― 桜色探し ―
「お帰り〜、遅かったな!待ちくたびれたぞ〜!」
「進藤?なあんだ…君、もう酔ってるのか?」
見ると、進藤はソファにだらしなく寝そべっている。
テーブルの上には、ワインのボトルとグラスと、それからつまみが少々。
僕は上着を脱いで椅子の背にかけると、ネクタイを緩めた。
疲れているせいもあるが、着替えるよりも、このまましばらくは進藤の傍にいたい気分だった。
ソファの背越しに身を乗り出し、彼の柔らかい髪を撫ぜる…
「お土産があるのに。いただきものなんだけど…ほら、君、甘いもの好きだろう?」
「わーっ、プリン?ムース?これ、いちごが乗ってる!このピンクの四角いツブツブは?」
「さくらゼリーだって。綺麗だよね。」
「ふんわりさくらの香りがする…容器もピンク色だし、さくらの模様が入ってて可愛いじゃん。」
「いかにもこの季節の限定だな。」
「何か…食べるのもったいない…。」
子供みたいなこと言うなと、僕は小さく笑ってその場を離れようとした。
すると、予想外の力で腕を掴まれる。
「お前…今日のシャツ、綺麗なさくら色だ…スッゲエ似合ってる…美人…。」
僕は今日、本当に薄いピンク色系のシャツを着ていた。
さくらの時期に合わせた訳ではないが、自然とこの色を選び、この色に合うネクタイを選んでいた。
―――さくら色、もう一個みっけ。
そう囁いた彼はそっと目を伏せ、僕のシャツの襟に唇を寄せた。
彼の温かい息が僕の首筋にかかり、震えが起きる…
思わず僕は彼の頬に手を置き、包むように、愛しむように、手を滑らせた。
―――ここも、さくら色。
次に、彼は頬に置かれた僕の指を取ると口に運び、軽く爪を噛んだ。
体の奥に灯った火が、少しずつ大きくなる…
―――君だって、さくら色のほっぺをして。…この、酔っ払い。
まだ湿った口内で弄ばれている指を動かし、進藤のいたずらな舌を突っついた。
「この前二人で花見会をぶっち切ったからさ、代わりにさくら色探ししよっか。」
「部屋の中で?どこにさくら色なんて…。」
「もっとあるよ。お前の体には、もっといっぱいあるもん…。」
さくら色の場所が、と…意味深に、淫靡に、囁かれる。
そのまま口から引き抜かれた僕の指は、進藤のさくら色した場所をなぞるため、誘われるように動いたのだった。
「見つからなければ、作ってもいいね。さくら色…。」
この、熱い熱い肌の上に―――
顎から首、そして胸元へと静かに降りた僕の指に、今度は進藤の方が体を震わせ、目を細め…
彼からの答は、切ない溜め息で返された。
出張先で、進藤に似合いそうなネクタイを見つけた。
それは薄いピンク色と、やっぱり薄い紫色が入り混じった複雑な織りだが、光沢があって上品なものだった。
さくら色…と言えば、そうかもしれない。
…どうしよう。進藤は気に入るだろうか。
それ以前に、誕生日やお祝いでもないのにネクタイなんて送っても、変に思われないだろうか。
僕らは、付き合い始めて日が浅い。
友達同士の頃も、恋人同士になってからも、モノをあげたりもらったりしたことはなかった。
男同士でそんなことをするのは、どうにもそぐわないというか慣れないというか…
素っ気無いくらいで丁度いいんだ、みたいな雰囲気が僕らの間にはあった。
一度はその店を出て、でも、再び戻って。
また離れてカフェでコーヒーを飲みながら考えているところに、進藤から電話がかかった。
既に、悩み始めてからゆうに三十分は経っていた。
「よう、塔矢。元気か?仕事、無事に終わった?」
「うん、明日には帰るよ。君はどう?」
「俺は…俺は、ちくしょーって気分!」
「…は?」
「さっきさ、テレビ見ててすげえ面白い場面があって…俺、何気に後ろ振り向いて『なあ、塔矢』って…いもしねーお前に話し掛けちゃったよ…。」
