ様にしようと努める。
「んんーっ・・・それ・・・やめて・・・お前にそんなことされると、もう、もたない。」
「らまっれ・・・ひゅうひゅうひれ・・・。」
黙って、集中して・・・って言いたかったんだけど、慣れないせいかついくわえたままで言っちゃったら、ちゃんとした音にならなかった。
「ああぁ・・・お前・・・そんなエロいこと、俺でもしねえのに!」
言葉は聞き取れなくとも、感じてくれたらしいので、良しとしよう。
そして、再び電話が鳴った。
二人ともビクッとして、思わず電話に目をやるが、すぐに僕は動きを再開した。
「塔矢、電話に出なきゃ。」
今度は口で言う代わりに、態度でわからせようと、動きを更に激しくしてみる。
「あ、あ、・・・電話、誰からかわかんないし・・・っ・・・もし大事な連絡だった、ら・・・。」
仕方ない。僕は進藤を一旦解放して、見上げた。
「だめ・・・。」
「だめって・・・でも・・・。」
電話はしつこくコールを続けている。間違いなく、高永夏だ。諦めの悪いやつめ・・・。
僕は苛立って、進藤の両足から服と下着を引き抜きながら、よいしょとベッドの上に持ち上げた。同時に、ここに来るときに着ていたバスローブのまま、自分の下着だけを脱ぎ捨てて、進藤の上に馬乗りになった。
「こ、この状況って、もしかして?」
慌ててる進藤の様子なんてベッドの上では初めて見る気がして、僕は薄ら笑いを浮かべるのを禁じえなかった。
電話はようやく途切れたが、もう止められない。
「よせ!塔矢!・・・んなこと急にしたら痛いって!・・・お前が傷つくの、絶対いやだ・・・。」
「・・・ん・・・きっと、痛いよ・・・痛いけ、ど、したい・・・君が、欲しい・・・。」
心配そうに僕を見上げる進藤の顔に、汗が光っているのを見ながら、ゆっくりと息を吐き出しつつ彼の上に沈みこんでいく。痛みというより、焼け付く感じが先にきて、思わず彼の手を求めてもがく。進藤はすぐに、僕の両手と自分のそれを指を絡ませ合う格好で繋ぐと、ぎゅーっと握って僕の体の重みを支えてくれた。繋がれた手に安心して、体もだんだん馴染んでいく。
「今夜は、僕が君を見下ろして・・・君が僕を見上げる番・・・。」
「うん・・・この角度から見る塔矢は・・・凄く、色っぽい。」
君だって・・・と、言おうとして、高の言葉が蘇った。
・・・進藤は、色っぽくなった・・・男の色気が出てきた・・・。
途端に、周りのカサブランカを意識した。この花たちは、僕らの行為を全て眺めている。言葉はないままに、呼吸だけを続けながら、僕らの愛の行為を固唾を呑むかのように・・・・・。
それはまるで、この花たちを送り込んできた当の人物に覗き見されているような錯覚を、僕に起こさせた。大輪の花の向こうに、彼の視線が潜んでいる・・・・・。
僕は自分の想像にぞくりと興奮を覚えて、体が自然に揺れ出す。
「進藤・・・君は、僕のものだ・・・誰にも、絶対に、渡さない・・・。」
「・・・塔矢、お前だって俺のもんだ・・・他のやつにこんなこと、死んでもするな!こんな、いやらしい顔、見せるな・・・。」
「ああぁっ・・・進藤!・・・僕の・・・僕、だけの・・・!」
進藤がいきなり上半身を起こして僕を抱きしめると、乱暴に唇を貪ってきた。ああ、そうか・・・これって今夜初めてのキスだ・・・いや、正確には一週間ぶりくらいだっけ?
繋がり合う角度が変わり、中にいる進藤が僕のそこに、うっとりとするような甘い疼きを与えてくれる。
「塔矢・・・痛くない?大丈夫?」
進藤・・・声が、掠れているよ?僕は、そんなに、いいの?
もう、言葉を紡ぐことは出来なかった。
僕は再び唇を押し付け、進藤の髪を手で掻き混ぜながら、腰を上下させた。すると彼も僕の両脇から腕を回し、肩を掴んで体を密着させてくる。
やがて進藤の突き上げが激しさを増していき、スプリングの軋みと僕の小さな悲鳴みたいな喘ぎが耳に入って恥ずかしくなるけど・・・羞恥心が快感をどこまでも増幅させて・・・僕らは、同時に昇り詰めた。
「俺ら・・・今夜、どうしちゃったんだろ?やっぱ、この花のせい?花に囲まれてエッチしたことなんてなかったから?」
「・・・・・。」
僕はまだベッドの上で進藤に貫かれたまま、彼の首に手を回して息を整えていた。そして・・・感じたくなくても、感じてしまった。
カザブランカの匂いが、一段と強くなっている・・・。
この部屋中の花が、一斉に深い溜息をついて、その甘ったるい匂いを発散させたかのように・・・・・。
僕が眩暈を感じて呆然としていたら、進藤が呟いた。
「ねえ・・・花の香り、前よりきつくなってない?」
そこかしこから立ち昇るカサブランカの吐息に包まれて、その夜僕らは果てしなく快感を求め、幾度となく愛し合った・・・・・。