頭にくる。マジで頭にくるんだよ。
自分でもコントロールの出来ない感情に、驚いちまう。
それが如何に理不尽な怒りかということは、こんな俺だってよくわかってるさ。
塔矢が女にもてるってことは、最初からわかって始めた恋だ。
それなのに、何年経っても慣れねぇ…
何度経験しても、塔矢が女に囲まれているのも、女に熱い視線を送られているのも、見ただけで虫唾が走るんだ。
…本当に重たいものだったら受け取れないけど、でも、そういうんじゃないだろう、どれも。
かえって申し訳ないよね、一人一人にお返しは出来ないんだし…
まるで何でもないことのように、あっさりと言った。言いやがった。
俺も、全然気にしてないといった素振りで聞き流した。…ふりをした。
そして、バレンタインの日。
昼間の塔矢が、どんな風に過ごすのか――想像するだけでも頭掻き毟ってゴロゴロ転げ回りてーのにっ!
実際、棋院で女に取り囲まれてた塔矢を目撃したら、やっぱり頭に血が昇った。
「よっ!進藤。何、怖い顔してんの?今日という日にソレだと、もてないぜ〜。」
「アレだよ、アレ…ムカつかねーか?」
「ん?ああ、塔矢ね、いいんじゃないの?毎年恒例じゃん。棋院側も余り派手に騒がれなきゃ、少しは囲碁の普及の為〜とか言っちゃってお目こぼしだし。」
「何であんな気持ちワリイ愛想笑い、出来るんだよ…信じらんねえ…塔矢のヤロウ。」
「進藤、お前、気持ちはわかるよ、俺だってムカつくと言えばムカつくし。でもアイツにマジで嫉妬してもしょうがないじゃん?所詮、女の子だってイベントに乗っかって騒ぎたいだけだろうし…囲碁界のプリンスにあげちゃった〜とか、さ。」
「それが気に喰わねえ…アイツ、いらねーって突っ返せばいいのにっ!」
「お前〜、そこまで言うこたねえだろ?そんなこと、誰だって出来ないってば。お〜い、ひがみも行き過ぎると醜いぜ〜。」
「醜くてどこが悪いんだよ。」
「進藤?…お前…顔、マジでこえーぞ…ライバル心が強過ぎるのも考えモンだな。…っとぉ…そろそろ俺、行くわ。じゃあな。」
俺にギッ…と睨まれた和谷は、逃げ出すみたいに背中を向けた。
和谷は、何もわかってないからそんなこと言うんだ。
…いや、わかられても困るんだけどさ。
秘密の恋の苦さを、世間が甘ったるい匂いに包まれているその日に嫌というほど味わう――
皮肉な運命に、俺は怒りを覚えずにはいられなかった。
◆◇◆
今夜は特別だ。バレンタインっていうのは、誕生日だのクリスマスとは違う。
塔矢に好意を抱く女が世間にどれだけいるのかを、俺の目の前で形にして見せられる日――
チョコレートの数だけ、俺は嫉妬に狂う。
同時に。
チョコレートの数だけ、俺は塔矢が愛せる女に巡り合うチャンスを潰しているのかもしれないという罪深さを突きつけられるんだ…
俺が塔矢の部屋に入って一番最初にしたことは、キスでも抱擁でもなかった。
アイツが貰ったチョコレートがどこにあるのか見つけ出し、それを数える。もう恒例と言ってもいい。
…くっそぉ…やっぱり…去年よりもうんと増えてるじゃんかっ!
「96個…すっげえな…こんだけの女がお前のこと狙ってるんだ…。」
「やって来るなり何を馬鹿なこと。毎年こんなことするのは止めろ。いい加減大人になれば?」
「うるせえっ!」
手近にあったチョコの箱を投げ付けるけど、塔矢は簡単にそれを避けた。
壁に当たったチョコが軽い音を立てて、塔矢の足元に転がる。
「こらっ!子供じみたことするなっ!食べ物を粗末にすると怒るぞっ!」
「そこかよっ!?食べ物なんて知ったことか…このチョコは、そんな可愛いもんかよ…俺にとっては…俺には、これがどんな刃物よりも…。」
…ヤバ…熱いものが目に集まる。
ここで、そういう見苦しい姿は見せたくねえ…死んでも見せたくねえ…
「進藤…。」
「違うっ、二人きりになったらそうじゃねーだろ…んー、もう、いいやっ!お前の説教なんて聞きたくねえっ!馬鹿アキラッ!」
ばっ、馬鹿?人のことを馬鹿だとぉ?
