― FERRIS WHEEL―









―――ねえ、今この観覧車に乗ってるカップルのうち、どのくらいがキスしていると思う?お前・・・



 君が悪戯っぽくにやけながら訊いてくるから、僕はムッとした顔を見せる。
 こういう風に言ってきた段階で、キスをしようという魂胆はみえみえだから、それに対して嬉しそうに反応する訳にはいかない。

 僕は、彼に常識と良識を教える役目を担っているのではと、時々思う。
 男同士で観覧車に乗るだけでも、照れ臭くて身の置き所が無い気分で待ち時間を耐えたのに・・・この上キスしているところまで隣のゴンドラの人たちに目撃されたりしたら、とんでなく恥ずかしい。汚点だ。

「馬鹿なこと考えてないで、料金分の夜景を堪能したらどうだ?」
「はあ・・・料金分ねえ・・・塔矢らしいけど・・・いや、金のことじゃなくて、俺に対して外ではつっけんどんを装うところがって意味でさ・・・こんな閉ざされた空間でよ・・・何分も二人きりで・・・なあーんもしねえカップルなんているのかね?」

 又しつこく訊いてきた。
 今度は答えないで、目を逸らして沈黙を決め込む。夜景に自分の気配を溶け込ませてしまうことで、自分が景色の一部になってしまうことで、進藤の欲望をも逸らしてしまおうと努める。

 すると、進藤が僕の足を蹴ってきた。くるぶしの辺りをトンっと軽く蹴って、はっとして顔を上げた僕を、彼も見つめてきた。

 ・・・しまった・・・目を合わせてしまった・・・。

 何をするんだっ!?と、いつもなら怒鳴る筈が・・・息を詰めて見返すのが精一杯だなんて、我ながら情けないけれど。

「こんなところで暴れたら、ゴンドラが揺れてよけいに怪しまれるぜ?」

 進藤は、ゆっくりと体重移動をさせながら、僕の座っている向かい側の席にやってきた。隣に腰をかけて、僕の体には触れない位置でただ見つめてくる。

 雄弁で強い光を放つ茶色の瞳が、夜景の灯を反射しているだけでなく、心の濡れ具合も表すかのようにキラキラと揺らめいていた。
 この瞳に、どうにも弱いんだ、僕は・・・。



 いよいよ進藤の顔が近付いて来るのではと、僕は身構えてしまう。少し肩をすくめて身を引き気味にして・・・。
 でも、次に彼がしたことは、僕の予想を遥かに越えていた。

「なあ、さっき俺が蹴った足首んとこ・・・痛くねえ?」
「・・・ええ?いや・・・別に・・・。」
「だって、こんなごっついスニーカーで蹴っちまったから・・・実は、痛いんだろ?我慢してんじゃねーの?」
「君・・・痛くないって言ってるだろ!?一体、何が言いたいんだ!?」

 変なことを訊くのでますます警戒を強めていたら・・・ふっと進藤の体が沈んだと思ったら、上半身を折って僕の足元を覗き込んできた。
 そして、僕のズボンの裾を手で持ち上げ、今度は反対の手の人指し指を僕の靴下と素肌の間に滑り込ませて・・・指に引っ掛けるような格好で、ゆっくりと靴下を下ろす。
 足首があらわになって、そこがヒンヤリとする。

「・・・な、何するんだ!?進藤!」

 訳もわからずこんなことをされてうろたえている僕を尻目に、進藤は椅子から降りて僕の足元にうずくまった。・・・というより、もう殆どうつぶせ状態だ。
 ゴンドラが、一層コチラ側に傾いたような気がして、はっと周りの様子を窺う。

「ん。大丈夫・・・今はまだ紅くなってない。」
「だから、大丈夫だって言ったろ!?君に蹴られたくらいで腫れたりなんかしないよ!」
「そりゃそうだ。でも・・・これから紅くしてやるよ。」

