チョー短いですが、管理人初のカガツツです(笑)
ある方に読んで欲しくて書いたのですが、お許しをいただけたのでアップします。
ありがとうございます(にこ)
カガツツ好きの方に怒られないといいけど〜(^^;

11月24日 短い続きをアップしました。二つ目の区切り線から↓のところです。







― スイーツ男子 ―







加賀と筒井の二人が広尾のカフェでバイトをするようになってから、二人の仲はまた、急速に近付いていた。
加賀は医学部、筒井は教育学部なので、そもそもキャンパスが違う。こんなことでもなければ、なかなか顔を合わせる機会がない。

やたらシフトが一緒になることをちょっとだけ不思議に思いつつも、加賀が仕組んでいるなどとはユメユメ思わない筒井だったが、加賀に絡まれながらもバイトそのものは楽しいし、いつしかバイトの時間が待ち遠しいほどになっていた。

そんな二人がある日、加賀の喫煙のことで口論になった。

「そんなに煙草止めろ止めろって言うだったら、お前が何とかしろ」

不機嫌そうに言う加賀に向かって、筒井も負けてはいなかった。

「だって!ボクは加賀の体を心配してっ…」

さっきから、何度も似たようなやり取りが続いてた。
いい加減、加賀も筒井をあしらうのに疲れたのか、或いは、ここまで心配されてほだされたのか。
自分でも定かではなかったが、加賀はつい、口にしてしまっていた。

「だったら…そうだな、煙草の代わりになるようなものを…いや、俺が思わず煙草を止めてもいいって思うくらい、俺の口を喜ばせるようなもん、なんか持って来いよ?」

いつもみたいに、口端を持ち上げてニヤリと笑う加賀。

「………っ、そんな…」

筒井は口ごもるしかなかった。心なしか、目も潤んではいないか?

(そんな可愛い顔で睨んでも怖くねえってば…ばか―――)






その日はそれで終わったのだが、数日後、思わぬ展開が待っていた。
バイト先で一緒になった、その帰り道のことだ。

筒井が加賀に差し出したのは、見た目も味も素朴なカップケーキのようなお菓子だった。
紅茶の香りのするそれは甘さ控えめ、一人では食べ切れないほどの量だ。
筒井は加賀に、煙草を止めて口寂しい時に食べればいいと言うのだった。

「まさか本当に持って来るとは…しかも、自分で作ったってえ?」

加賀が驚いたのはそのことだ。

「だってそのくらいしないと、僕が真剣に心配していることが加賀に伝わらないだろう?」
「全くおめえは…俺のツボを突きまくるなぁ…」

筒井の顔を眩しそうに見詰めながら、(食いたいのは菓子じゃなくてお前なんだけど、まあ、今はこれで我慢だ)と呟きつつ、加賀はゆっくりと筒井の手作り菓子を口に運んだ。






それから筒井はバイトで一緒になるたびに、せっせと加賀に手作りのお菓子を持って来るようになった。
家族に教わったり自分で本やネットのレシピを見たりして作っているうちに、どうやらお菓子作りにはまってしまったらしい。
レパートリーも広がり、腕もどんどん上がっていく。

この頃では大学の友人にも配るようになり、スイーツ作りが得意なことが広まりつつあった。
そして加賀の耳にも、その噂は届いていた。

「お前、いい匂いさせるようになったなぁ…」
「ちょっ!あ、あんまり顔、近付けないでよっ…か、加賀!」
「お前、最近クラスの女子に人気なんだって?菓子を配って点数稼いでるらしいじゃねえか?やるじゃんか」

矢張りバイトの帰り道だ。
意地悪な言い方には慣れている筒井だが、その日の加賀はいつもと違った。
筒井の肩の手を回し、そのうなじの辺りに顔を埋めて匂いを嗅ぐ仕草をする。
グイと押し退けようとするが、加賀の体からはすっかり煙草の匂いも消えていることに気付いて、筒井ははっとなる。

…そうか、加賀…本当に煙草、止めたんだ…止めてくれたんだ…

思わず、筒井は胸を熱くした。
そんな筒井の変化に気付いた加賀は、そのまま抱き込む。
急に、甘い匂いが立ち昇った。
二人の体が重なり、一気に体温が上がったせいだろうか…