だからっ!そういう感情に任せて言い散らかす態度が、子供じみてると言うんだ…
付き合って何年になると思ってるんだ…と、まだブツブツ言ってるうるさい口を塞いだ。
乱暴に引き寄せると、黒髪が跳ねて俺の頬を打った。
最初からこじ開けた塔矢の口の中深く、舌を差し込む。
塔矢の舌を絡め取って強く長く吸い上げると、鼻に抜けるような呻き声が漏れて、腕の中で暴れる体も、振り乱される黒髪も…おとなしくなり始めた。
――激しく抱きたかった。壊れるくらい、抱きたかった。
女にチョコを貰って照れ笑いする塔矢の顔を、俺が与える痛みスレスレの快感に歪ませてみたいって思ったんだ――
「…ぁ、う…ゃ、め…ん…。」
「やだやだ…絶対止めねぇ…ねえ、いいの?いいんだよな?言ってよ、いいって。ヒカル、最高って言って…。」
「ぁうっ!ヒカッ、ル…やぁ…いたッ、ッ…ぁ…。」
押し倒すと、シャツの前だけを引き千切るように開いた。
飛び散ったボタンなんて知るかっ!
上半身の自由を激しいキスで塞ぎながら、下半身をくつろげる。
カチャカチャと、ベルトを外す音が忙しない息遣いの間を縫って聞こえると、塔矢は俺を押し退けようと身を捩った――どうせ無駄な抵抗なのに。
シャワーも浴びずにするのが、コイツは嫌いなんだ。
それがわかっているからこそ、俺はそのまま塔矢をむき出しにしていく。
強く胸を叩いて押し戻すと、また塔矢の黒髪が誘うように乱れた。
その隙に、ズボンも下着も一緒に引き下げる。
ズル…と滑った塔矢の下半身を横目に見ながら、俺は引き抜いたものを放り投げた。
…明るい電灯の元にさらされた塔矢の裸の下半身が、眩しい。
腰が跳ねた勢いで、翻弄されるように揺れた塔矢の中心をすぐさま掴む。
まだ柔らかいそれを絞り上げるように手の平ですき上げると、細く、切ない声が俺の耳に突き刺さった…
その声を、俺の口内に導く。
ムチャクチャに舌を動かして貪る。
息が苦しいらしく塔矢は頭を振ろうとするけど、片手で髪の毛を引いて逃げられないようにした。
恋人として許される、ギリギリの行為。
塔矢の黒々とした瞳が、非難がましく俺を見上げる。
…でも、その潤んだ瞳が余計に俺を熱くした。
キスしながら塔矢自身も激しく上下させると、頼りなかったそれは次第に堅さを増し、先端から滲むもので俺の指を汚すまでになる。
「やぁらし…お前、俺にされるとすぐにこんなんなるクセに…女どもの前ではすました顔しやがって…。」
「どうして…君だって、もらったろぅ…僕ばっかり責められるいわれは、ない…ぁあっ……っ――…。」
「俺の?俺のなんてちょびっとだぜ。しかも義理ばっか…お前とは違う…。」
そこで思いっきり吸い付いた。塔矢のうなじに。鎖骨に。
歯を立てて囲んだ皮膚を更に唇で挟んで、力いっぱい吸った。
音がする。
塔矢の皮膚が俺によって痛みを与えられ、紅い徴を刻まれている間中、音が聞こえる…
肌に吸い付く濡れた音に煽られて、ますます唇に意識を集中させると、腕の中の塔矢も、ああぁ…と抑え切れない声をあげて身悶えた。
…やっと唇を離す。唾液が糸を引く。
解放された塔矢の肌には、紅い紅い痕が残っていた。
出来立てほやほやのキスマークは、俺の唾液で光って鮮やかだ…
「一つ目…。」
「しん、ど?…は、ぁ…。」
俺の呟きが聞こえたんだろう。塔矢が頭を起して俺を伺う。
「なに?…今夜俺がどんなことするつもりか、お前、怖いの…。」
「ど、んなこと?君…また、去年みたいに…僕を閉じ込めて…ぁ…今年は駄目だ…明日から泊まりの仕事、が…。」
「ふぅん…それがどうした?俺がお前の都合なんか思いやってやるとでも思ってんの?…今日は駄目だ…今日って日だけはっ…。」
今度は、塔矢の足首を掴んだ。
細い足…すね毛なんてほとんどない、スベスベの足。
そこを掴んだ手に力を込めて高く掲げると、塔矢の両足が裂かれて悲鳴が上がった。
