― KISS ―









「今のキスで……何回目だと思ってる?」

「……へ?」

「だからっ!今、君が僕にしたキスで一体何回目だと思ってる!?」

「あ、あのさぁ……やっぱ……怒ってた、訳?厭だったんだ?俺がキスするの……。」

「厭だったら今迄半年もの間、黙ってされてる訳ないだろうっ!?だから……半年もの間……君が何回キスしたのか君自身は覚えているのかって、訊いてるっ!!」

「お、怒るなよ〜、えっとぉ……何回くらいしたっけか……う〜ん、えっと、初めてしたのが半年くらい前でそれから……二度目は、その一週間くらい後、だったかな?」

「……その程度の記憶しかないんだな。いや、いい。どうせ覚えてるなんて期待しちゃいない。今日の今のキスで通算20回目だっ!!」

「ええっ!?そんなになるのっ!?俺達、そんなにたくさんキスしちゃったんだぁ……(うっとり)。」

「たくさん……そうだな、たくさんしてくれたな、俺達、じゃないぞっ!!君が、僕に、勝手に、許しも無くキスして来たんだ、この半年もの間!20回も!!(眉間にシワ)」

「わわわ〜、ご、ご免っ!!お前が何にも言わねえからさ、いいのかな〜って、キスくらいまでは男の俺でも許されるのかなぁって。」

「進藤、僕は日本人だ、外国人ならまだしも、君に唇にキスされて平気だと思っていたのか?え??(にじり寄り)」

「だって俺、もう限界だったんだもん……お前と二人きりになったらどうしても我慢出来なくって……本当はちゃんと覚えてるよ、どのキスも全部……お前があんまり唐突に言い出すからさっきは慌てたけど。最初は二人でツーリング行った時だろ?川原でさ、ススキの背が高くって俺ら二人を隠してくれた……。」

「そうだ。君は人目につかないのをいいことに、川原で僕にキスして来た。断わりもなしに、そしてその後に謝りもせずに。……ああ、それは今更いいから、それで?次はいつ、どこでだったか覚えているか?」

「覚えてるさ、お前の碁会所を一緒に出て、エレベーターの中……だった。短い時間だったから、どうしようかって迷ってる暇もなくって……ドアが閉まった途端、えいっ!ってさ。いつドアが開いちまうかってドキドキしちゃってさ〜。」

「非常識極まりないな。知ってる人、誰に見られるかもわからないあんなところで。しかし君はその次も心臓に悪い場所でして来た。」

「えへへ〜、三回目だろ?映画観に行ってお前んちまで送って、夜、月が綺麗で……バイバイ言おうとしたら、お前の目にも月が映ってるのが見えて、それが揺れてるみたいに……スゲー綺麗でさ……ついつい……。」

「ついついするには危険だろうが、僕の家の前でなんて!?お隣のポポちゃんは夜のお散歩が好きで、大体あの時間なんだ。もしお隣に見られでもしたらと気が気じゃなかった!!」

「ポポちゃんって、あの変な服着せられた気の毒な犬か?飼い主のバーサンとお揃いの水玉模様の服を見た時は、吹き出しそうだったぜ、俺!しかも赤に白の水玉だぜ?バーサンの服の方は丸が楕円に引き攣っちまって……(忍び笑い)。」

「……いいから、先を続けろ。4回目はいつどこでだった?(不機嫌が加速)」

「ちゃ〜んと覚えてるぜ?その日はな〜、お前の誕生日だったの。棋院の帰りに待ち合わせしてメシ食いに行ったじゃん?誕生日だってのお前も言わねえし、俺も知らん振りしてさ。……あれって、わざと言わないでいたの?恥ずかしかった?それとも俺の出方を見てたの?……わわ、そんなん睨むなよ〜。」