 そう言うとすぐさま僕のくるぶしに軽く歯を立ててくる。

「あっ・・・!何・・・?そんなとこ、かじるな!!」
「んじゃ、これならいい?」

 今度はくるぶしの出っ張った骨の、その周りを舌先でぐるりと舐めて、それから唇全体でキュウッ・・・と吸い付いてきた。気持ちいいというより、くすぐったい・・・。
 思わず身をよじって足をじたばたさせようとするが、もう僕の動きは予想済みだったようで、ひざまずいた進藤の両腕に僕の膝下はしっかりと掴まれていた。

「こら!離せ・・・こんなところで・・・止めろ・・・。」
「だって上の方で何かしたら丸見えだけど・・・下半身でしてることはさ、見えにくいだろ?」

 そして僕の足首周辺や、そこから這い登ってすねの辺りを舌がなぞる。
 こんなことされて、進藤の頭は僕の足元にあるんだから思いっきり殴ってやれば済むことなのに、かまえた手を振り下ろすことが出来ないでためらっていたら・・・。

「お前の足・・・本当に綺麗だ・・・男の足には思えねえ・・・足首なんてこんなに細くて、白くて・・・すね毛も全然ないしさ・・・。」

 そしてまた、激しく吸われた。

「んんっ・・・!・・・。」
「お前のからだ・・・全部好き・・・大好き・・・はぁ・・・誰も見たことないとこに・・・誰も触ったことないとこに・・・ふ・・・キスすんの、たまんなく好き・・・。」

 僕に聞かせるというよりも、独り言のように溜息を混ぜながら呟く進藤の声に、僕も感じてしまった―――



 ―――進藤は僕の右足を抱え込んで、まるで大事な壊れ物でも扱っている何かの職人のように、いつまでもいとおしげに足首やスネの周辺に指先と唇で愛撫を加える。
 捧げ持つようにされている僕の足が、次第に高く上げられようとしていた。

 ・・・進藤が、昂ぶっている証拠だ・・・。

 僕も、振り上げていた筈の手を、いつの間にか彼の頭に乗せていた。
 やがて吸い込まれるように十本の指が彼の髪の毛の中に絡めとられていくと・・・僕の指たちは、くしゃりと彼の柔らかい髪の毛を掻き混ぜていた。
 進藤を引き剥がしたいというよりも、むしろそのせわしく揺れる彼の頭の動きを味わうかのように・・・。

「・・・しん、どー・・・もう、やめ・・・あぁ、こら・・・。」
「ん・・・んん・・・やだ・・・。」

 こんなところで・・・こんなことをして・・・進藤は、一体何が楽しいんだろう・・・彼の気持ちが、全くわからない・・・。
 ―――でも。
 もっとわからないのは、僕がどうして彼を跳ね除けることが出来ないのかということだ・・・。

 僕のズボンの裾は今や膝近くまでめくり上げられ、布がたくさんの皺を作って溜まっていた。よく見ると情けない格好じゃないだろうか?
 ・・・僕はようやく、なけなしの理性を掻き集め、足に力を込めた。