でも俺にはもう、塔矢の声は全部甘く聞こえる。…いや、何かをねだっているようにも、聞こえる。
今度は、くるぶしの内側に吸い付いた。今まで一度もキスしたことなんかない場所。
くるぶしの輪郭をなぞるようにゾロリ…と舌先で舐めると、掴んだ塔矢の足の先、5本の指が思いっきり曲げられたのがわかった。
コイツの脚はすげえ綺麗…流れるラインが彫刻みたい…
くるぶしから昇って、その膨らみが始まる場所の内側にまた吸い付いた。
塔矢の脚が、そこに続く腰が、上半身が、まるでウェーブが広がるみたいに見事にしなった。
「これで、ニつ目…。」
「ん…え?…何て…。」
「だから…今夜は96個、痕をつけるの…。」
「まさかっ!本気で言ってるのか…。」
塔矢が、怯えの混じった目で俺を見上げて来る。
「本気だよ、お前が貰ったチョコの数だけ、キスマークつけんの。それが今年、俺がお前にしたいこと…。」
「無茶を言うな…そんなこと、出来ない、不可能だ…それに、誰かに見られたら…。」
「不可能でも何でも、今、そうしたいからするの。…ん〜、でも朝までかかるかな…この肌に96個も…なんて。」
唇を肌に押し付けたまま、這い上がる。
塔矢の両ふとももがビクビクと左右に揺れ、反射的に俺を挟み込んでは締め付けて来た。
全身で抵抗されているのがわかったけど、俺は構わなかった。
さっき途中で放り出した塔矢の中心を真上から包み込み、滑らかな内股の窪みに唇をあてた。
三つ目のキスマークをつける為に――
◆◇◆
その夜。
部屋には俺が吸い付く水音と、塔矢のかすかな喘ぎだけが満ちていた。
どれだけ吸っただろう――塔矢の肌を。
俺の息がかかるだけで、塔矢は小刻みに震える。
俺が吸っている間は、何かに耐えるみたいに声を押し殺した。
いつも俺に対して言いたい放題、爆発することもある塔矢が、俺から与えられる恥辱と快感を必死で受けとめてくれている。
そのことが嬉しくて嬉しくて…愛撫に、キスに、俺を没頭させたんだった。
途中、俺の愛撫に我慢出来なくなった塔矢を、一度だけイかせてやった。
その時は、口は休憩。
数回、手でしごいてやっただけで、塔矢は呆気ないくらいすぐに昇り詰めたんだ。
俺のつけるキスマークが増える度に、コイツだって快感を膨らませていたのかもしれない。
そう思うと、達した塔矢を見ているだけで俺はとても幸せだった…
「…はぁ…もう、半分はいったかな…。」
さすがに口が痛い。疲れた…なんて段階はとっくに過ぎて、唇も口内も、全部がヒリヒリと痛んだ。
時間の感覚もなかった。一体、何十分くらいこうしていたんだろう…
それでもまだ、止めたくなかった。
塔矢だってこの痛みに耐えてる。
途中からは文句を言うことも、体を堅くして痛みに備えることも、全部放棄しちゃったみたいだ。
しどけなく投げ出された、全身。
時々、もがくようにシーツを這っては波を起す、腕や脚。
ばらけた黒髪は、汗を含んでしっとりとし始めた。
ちょっと休んで、塔矢の体から唇を離す。
見下ろすと――
塔矢の白い体には、たくさんの紅い花びらが散ってるみたいだった…
「ぅあ…こうして見ると、すご…お前、俺が想像してた以上に綺麗だ…はぁ…。」
「馬鹿な…君、満足したか…もう、十分だろう…。」
「うん、何か数はどうでもよくなって来た…絶対96個つけるまで止めないって思ってたけど…ここまで来ると、もう…。」
そっと唇と唇を重ねた。俺に唯一ほっとかれた塔矢の唇は、乾いている。
「ほら、君の唇、こんなに腫れぼったくなって…痛そうだ…下らないことをするから…。」
馬鹿だな、君は…と言う塔矢の口調は、意外なほど優しかった。
「くだらないって言いながら、お前、ちゃんと付き合ってくれるんだなぁ…。」
――そう言えばそうだった。
去年も一昨年も、普段、思い出したら真っ青になりそうなことも、最後まで付き合ってくれて、そして俺を嫌いにならないでくれたんだ。