「それは4回目じゃない……5回目の話だっ!!」

「え、ええ〜っ!?あれって5回目だっけ?そんな筈はねえよ。俺の記憶の中じゃあ確かにあの食事の後、最後にプレゼントを渡したらお前がスゲーびっくりして、でも嬉しさを隠し切れないって顔したからさ、こう込み上げてくる笑みを堪え切れなくって頬がピクピクしてるっていうかさ……それ見たら我慢出来なくなって店のトイレまで引っ張ってって、誰もいなかったからトイレの中でして、ああ、男同士って一緒にトイレ入れるじゃん、ラッキーとか思って……ッイテッ!!叩かなくてもいいじゃんか〜、あれ〜、じゃあ、4回じゃないの?いや、絶対にあれが4回目だってばっ!!」

「違う……僕にはわかる……誕生日のキスは5回目だ……(ドスのきいた声)。」

「お前……どうしてそんなことがわかるんだよ?俺の方が正しいかもしれないじゃん?いくら記憶力が良くたってそんなに何ヶ月も前のこと、はっきりと覚えてるって何で断言出来るんだよ?」

「記憶しているんじゃない。記録しているんだ―――僕は君にされた日は、日記に必ず書いておいたんだ。一つ残らずだ。」

「マ、マジで?お前、携帯のメモとかじゃなくって、日記帳に書いてんの?(若干引き気味)」

「そうだ。君がどんな気持ちでこれまで僕にこんなことをしてきたのかわからなかった。混乱しそうになる頭を冷静に戻す為に、その時の状況を日記に書き残したんだ。あ、でも心配するな。誰にも見つからないように、ちゃんと細工はしてあるし(作者注――デスノではない)。」

「そういう問題じゃなくって……(絶句)。」

「僕はこの半年、君にキスされて来た歴史を何度も振り返ったよ、その日記を読み返すことで。そしてますます不可解になった。どうして……どうして君はこんな触れるだけの……挨拶みたいなキスをずっと僕にして来るんだろうって。」

「……塔矢。ね、聞かせて。その日記を読み返すたんびに、どんな気分になった?俺として来たキスを何度も何度も思い出して、お前の心はどんな風になったの?(盛り返し)」

「進藤……。」

「俺、絶対にこれ以上は許してもらえないって、思ってた。だからずっと我慢してた。もっと先へ……ベロ入れるチューも本当はしたくてしたくて。でも一瞬だけお前の隙をついて、盗むみたいなキスしか出来なかった……長い時間、誰にも見られない安全な場所でキスなんかしてたら……それこそ口開けて、それからお前のもこじ開けちゃって……ディープキスしたくなるもん……。」

「だからっ!!どうしてキスなんだ!?どうしてこんなに何度もキスだけで……どうして君は肝心なことを省くんだと、読むたびにどうしようもなく怒りを感じたんだっ!!」

「怒り……だけ?俺はね、キスした瞬間どんな景色の中にいたのかとか、どんな音がしていたのかとか……お前の唇がどんな感触だったかとか……そん時、濡れてたのか乾いていたのかまで、全部覚えてるよ……。」

「………。」

「お前にいつ、どこでキスしようかって、ずっとずっとタイミングをはかってた……そういう時は心臓が口から飛び出しそうにドキドキしてたんだ……そりゃあ、ちょこっと記憶の順番とかは狂っちゃったかもしんないけど。だからお前もきっと……怒りだけじゃないだろ?その日記読んで、俺のキスを思い出してもっと違うことを感じただろ?その時の自分の気持ちや、俺の気持ち……。」

「こ、この自惚れ屋めっ!!君のキスなんて……何も伝えては来ない……凄く中途半端で、悪戯みたいなもので……。」

「塔矢?何だか涙目になってない?声も震えてる……。」

「わからない……こんな半年も……キスだけでほっとくなんて……君の気持ちなんて……。」

「塔矢。そんな筈ないよ。20回のキスをさ、全部全部丁寧に、なぞるみたいに思い出したらきっとわかるって。切ないくらい、俺がお前を好きって。好き過ぎて、失うのが怖くって、だからそんなキスしか出来なかったんだって。……本当はもうわかってるんだろ?」

「この……臆病者の半端者!!君の、せいで……どれだけ、僕が……。」

「ああ、もう泣くなって……俺も泣けてきちゃうじゃん?俺……本当にお前が好き、大好き、すご〜く好き……今迄ずっと言えなくて、ご免な……。」

「僕がどんな男かわかってるだろう?黙ってキスされてた、それだけで、僕が君を受け容れてるってわかりそうなもんだろう?こんな……う……こんな長いこと、僕を生殺しみたいに……っ―――(やっと抱擁、お互いの顔を覗き込んで)。」

