オガヒカアキテイスト、しかもヒカルが黒いです。
ここまでいらしてくださったということは、これまでの警告を読んでも大丈夫と判断されたのだと思いますが・・・
もう一度、お尋ねします。
ヒカルがアキラ以外の人と触れ合ったり秘密を持ったりしても大丈夫ですか?
この段階でもNGだと思われたらすぐさま引き返してくださるよう、くれぐれもお願いいたします。
― 白い花 ―
進藤ヒカルと同席するのは、一年に二、三回もあればいい方だろう。
門下が違うし、年齢も格も違う。
アイツの碁には常に関心を持っていたが、最近になってアイツが酒が飲める年に達しても、俺から見ればまだまだひよっこだ。
俺が碁以外の部分で進藤に興味があるとしたら、それはSAIの謎に関してだ。
いつしか進藤と二人並べば、俺は必ずSAIのことを口にし、それを進藤があしらうというお約束のようなやり取りが生まれた。
今夜も然り。
だがいつもと違ったのは泊まりの仕事で一緒になり、進藤が俺の部屋に遊びに来ていたという、これまでにない状況だったということだ。
布団がすぐそこにあるという気安さからか、俺たちは早いペースで飲んでいた。
「も〜、緒方先生、おんなじネタで絡むのもいい加減にしてくれよ〜、だからSAIなんて…」
「聞き飽きたぞ、そのいい訳も…も、いいから…っ…」
堂々巡りを止めないのも、既に二人がベロンベロンの証拠だ。
風にあたりたくなった俺は、縁側にしつらえられた応接セットに腰を下ろし、ローテーブルに置かれた碁盤に目をやり…
不意に、ある記憶が鮮やかに俺の脳を占拠した。
「そうだっ…確か昔も、お前と…こんな風に…」
「えっ…」
「まだ、お前は子どもだった…だから飲んでいたのは俺の方だけで…何を打っているのかも、最後の方はわからないくらい…」
「緒方先生…」
「まるでSAIのような打ち筋だと、俺は…そこで、記憶が…」
進藤が息を呑むのがわかった。
ゆっくりと頭を上げると、薄茶色の色素の薄い瞳にぶつかる。
コイツ、昨日は一日中棋院の若手連中とフットサルをしていたと言っていた。
今だって、着ているものだけで判断すれば学生の旅行でしかない。
どこからどう見ても現代っ子らしい若者なのに―――それなのに進藤ヒカルは突然、老成した空気をまとうことがある。
「先生、可愛いなぁ…」
「な、なにっ…」
「飲めばSAISAIって…もう何年経っていると思うの?そんなに…忘れられない?」
静かに俺に近寄っては、目の前に膝をつく。まるで騎士が主人にかしずくようなポーズで。
そして進藤は、俺の目を下から覗き込むようにして…
「何だか俺、酔っちゃったみたい…妙なこと口走ってもさ、明日になったら忘れて?」
「し、ん…」
急に息苦しくなった。アルコールが一気に回って、呼吸が早く、浅くなる。
「緒方先生は知らないけど、先生は望みを果たしていた…俺は、春が来るたび胸が痛んだけど、先生はそんなことも知らないで…まるで無垢な気持ちのまんま、アイツを求める―――」
そんな先生のこと、アイツも気にかけていたんだろうね、俺以外に優しさを見せたのも先生にだけだったかもしれないよ?と、進藤の声が心の感じやすい部分を撫でて行くように、耳から滑り込んで来る。
…ちょっと待て。
一体お前はいつから、こんな大人びた顔をするようになった?
いや、十分大人である年齢だが、アキラ君と一緒にいるところを目にするせいか、どうしてもお前は子どもだと思ってしまうところがある。
だが、どうだ?