「毎年、この日に君がおかしくなるのには、慣れた…その理由だってわからない訳じゃない…僕だって同じようにこの日が好きじゃないよ?…でも、多分、君ほど堪えていないだけで…。」
…あ。
駄目だ。
優しくされると、張り詰めていた気持ちが緩んでいく…
俺の弱さも、不安定さも、塔矢には全部わかっている。わかられている。
そのことが急激に俺を崩してしまった…
俺の唾液と、鬱血した肌の熱に包まれた塔矢の体を、俺は深く深く抱き締める。
ほどけていく心が、言葉になってほとばしり出る…
――好きなんだ…凄く好き…死ぬほど愛してる…お前を誰にも渡したくない…
他の誰にも見られるのも、触られるもの、すげえ嫌……
だから、苦しい…
苦しい…苦しい…苦しい…
お前を好きだと思えば思うほど、苦しくて息が詰まる…心臓が止まりそう…
「じゃあ、止めるか?君が苦しいというのなら、止める道もある…来年からは、この日に君がおかしくなる必要もなくなる…きっと、楽だよ…。」
「嫌だっ!やだやだっ…っ…馬鹿っ、馬鹿はお前だ…止められるくらいなら、こんなに辛くねえよ…お前を愛すること、死ぬまで止められないから…だか、ら…ぅ…俺、こんなこと…。」
「わかってる…わかってるよ…もう、十分…君が今つけた痕はこの肌から消えても、僕の心には残るから…ずっと…。」
――僕だって君から離れられない。
絶対に、嫌だ…ヒカルを失っては生きていけないよ…
毎年、鬱陶しいと思いながらも、君が変わらぬ情熱を向けてくれることは僕の悦びでもあるんだから――
塔矢の、甘く掠れた声が耳を慰め、俺は目をぎゅっと瞑る。
目から零れたものを、今度は塔矢の舌が舐め取ってくれた。
俺は、凄く近くにある塔矢のその頬を両手で包み込むんで、目と目を合わせた。
切ない視線が絡まり合う…
鼓動が早まる…
先に微笑んだのは、塔矢の方だった。
ちょっとムッとしてるような、ちょっと照れ臭そうな微笑――
俺は、塔矢が最中に見せるどんな顔も好きだけど、色っぽい顔と同じくらい、妙に幼い、作っていない笑顔も大好きなんだ。
「さあ、僕に好き放題した罰だ。今度は君に刻むよ…とても君が貰ったチョコの数なんて無理だけど…でも、感じてみろ…素肌を吸われ続ける感覚がどんなものか…。」
塔矢の唇が、俺の胸元に降りて来る。
嬉しさの余り目を瞑ったら、また、熱い涙が目尻に滲んだ…
塔矢の言う罰を甘んじて受けようと、俺も覚悟を決める。
どうせ途中で我慢出来なくなって、俺たちは繋がるに決まってるし、さ…
進藤の肌に吸い付くたびに、彼の体が震える。
その振動が伝わると、僕も震えるくらい嬉しかった。
キスマークをつけ続けるって、思ったよりも大変なことだ。やってみて初めてわかった。
はぁ…と合間に零れる溜め息が増え、段々と力が抜けそうになる僕に、進藤が熱っぽい視線を送る……
「ねえ…も、いいだろ?お前も大変そうだし…それに、俺、我慢出来ない…ほら…どうしてくれるんだよ…吸われたとこよりも、もっと痛いんだぜ、こっちの方が…。」
手を引かれて握らされたそこは、もう堅く、太く、限界まで育ち切っていた。
まさに彼の欲望の深さを示す、熱の塊のようだ……
ぎゅうっ…と絞り上げると、彼は背中を丸め、僕の肩に指を食い込ませ、呻き声をあげた。
…そういう君は、とても色っぽい…見ている僕の欲望まで膨らむようだよ――
「凄い…もう、僕の指が滑ってしまうくらい…君、先から出してるよ…トロトロした、いやらしいもの…。」
「アキ、ラッ!もっとしてっ!強く…っ、っ、っ…お前の手、イイ…イイ、ぁぁっ…。」
多分、その数は二桁にもならなかったと思うが、僕は進藤の肌に紅いしるしを刻むことを諦め、覆い被さって来た彼に全てを預けることにした。
…して、と言いつつも、結局彼はいつも能動的だ。
彼のものと、僕のものと。
二つを束ねて握り込むと、勢い良くすり上げ始めた――僕の期待通りに。
「っあ!…ヒカル…ぅ…。」