だってお前、俺がテレビ観てる時、いつも斜め後ろに座ってるじゃんか…と、拗ねた声が言った。
「そうか…。」
「あーーーっ!どうしてお前、三日も出張なんだよ!?俺、休みもあったのに!付き合い始めてからこんなに離れたの初めてだから、どうしていいかわかんない…いつもお前が傍にいるような気がして、俺…バカみたいに独り言ばっか言ってる…。」
「進藤…。」
「やっぱちくしょーだぜ。こんな予定組みやがった事務局にちくしょー…。」
胸の奥が、まるで桜の枝が春風に揺さぶられるみたいに、ザワザワと動く…
「でも、もっとちくちょーなのはさ、こんなくだらねえ電話一本お前にするのに、三十分も悩んでるオトメな俺だぜ。…じゃあなっ!早く帰って来いよっ!」
そして電話はブツリと切れた。
突然のことで、さよならを言う暇もない。
最初は呆気にとられ、それからゆっくりと彼の言った言葉を反芻し…
何だ…そうか…
僕が悩んでいた三十分間、進藤も僕のことを考えていたんだ。
二人とも、同じ時間、同じだけ、相手のことを考えていたんだ。
そう思うと僕は浮かれた気分になってしまい、気付いたら凄い勢いで駆け出していた―――あの店で、進藤に似合うさくら色のネクタイを買うために。
…恋する気持ちは春風に似ていると、ふと思った。
「やっぱり、お前の体で一番綺麗なさくら色は、ここかも…。」
「ちがっ!やっ…や、だっ…しんど…。」
「だめ。いつも見せてくれないじゃん…今日はちゃんと、見る。」
「ぁあ…いやだって…恥ずかしい…も、だめ…。」
四つん這いにされ、腰を高く持ち上げられる。
そこを進藤に向かって突き出すような格好は、眩暈がしそうなほど、羞恥の極みだ。
…けれど。
逃げたくても太ももを両手でガッチリと掴まれているから、僕は上半身を仰け反らせ、もがくばかりだ。
ピチャ…ピチャ…グチャリ…ピチャ…ジュ…
進藤が、その場所を舐めている。
広げた舌で周辺を濡らし、僕に羞恥と快感を同時に与え、その合間にはふうふうと荒い、動物的な息を漏らしている。
「恥ずかしいなんてないよ…っはぁ…ここ、綺麗なさくら色だもん…蕾なんて言うけど、ホントに花の蕾みたいだ…んは…小っちゃなシワが寄って、すぼまってる…可愛い…すっげえ可愛いよ、塔矢…。」
「…あ、あ…も、やぁ…離せ…。」
「だめだってば。今夜はここのさくら、咲かせるの。」
「っ!君、まるで…オヤジみたいな…。」
ナンとでも言えばと嘲笑うような声が聞こえ、すぐにまた、そこに濡れた舌を感じる。
今度は、舌先でこじ開けるようにしつこく突付かれた。
力を入れて抵抗を試みるが、前を刺激されると呆気なく脱力してしまう。
「お願い…そこは、もう…っ…ん、ん…。」
しかし進藤は浅く差込んだ舌先を内部でヒラヒラとうごめかせ、唇全体を使って入り口の皮膚に吸い付いた。
時に強く。時に優しく。
初めて与えられる「屈辱」と紙一重の愛撫に、もう僕の下半身は溶け出して崩れ落ちてしまいそうだ…
「ああ、お前…前もトロトロに濡らしてるけど…ほら、ここだってもっと濃いさくら色に染まって…綺麗に、開き、始めてる…。」
もう一度、浅ましい音を立ててそこを吸われた。
舌先が、周辺をザラリと掃いていく。
余りの刺激に思わずそこをヒクヒクさせてしまい、もう僕の理性は焼き切れそうだった。
「もう、待てない…しんど…っん…ぁ…。」
「わかった。最高のさくら色見せてもらったから、俺も満足。…幸せ。」
ヌルリ…と前を指先で弄られ、皮を斜めにひねるようにしてすかれ、強烈な快感にあられもない声をあげた時―――
進藤が押し挿って来た。
散々辱められ、解されたそこは、彼を受け入れてやっぱり、内壁の襞全部で悲鳴を上げて悦んでいる。
そのことをまた、僕は新たな羞恥と陶酔感とともに感じていた………