「もうやめろぉっ!!」
「・・・ってーっ!・・・うう・・・。」

 進藤が派手に尻餅をついて、僕も反動で椅子に投げ出され、ゴンドラが激しく揺れた。僕らは手の届くところに何とかしがみつき、体を支えた。

「こ、こんなに揺れるのはもうご免だからなっ!!さっさとそっちの椅子にかけろ!」

 進藤はいざるようにして、僕の向かい側に戻る。ああ、やっとあるべき観覧車のバランスに戻って、心底ほっとした。

「お前・・・いくらなんでも、蹴り上げはないじゃん・・・お前の革靴の方がよっぽど痛えのに、アゴにモロ入ったぜ・・・。」
「え?そんなの・・・君の自業自得だ!!」

 進藤がアゴを押さえて顔をしかめるから、口では厳しいことを言っても、少しは心配になって彼を覗き込んだでみた。
 ・・・すると、彼の方も顔を寄せて来る。

「ほらほら・・・この辺、見てみぃ?唇、切れてない?」
「どこがだ?んー・・・。」

 夜景を堪能する為に、ゴンドラ内の照明は押さえられていた。よく見えないのをいいことに、僕の視界で進藤の顔が一層アップになっていく・・・。



―――その時、僕ははっと気が付いた。

「進藤!それどころじゃないよ!・・・ほら、僕達、今一番てっぺんに来ていないか!?」

 隣のゴンドラが不意に目に入ったら上半分しか見えてなかったので、振り向いて反対側も確認したら、矢張り上の方が少し見えるだけで、僕らのゴンドラが最上階に来ていることがありありとわかったのだ。

「おお!ホントだ!んじゃあ、ますますキスしないとマズイな・・・。」
「・・・君!どういう脈絡なんだ!?それとキスとに何の関係があるんだ?」
「あのなー。お前には言ってなかったけどな、この観覧車に乗ってるカップルがてっぺん付近でキスしなかったら・・・。」
「・・・キス、しなかったら?な、何なんだ!?」
「あ、マジでやばい・・・ゴンドラが降り始めた。塔矢・・・ちょい目ーつぶって?」

 進藤が僕の両手をとって、まるで今からフォークダンスでも始めるみたいにお互いの手と手を正面から握り合わせるようにするから、僕もその有無をも言わせぬ雰囲気にされるがままになる。
 そして進藤は、揺さぶるようにリズミカルに、グイグイと僕の両手を引き寄せた。必然的にお互いに体も近付いていき・・・僕は不覚にも反射的にまぶたを閉じた。

 ・・・しまった・・・これもいつもの僕の癖を見抜いている、進藤の作戦だったのだ・・・

 思った時には、唇の表面がピリッと痺れるような感覚に襲われ・・・僕らの体には、触れ合った熱い唇を通して、どちらが発信元かわからない電気の流れが起きた。
 ―――全身を駆け抜ける、かすかな快感の予兆だ・・・。



 やっと進藤の唇が離れたと・・・安心したと同時に、取り残された僕の唇には冷たい風が当たった気がして・・・淋しい。

「この観覧車のてっぺんでお前とキスしたかった訳は・・・今夜あそこに見えるホテルのベッドの上でさ、夜通し教えてやるよ・・・。」

 進藤が悪戯っぽく笑いながら、まだ10センチも離れていない位置から囁いた。

 ・・・この謎めいた言い方で、僕の興味をそそったり、けむにまいたりするのも彼の得意技で・・・情けないことに僕は、結構な確率でそれにひっかかるのだった・・・

 ―――でも、進藤の言葉にあった、港にそびえる大きなオブジェみたいなホテルに目を転じてみると、僕にもそこが美しい夜景の中でもひときわ輝いている場所のような気がしてくる。
今夜の起きることへの期待と夢想が、僕の胸を甘く優しく満たし始めて・・・どうやら僕の胸にも、今のキスによって夜の灯がともされたらしい・・・。



 繋がれたままの両手をぎゅっと握り締めると、進藤が嬉しそうにわざとらしく、イテッ・・・と声をあげた―――





















 シャワーを浴びて出てくると、進藤はベランダに出てさっき開けたシャンパンを飲んでいるところだった。
 僕もバスローブのまま、そっと窓から滑り出て彼の横に並ぶ。僕の方をチラリと見たかと思ったら、すぐに夜景に視線を戻すと顎をしゃくって目の前の観覧車を示す。

 ―――さっき僕らが乗っていた観覧車は、今も多くの恋人達に特別な時間を運んでいる。
 ゴンドラの中で消費される、長い人生の中のわずか十数分・・・それが忘れがたい何かになることだってあるだろう―――