「いいの……じゃあ、ベロ入れてもいい?お前のベロも吸っていい?……ぐちゃぐちゃになっちゃうキスして、いい?」

「今迄訊いたことも無かったくせに、今更何を……っ!!……―――っ……。」

「ん、ん、ん―――っ……っは……塔矢、お前……スゲー……激しいのな?ホントは……。」

「馬鹿っ!!まだ終わってないだろうっ!?勝手に口を離すな、喋るな……。」

「キスもいいけど、顔、見せて?どんな顔してキスされてんのか……少しは見せてよ。俺さ、怖いのと照れ臭いので、お前にキスした後って速攻で顔背けちゃって、何事も無かったふりしてたろ?……だからお前がどんな表情で俺のキスを受けてのかなんて……ちゃんと見たこと、残念だけどなかったんだ……。」

「もうキスされてるんじゃない―――僕が君にキスしてるんだ。いや、二人でしてるんだ……だって、ほら……ん―――っ……!!」

「はっ!!……ああぁ……いい、凄くいいっ!!お前のキス、もう俺、おかしくなりそうっ……キスだけで、こんな……う、ウソだろ?」

「どれだけ僕を待たせたと思うんだ?え?子供騙しみたいなキスで散々人を待たせておいて……。今夜キスして来たら絶対に言ってやろうって思ってたよ。20回も……半年も……僕にお預けを食わせておいた罰を受けるんだよ、君は、進藤……(そして又深く、激しく塞ぐ)。」

「こん、な罰なら……俺、いっくらでも受けたい……どうしよう……もっともっとしてえよぉ……誰にも邪魔されないところで……(果たして、ここはどこだ?)。」

「ふん!そんな潤んだ目で、赤いほっぺで訴えて来たって駄目だ。今夜はここまでだ。そうそう君の思い通りになんかいかせるもんか。……まあ、当分はキスだけで我慢しておけ。これからは僕も様子を覗って問題の無い時に仕掛けてやるから、覚悟しておくんだな。」

「うおぉ〜、今度は俺の方が塔矢にいつキスされるのかってドキドキする訳?わあ……どうしよう……二人っきりになる機会をいっぱい作んなきゃ!!」

「そういう問題か?ん〜、でもいつされるか待つのはちょっとワクワクしないでもなかったかな?君と二人で逢う日は……或いは一時でも二人になれそうな日は……覚悟をしてたりして。」

「ええ、な〜んだ。塔矢だって期待してくれてたんだ……そんなに上手だったの?俺のキス……。」

「馬鹿。テクニックの問題じゃないよ、むしろいつどんな状況でというスリルの方が……って、何を言わせるんだっ!?さっさと離せっ!!」

「待って。今夜最後のキスしよ?想いが通じ合って初めてのキスじゃんか……。」

「……うん。僕的には……長かった……っ―――…………。」

「お前、数字にはマジ、うるさいな〜……ね、ね?これは22回目のキス?それとも21回目と一緒にカウントすんの?」

「そんなこと、もうどうでもいいだろうっ!?」

「へへ、ちょっと意地悪言いたくなっただけ……ご免……たくさん待たせて……好きだから……俺、お前のこと凄く凄く……好き……っ!!―――……。」

「僕も君が……ん―――…………(皆まで言わせて貰えない状況下)。」

「ね?さっきの話だとさ、いつかキスより先もありってこと?そゆこと?(唇をくっ付けたまま)」

「ふ、んん……へ、返事を聞きたいなら、すぐに口を塞ぐなっ!答えられないじゃないかぁ……あん……。」

「うう……だって何回してもし足りなくて……も、いいや、喋るの止めよ?(最後は殆ど声にならず)」

「……っ―――ふ……。」

「あ、ん―――っ!!……っ……っ……。」

「ん、ん、ん、ん―――………(永遠に終わりそうにないんで、この辺で)。」












NOVEL