目の前のコイツは、全く違う顔で俺をとらえている。
頬もそげ落ちてシャープになり、背も首も伸びた。
クッキリした目鼻立ちに、満面の笑顔が似合う爽やかな口元もいい。
更に、長い睫毛の向こうで揺れる小動物のように大きな瞳は雄弁だ。
それだけでも十分なのに、その上コイツは人の心の奥深い場所へ、抉じ開けるのではなく自然に踏み込んで来やがる…
「緒方先生…」
ゾクリと。名前を呼ばれただけで、背筋が震えた。
ひそめた声音まで、それまでとは全然違う。
寂しげで、憂いを含んだ声は、聞く者に何かを訴えかけ、否応なく惹き付けられた。
「先生は特別な人なんだよ…もっと、自信を持っていいんだ」
その時、進藤が背を丸め、膝に置いた俺の手に甘えるように頬刷りをした。
心臓が駆け出したが、俺にはそれを振り払うことが出来ず…
眼下の進藤の頭に躊躇いがちに手を伸ばすと、誘うように揺れる柔らかい髪を、そっと撫ぜ続けるばかりだった………
それから俺は進藤ヒカルが一層気になるようになり―――数ヶ月が経った。
「スゲエ…こんなとこ、ドラマの中だけじゃなくてマジであるんだね?」
「そんなに珍しいのか。ま、無理もないか。お前もタイトルをとったんだ、こういう経験もいいんじゃないか」
懇意にしている料理屋の個室に、進藤を招待した。
丹精された庭も、控え目な照明に照らされて美しい部屋だ。
食事が供されるたびに目をパチクリさせる進藤に、思わず苦笑する。
進藤と二人だけだという浮き立つ気持ちと、これからのことを思って沈む気持ちとが、複雑に入り混じっていた。
それでも、怪訝そうに料理を味わいながらも全てを平らげていくヤツを見るのは、小気味いい。
和食だがワインを頼んだ俺のグラスも、どんどんあいていく。
「ご馳走様でした!…さて。緒方先生、そろそろ本題に入れば?タイトルとったお祝いって訳でもないよね?」
進藤の言葉が合図でもあるかのように、そこで俺は煙草を取り出した。
「お前に聞きたいことがある」
「聞きたいこと…今更、SAIとか言わないよね?」
「それは今はいい。そうじゃない」
吐き出した紫煙の向こう。進藤が微笑んだ―――久しぶりに見る、あの顔だ。
あの日からコイツが気になって気になって仕方なくなった俺は、まるで罠にかかった獲物のような気分だった。
俺にはソッチの趣味はない。
…なかった筈だ。
確かに女性とのつき合いも碁を優先させる余り、おざなりでこの年まで来たが、特に不自由も感じなかった。
それでも女嫌いとか、男性の方が好きだとか、そういうことはない。
なのに、あの夜から進藤ヒカルが俺の中に住みついて、離れなくなってしまった。
実際は進藤に何かを働きかけるほど、俺も愚かではない。
ただ、コイツのことをこれまで以上に追いかけるようになっただけだ。
それはSAIの謎にもモヤモヤさせられていた頃とは違う種類の渇望であり、苛立ちだった。
進藤は立ち上がると、縁側へと歩いて行く。
手を伸ばせば日本家屋の低い天井など届きそうなくらい、背が伸びた。
筋肉質ではないが、逞しい背中になったと後ろから眺めながら感嘆する。
「あの白い花…ほら、一輪だけ咲いている、あの大きな…」
「ん?」
「あれ…塔矢に似てるな」
「…アキラ君に?」
「そう、塔矢に似てる。―――緒方先生、アイツと俺のこと、聞きたいんだろ?」
クルリと振り向いた進藤は、真っ直ぐに俺を見詰めて言った。
「ねえ、緒方先生。ここ、決して安くないよね。簡単に予約も取れないんだろ?そういう類いの店だよね」
俺は黙って聞いていた。
下心を見抜かれたとか、そういうことではないだろう。
「こんな店に招待されたんだ。先生の真剣さが俺にだってちゃんと伝わって来た」
だから俺もマジに応えるよ、先生の本気に―――
胸が張り裂けそうに高鳴った。
それは現実になって欲しくないことが、今しもそうなろうとしている瞬間の、恐怖そのものだった。
「アキラを愛してる」
落ち着き払った声だった。
しかもアキラだと?呼び捨てにしやがって!生意気な!