「綺麗だな・・・あそこについさっきまで俺らが乗ってたなんて・・・嘘みてーな感じ。小さいゴンドラに二人っきりで乗って・・・あーんな高いところまで昇ったなんてさあ・・・。」
「うん。外から眺めると、不思議だよね・・・。」
「あそこで・・・ガキみたいなキスしちった・・・俺も可愛いよな?・・・へへ・・・。」

 ―――ガキみたいなキス・・・それを聞いて、僕の胸も熱くなる。

 触れ合うだけの幼い、でも優しいキスだった。
 離れた後に・・・追いすがって彼をもう一度求めてしまいそうになるくらい淋しくなって、そのキスの温度が僕にとって最適で・・・そしていつもは忘れていなければ、かえって恋しさに狂ってしまいそうなくらいかけがいのない温もりなのだと・・・思い知らされた。

 あんな幼いキスですら・・・僕らにとっては大事なのだと、何かを教えてくれるのだと・・・そう思うと切なさが溢れてくる。



「塔矢。今日が何の日か・・・お前は覚えてる?」
「え?・・・えっと・・・何の日だっけ?誕生日じゃないし・・・。」

 進藤の問いに面食らってしどろもどろになる。
 今日が特別な日だなんて、そんなこと進藤は今の今まで僕に言わなかったし、今夜誘われたのも記念日を祝おうとかそういうんじゃないと思っていた。ただのいつものデートなんだと・・・。

「ははっ!やっぱ覚えてないか。俺も去年まではそんなに気にしてなかったし、丁度この日会えるなんて偶然も今まで一度もなかったし・・・だから今年はお互い休みで一日デートしてさ、こうして夜も泊まれるなんてスゲー嬉しいなあなんて・・・。」
「進藤、悪いけど・・・僕にはどうしても思い出せない。御免・・・だから教えてよ。」

 進藤は少し躊躇っているようで、所在なげに視線を泳がせている。港から秋の冷たい風が、僕らのバスロ−ブを羽織っただけの頼りない体にサーッと吹き付けてきた。

「・・・あのな、今日は、お前と俺が中3の時に名人戦の予選一回戦で闘った・・・あの日だよ。お前と本当に久しぶりに打った・・・そして公式戦では初の・・・対局だった。」
「・・・あっ・・・あの日か・・・!!」



 ―――そうだ。
 秋も深まりゆく頃だった。進藤と僕が、中学の囲碁大会で対局してから2年と4ヶ月・・・やっと叶った対局、しかもお互いプロになっての初対局だった。
 長かった・・・知らず知らずのうちに口から滑り出た言葉が、僕の、いや、僕ら二人の想いを如実に物語っていた。
 対局は僕が勝利したけれど、手応えは予想以上で、彼は紛れもなく僕にとっての生涯のライバルだということを、魂に深く刻んだ日でもあった。

 あの日が・・・今日だったのか・・・・・。



「別にだからどうってこともないんだけど・・・あの日お前と打って・・・検討まで夢中になって何時間もやってさ・・・俺たち飯食うのも忘れてたろ?・・・ははは・・・ホントに楽しかった・・・充実してたってのかなぁ・・・。」
「そうだった・・・外に出たらすっかり暗くなって・・・別れ際に父の碁会所で又打とうと約束できた時は・・・早く次に君と打てるその日が来ないかと・・・もう馬鹿みたいに僕は・・・舞い上がっていた。」
「そうだったの?塔矢・・・俺とまたすぐにでも打ちたいって、思ってくれてたんだ?」
「うん。もしかしたら・・・打ちたいだけでなくて、君と・・・ただ、君と逢いたかっただけかもしれないけど・・・ふふ・・・。」
「ああぁっ!俺も!俺も、お前に逢いたかったのかもしんねー・・・あの頃はお前と打ちたくて、お前に俺を見て欲しくて・・・お前と対等になりたかった・・・。」
「君が・・・僕を追って来てくれて、僕を否応なく振り向かせてくれたのが・・・本当に嬉しかったよ・・・。」
「俺も・・・スッゲー嬉しかった・・・もしかしたら、もう・・・あの頃からお前のこと好きだったのかな・・・ガキ過ぎて気が付かなかっただけで・・・。」