「イ、 こ…一緒に…お前にかけるよ、いっぱい…ね?」
かける…とは、そうか…僕の上に出すんだなと思った途端、彼に汚される瞬間の自分の姿が頭に浮かび、それが酷く僕を刺激した。
悲鳴に近い喘ぎに合わせて、腰が脈打つように激しく揺れる。
進藤を煽りたかった訳ではなく、自然に体が動いてしまった。…そうなってしまった。
すると彼も僕の名前を呼んで、上下させる手にますますエネルギーを注ぎ、熱い塊二つは溢れる先走りを混ぜ合わせながら解放の時へと駆け昇り始めた――
途中、激しい動きについて行けなくなった進藤の手がズルリと滑ってしまい、宙に放り出された僕らの熱芯は、まるで不満を訴える生き物のように大きく跳ねた。
それが絡まり合っては互いの腹部を叩き、予想もしていなかった刺激を生んでくれる……
追い掛けるように僕も手を伸ばす。進藤も伸ばす。
もう、どちらの手によって擦られているのかわからない、一種の錯乱に近い状態の中。
ほとんど同時に達した僕らの体からほとばしり出たものが、進藤の予告通り、僕の腹に、胸に、熱く降りかかる……
数回に分けて断続的に飛び散る白い飛沫が、その視界までも羞恥に染めて、僕は真っ白になった。
「ぅああぁ…す、げ…まだ、出る…ほら…見て…先が、踊ってるみてぇ…。」
「いや、だ…見るな…ヒカル…。」
「あちこちに、飛んでる…ああぁ、見てよ、アキラ…お前の紅いとこに、白いのがかかってる…俺とお前の…。」
綺麗だ…紅い花びらに降りかかる、白い雪みたい――
よくもこんな淫猥な状況を、そこまで飛躍した表現に出来るものだ。呆れる。
しかし、そっと目を開けて伺うと――
確かに僕の体に散った二人分の欲望の証は、紅い花を汚すというよりも、美しく彩ろうと散りかかっているようにも見えた……
「…あ、落ちる…。」
「や、ぁ…ん、ん…。」
進藤が、僕の腹から脇腹へと流れ落ちていく白い液体を、指先で受け止める。
そのまま掬い上げて僕の腹の上に戻しながら、辺り一面に広げて行った。
ただでさえ脇腹は弱いのに、ヌルヌルする感触に震えが起きる。爪先まで痺れる。
「お前の体…上気して、薄いピンク色だぁ…紅いのが浮き上がって見えるよ…。」
薄く色づいた上半身に広げられる、粘つくもの。
それ自体というよりも、進藤のいやらしく這い回る手、そのものに感じさせられていたのだろう。
僕は上がった息を整えようと必死になるが、どうしても胸が上下するのを抑えられない。
自分の手を押し返す僕の呼吸を塞ごうと、また進藤が降りて来た。
僕らは達した余韻を味わいながら、しばらくは口付けに没頭し、淫らな状況に蕩かされた四肢を緩やかに絡ませ合った……
その内ふと、進藤が唇を離し、僕のうなじを吸った。
あ…と、思う間もなく、痛みの後に甘く、気だるい波が押し寄せる。…いや、痛みが快感に変化したというべきか。
「へへ…これで何個目だろ?も一回、お前の体中を探って、数えよっかな?」
「君にだって、まだまだ…。」
「俺はもういいって…じゃなくて…あ、あのさ…アキラ…さっき、綺麗だった…お前の紅い点々の上に…俺たちのが、ピュットピュッて、かかってくの…見てるだけで息が止まりそうに悦かった…。」
だから…
――だから?
うん、だからね…今度は背中も、したい…さっき、後ろにもいっぱいつけたから…紅いの…そこに、俺のを…白いの、を…
それは、自分から放たれるものをさっきのように僕の背中にかけたいと、そう彼が要求しているのだと理解した途端――
体の奥の奥が、甘やかに疼いた。
僕は深く息を吐き出てから、静かに言う…
「このままうつぶせになるのか?シーツ汚れるけど…。」
「ご免、ご免って、アキラ…でも俺が後で何でもするから…今は背中、見せて…もっともっと見たい…俺がつけた痕が、白く染まるトコ…。」
愛しいひとの濡れた声は、なけなしの羞恥や抵抗など完全に打ち砕く力を秘め…
僕はそっと体を返し、彼に恥ずかしい背中を晒したのだった――