「誰に反対されても一生離れる気はないよ。俺達は愛し合ってるんだから」
「そうか」
そうか…
矢張り、お前達はそうだったのか…
この数ヶ月、進藤を追いかければ当然、アキラ君も視界に入って来た。
二人の間に流れる独特の空気を最初は否定していたが、最近では認めざるを得なくなっている。
だが、俺は緒方精次だ。
ここで弱さを見せる訳にはいかない。
死刑宣告を聞いた訳じゃあるまいし、落ち込んだ顔だけはするまいと、俺は必死で平静を装った。
俺にはわかっていた、ちっとも驚いてはいないとばかりに小さく息を吐き、煙草をねじ消す。
それをじっと見ていた進藤が、口を開いた。
「でも緒方先生、よくわかったね。気付いているのは、先生だけ?そんなに俺たち、わかり易かった?」
堂々と愛を宣言しても、多少の不安はあるのだろうか。
「知るか、そんなこと。ただ、俺は中国に行ったっきりの先生達にアキラ君のことを頼まれているからな」
「心配だった?アキラのこと?だったらどうしてアッチに確かめないのさ、俺の方じゃなくて」
「…っ」
いきなり核心を突かれたような気がした。
指摘されてみれば、ここに誘うのはアキラ君の方でもいい。
俺は答えない。
沈黙は、俺の精一杯の虚勢だったかもしれない。
二本目の煙草に火を点ける。
すると進藤は、あの時みたいに俺の傍に片膝をついてしゃがみ込むと、顔を近付けて来た。
震える息遣いまで感じられる距離だ。
「先生、覚えてる?あの夜、俺が言ったこと…忘れちゃいないよね。だから先生はあれから俺のこと、気にするようになった…」
先生の視線はちゃんと感じていたよと、こっちが真っ青になりそうなことをサラッ…と言い放つ進藤の微笑みは、ますます輝く。
「アイツは緒方先生のこと、特別に思ってた。アイツが俺を除いて最後に打った人間だ。だから先生は、俺にとっても特別なんだって」
アイツとはアキラ君のことではない、あの夜、俺達の間で語られた人物のことであるのは間違いない。
SAI…
「緒方先生、打とう?先生は俺の碁の中で、アイツと再会出来るし、俺は先生と深く繋がっていられる…」
碁打ちとしては当たり前の会話だ。打とうと言われているのだから。
だが、まるで誘惑されているように思えるのは、俺の期待から来る妄想なのだろうか。
「進藤…俺が、打つだけじゃ足りないと言い出したら…お前はどうする?」
とうとう口にしてしまったと、苦いものが胸に広がるのを感じながら煙草を揉み消す。
すると、とんでもないことが起きた。
進藤の手が俺の肩に乗り、その唇が俺の頬に触れ―――すぐに、濡れた感触は去っていったのだ。
情けないことに一瞬、頭が真っ白になった。
除ける間もなければ、そんな余裕もなかった。
「ご免ね?緒方先生。ここまでだ。これ以上、したりされたりする俺は全部、アキラのものだから―――」
「進藤っ!」
目の前の体に抱き付いて、そのまま押し倒した。
いや、勢い余って二人一緒に倒れ込んだといった方が正しい。
「あっ…せんせ…苦し、っ…―――ンッ…」
止めて、離してと言いながら、抱き締めたしなやかな体はきっぱりと抵抗するでもなく、進藤はただ足をバタバタと動かし、俺の背中に回した腕を上下させた。
若者らしい汗の匂いと、コロンの爽やかな香りの入り混じった体臭が立ち昇り、酒と煙草の匂いを呆気なく凌駕した。
これが進藤ヒカルの、匂い…温もり…そして、抱き締め返す、力…
アキラ君とのことがはっきりすれば、それで全てが終わりだと思った。
…終わりにするしかないじゃないか、どう考えても。
なのに―――これはどうしたことだ?
俺はアキラ君とのことを認めて尚、進藤ヒカルに惹かれている。
いや、むしろ…もっともっと、深みにはまった気さえする…
進藤の方が二枚も三枚も上手かもしれない、タチの悪いヤツに捕まってしまったと俺が心底悟ったのは、ヤツが耳元で甘えるように囁いた言葉のせいだった。
これでもう先生は―――先生だけは―――何があっても、アキラと俺の味方でいてくれるよね?
俺はその夜、媚薬にも似た進藤の与える毒を進んで飲み干した。
「白い花と言えば・・・アキラよりもアイツの方がもっとイメージだったかな」
後からヒカルがポツリと言ったり・・・?
結局、ヒカルとアキラの良き理解者というポジションを自ら望んだことにした緒方さん。
碁では負けないというプライドも、支えてくれたに違いありません。
ある意味、緒方さんらしいかな…と思います。
でもやっぱり言いたいのは―――緒方さんファン、ヒカルファンの皆さん、ご免なさい!!
さて、この二人は時々はアキラ抜きで二人きりで打ったり・・・するようになるんじゃないかな。
勿論、浮気なんかじゃないけれど、二人とも人に言うつもりはない。
肉欲は存在しない、だけど相手を求める気持ちも消えないし、誰も代わりを務めることは出来ないという
曖昧で不可思議な関係。
こういうのもオガヒカアキって言ってもいいものか(^^;;;
長いことヒカ碁で活動して来たけれど、こういうネタを書いたのは初めてで楽しかったです。
いつも書いているヒカアキのヒカルとは別世界のヒカル、というか(逃げた、笑)