 でも、まさかこんなことまで出来る日が来るなんて信じらんねーくらい・・・と囁きながら僕を、十代の頃から変わらぬ屈託のない微笑で包んでくれた。



 僕はたまらなくなって、進藤の手をそっと握った。
 ちょっと驚いたように目をクリッと見開いて・・・すぐにぎゅっと握り返してくれる。
 今度は指と指を一つ置きに絡ませ合って、隙間が無いほどに握り合わせてみたら、もうそれだけでどちらの手もジワリと汗ばんでくる。
 さっきは触れ合った唇を通してお互いの体を駆け巡った、快感の細い流れが・・・今は手を通してもっと太く荒々しい奔流へと、変わろうとしていた。

「塔矢・・・。」
「・・・・・。」

 進藤が、ベランダにあるテーブルの上にそっとグラスを置いた。
 僕はそれを確認してから、彼の体に腕を回す。進藤も僕を抱き込むと同時に唇を合わせてきた。

 ―――さっきとは比べ物にならないくらい、大人のキスだった。
 舌を絡ませ合い、競い合うように吸い上げる。歯と歯がぶつかりそうなくらいにぴったりと重ねるけれど、どうしても隙間が出来てしまい、そこから堪え切れずに、苦しい喘ぎ声と唾液が漏れてしまう。

「・・・んあ・・・っ・・・ふ・・・ぅ・・・。」
「んー・・・ん、ん、ん・・・んぁ・・・。」

 濃厚なキスに自分たちがどうしようもなく煽られていくのを感じる。
 もう、どうにも止まらない。痛いくらいにお互いを両腕で締め付けあい、腰を擦り付けていると、進藤が片足を僕のそれに引っ掛けるように絡ませて僕の足を少しずつ開かせようとする。まだベランダで立ったまま、こんなことをし掛けてくるなんて・・・まさかここで先へ進んでしまうつもりかと、腰を引いて様子をみた。
 でも彼は腕をゆっくりと下ろして僕の背後に辿り着くと、バスローブの上から僕の二つの山を撫で回したり、合間に鷲掴みにするように揉んだりもして・・・その谷間にもすーっと指を差し込んで来た。
 淫らな動きだ。
 でももっと淫らなのは、その手の動きに感じて、その手の主を欲しくて欲しくてたまらないと思う僕の方だろう・・・。

 今日が実は僕らにとって、とても記念すべき日だったことを教えられて、余計に彼を求める気持ちが強く激しくうねり始めた。

 分厚い布地の上からの愛撫に物足りなくなった進藤の手が、バスロ−ブの合わせ目を割って侵入してくると、僕は半分はだけた格好になる。そのせいで剥き出しになった肩に、進藤が噛り付いてきた。
 僕も負けじと彼の下半身を探るべく、裾を左右に分けてその脚の間に僕自身の片脚の太ももを割り込ませ、彼の中心にそれを擦り付けるようにして、彼を刺激してやった。

「くっ・・・とう、やぁ・・・いいよ・・・それ、スゲーいい・・・。」

 その一方で、僕の胸を撫でてはやがて突起に辿り着いた進藤は、中指の腹を使って優しくこねるようにそこを転がした。

「はぁ・・・あ・・・しんどー・・・も、だめ・・・感じる・・・あああぁ・・・。」

 進藤もいきなり僕の裾をたくし上げて、今度は両手で僕の双丘をガシリと捉え、左右のどちらかわからないけど、指がそこに当てられてさすらっていた。ただ入り口付近を、円を描くようになぞるだけ・・・。
 いつになってもそこを触られるのだけは慣れなくて、本能的に下肢を閉じようとしてしまう。

「こんなとこで・・・やめ、ろ・・・。」
「塔矢・・・もうベッドに行きたいの?ねえ・・・ここの方が観覧車よく見えるよ?ここで、しない?立ったままさ・・・。」
「馬鹿っ・・・!・・・厭だ・・・ベランダなんて、外と一緒だ・・・早く、中へ・・・。」
「そだな・・・ここでしたって・・・けっきょくは観覧車なんて見てる余裕ねーもん・・・はあぁ・・・。」
「だから早く・・・。」
「・・・早く?どうしたいの?ねえ・・・塔矢、言ってよ。早く・・・どうしたいの?俺と二人で・・・どこへ・・・行きたいの?」

 こんな時の彼はいやらしく口元を歪め、僕から少しでも自分と同じくらいいやらしい声を引き出そうと躍起になって、最高に淫らな言葉と濡れた瞳で僕のことを攻め立てるのだ・・・。

「とっとと・・・ベッドに連れて行け・・・しんどー・・・。」
「その命令口調が・・・お前らしくて、クルわぁ・・・全く、俺もどうしようもねーな・・・。」

 ベッドでもどこでも、お前が望むなら連れてくさ・・・と耳元で囁かれる。

 今、一番行きたいのはベッドの上・・・でも結果君が僕を連れて行くのはもっと広く暖かく、光に満ちた、心と体が一つに溶け合ってお互いを感じ合う世界だ―――



 崩れ落ちそうになるお互いの体を支え合うようにもつれ合うように、ようやくベッドまでやって来ると、僕らはバスローブを脱ぎ捨てて裸の肌を重ねる。シャワー後の体を秋風に晒した為に冷えていた肌が、愛撫によって温度を上げていく。
 進藤が不意に僕の上半身をねじったかと思うと、クルリと反転させて僕をうつ伏せにした。両手を万歳するみたいに上に伸ばされて、手首を軽く掴んで押さえ込まれる。

「あ・・・しんどー・・・何?・・・後ろから・・・?」
「さっき、言ったろ?お前の体・・・誰も見たことのない、誰も触ったことのないとこに・・・キスすんのが好きなんだって・・・。」

 ああ、そう言えば観覧車の中で、足首やくるぶしにキスをしながらそんなことを言っていたなと思う。
 進藤のよく動く舌が、僕の背骨のラインを尻尾骨の辺りからザワザワと舐め上げていくから、全身が跳ねるように反り返ってしまう。

 ・・・もう、たまらない・・・・・

 進藤が背中一面にキスを散らし、やがて僕の髪を、自分の鼻先と熱い吐息で掻き分けると、僕の首の後ろやうなじにまで吸い付いてくる。

 ・・・僕の神経は、全て体の裏側に集中していく・・・・・

「はあ・・・塔矢・・・お前の背中・・・綺麗だ・・・白くてスベスベして・・・ここを、めちゃくちゃ汚してやりてー・・・。」
「・・・ば、か・・・もう手を離せ・・・ああっ・・・っ・・・んん・・・。」

 体を重ねるように上から押さえつけられたまま、苦しくはないけれどそれなりに進藤の体を擦り付けられるので、彼自身が興奮の余り既に硬く勃っていることを、腰の辺りに感じていた。
 そしてそれを感じると、僕自身もうつ伏せの態勢でシーツに押し付けられていることもあって、いつの間にかそそり立った中心から零れたもので・・・シーツにシミを作っていることにも気が付いていた。

「塔矢・・・このまま・・・一回イッていい?」

 言うが早いか、進藤は僕の背中に自分のものを片手を添えて激しく擦り付けながら、器用にもう片方の手を僕の脇から回りこませて僕のものを握りこんだ。

「はあーっ・・・!・・・あ、あ、あ・・・しん、どー・・・凄く感じる・・・硬くて、熱い・・・君のものが、痛いよ・・・僕の背中が溶かされて・・・穴が開きそう・・・刺さりそう、だ・・・ああっ・・・でも、いい・・・凄く、いいぃーっ・・・!・・・。」

 僕はただただシーツを引っ掻くように爪を立ててもがくしか出来なくて、彼に触れないならせめて僕の声で彼を歓びの瞬間へさらっていこうと、羞恥を取り去った喘ぎ声をいつも以上に彼に聞かせてあげようとしていた―――





 進藤が達して、僕の背中を彼の望み通りに汚した次の瞬間に、僕も彼の手によって達した。

 気が遠くなるような快感に呑まれて暫く朦朧としていた間に、彼は僕の背中やシーツに飛び散ったものを綺麗にしてくれて・・・僕は体を横たえて同じ態勢になった進藤と、並んで見つめあっていた。

 もう、何も、言葉がいらない、世界に、二人で、たゆたっている・・・・・。

 先に口を開いたのは、進藤だった。

「俺・・・お前と名人戦で対局したあの夜・・・幸せな夢を見たんだ・・・うん・・・夢だったんだけど・・・あんな夢・・・それまでも、その後も、もう見れなくて・・・もう一度見たいと・・・何度願っても・・・でも叶わなかった・・・。」

 夢の話をしながら・・・それこそまどろむような表情で・・・ちょっと甘えた声だ。

「・・・そう・・・そんなに、いい夢だったんだ?。」
「うん!これまでの人生でも・・・一番いい夢・・・忘れられない・・・。」
「良かったな・・・。」

 進藤の顔が懐かしさにほころんで、目がキラキラと潤んでいる。
 快感の余韻もあるのだろうけれど、でもそれだけじゃなくて、本当に涙が溢れても可笑しくないほどに、彼にとってそれは幸福な夢だったのだろうと僕には痛いくらい感じられた。

 僕は、少し意地悪な気持ちになって言う。

「その夢に・・・僕は出ていないんだな?」
「えっ!?・・・ああ、そうだけど・・・どうしてわかる?」
「だって僕が出てくる夢なら・・・君はそう言うだろう?内容を言わないところを見ると、僕の出てくる夢じゃない。・・・だったら・・・もう聞かないよ、どんな夢だったかなんて・・・。」

 ・・・その夢に、誰が出ていたかなんて・・・聞かないよ。どんなに、どんなにその夢のことも含めて、君の秘密を知りたいと渇望していても・・・決して僕からは訊ねないと心に誓っているから―――

 だから僕には、それ以上の言葉はかけられない。
 進藤は、そんな僕の真意を知ってか知らずか・・・薄く笑って、僕の頬にそっと手を当てた。

「でも・・・塔矢とこうしている時間は、夢じゃない。手で触れる・・・体で感じられる・・・俺の大事な現実だ・・・。」
「そう・・・僕にとっても、夢のようで、夢じゃないよ、君とこうしていられることは・・・。」
「うん・・・絶対になくしたくない、お前のこと。ずっと、ずっと・・・一緒にいよう?」

 僕が頷くと、抱き締めてくる。このまま、もう一度愛し合うのだろうとばんやり考えていたら・・・急にあることが思い出された。

「そうだっ!進藤!君、観覧車の中で、言ったろ?あのてっぺんで恋人同士がキスしないとマズイって・・・。あれ、どういうことだ?」
「ああ〜ん、お前覚えてたの?別に、ここのこと教えてくれたヤツが言ってた噂なんだけど、あの頂上でキスしたらそのカップルは幸せになれるとか何とか・・・まあ、乙女な話だよ。」
「なーんだ、そんな下らないことだったのか。まあ、君が僕を困惑させる為に言い出すことは、いつも大抵下らないことだけどね。」
「ふん・・・勝手に言ってろ・・・どっちにしろ、キスは出来たし、俺らはこうして幸せだし?」

 進藤がクシャリと笑うと、僕もつられて自然に笑顔になるから、こういうことが幸せというんだろうと・・・胸を詰まらせたまま・・・僕らの第二ラウンドは始まった―――











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