「甘い匂いだ…たまんねえ…俺にもこの匂い、移してくれよ」
「か、がっ…」
「そしたら俺もオンナにモテるかな?へへ…」
「離してっ…」

筒井はどうしからいいかわからない。
跳ね除ければいいのに、加賀の腕の中は思った以上に心地良くて、もがいても意味はなかった。

「加賀だって…もう十分、甘い匂い、してる…」
「おう、そうか?俺も毎日、お前の菓子、食ってるからな」

ますます深く抱き込まれ、筒井は体から力が抜けるのを感じた。

「嫌か?俺に抱かれるの…」

低くて男らしい声が、信じられないくらい優しく、心を撫でて行く…

嫌だとも嫌じゃないとも、言える筈もなかった。
砂糖よりもクリームよりも、もっともっと甘い何かが頭の芯を溶かしていくから、まともにものを考えられなくなる…

「どうしたら、いいんだ…僕、どうしたら…」
「どうもしなくていいさ。お前はこのまま俺に菓子を作り続けて、それから―――」

いくらでも甘い匂いを俺にかがせろ、この腕の中で、と。
囁きはほとんど、耳を食まれながらだった。














― 求人情報 ―







「何?加賀、何、読んでんの?」
「ああん?見るか?」

それは求人情報誌だった。
思わず筒井はズリ落ちそうになるメガネを押さえ、加賀が熱心に見ていたページをしげしげと眺める。

「…ボーイ…フロア…えっ、執事なんてのも………か、加賀っ!?」
「お、その執事とかさ、あと、ボーイズカフェみたいなの、スゲエ時給がいいだろ?容姿が肝心だからな、あと、サービスも難しいだろうし」
「まさか…ここ、辞めるの?」

不安そうな顔をする筒井を、加賀はいつものニヤニヤ笑いで見るばかりだ。

(コイツッ!俺が求人情報誌見てるだけで、ここまで想像しやがって…可愛いヤツめ――)

「辞めて欲しくねえのか?俺に?」
「だ、って…ここ、好きだろ?加賀…ここのバイト、絶対に休んだりしないし、真面目にシフトも入れてるし…」
「好きは好きだけどな、医学部は金がかかるからなァ…」

確かに加賀は、奨学金やバイト料でかなり親を助けていることは、筒井も知っていた。
だからこそ、ソコを持ち出されると筒井は何も言えなくなる。

「ほんとに?」
「筒井、お前、ここで俺に会えるのが楽しみか?」
「それは…」

そうだよ、その通りだよ、と――筒井はいっそ言ってしまいたい。

学部が違う二人には、このバイト先が大切な接点だ。
メールや電話など、マメに返さない加賀だし、筒井だって実習や講義、自分の学部以上に加賀が忙しいことを知っている。邪魔はしたくない。

このカフェで同じ時間にバイトをして、帰り道に一緒になって、別れ際に名残惜しくて立ち話をして、作ったスイーツを渡して。
それからおやすみのハグをするようになったのは、つい、最近のことだ。

男同士で何故、こんな濃密な接触を?慣れない、おかしいと思いながらも、筒井は加賀の、決してズカズカ踏み込むでもない、けれど確実に固い氷を溶かしていくような熱に触れて、心地良くもあった。それは否定出来ない。

きっと、甘やかされているのだ…大事に、されている、のだ………

不意に、目頭が熱くなるのを感じて、筒井は慌てた。
それを見られたくなくて、とっさに加賀の背中に回りこんで抱き付く。

「つ、筒井?」

さしもの加賀もここまでは期待していなかったのか、背中の筒井にも驚きが伝わった。
加賀のいつもと違う戸惑いを滲ませた声を耳にすれば、筒井はますます強く加賀を抱き締めるしか出来なくなって、そうする。

ぎゅうっ…と、腕に力をこめるのは、いつも加賀の方。
筒井は遠慮がちに手を回し、その温もりを享受するだけだったのに――

「おい、筒井。俺は別に、お前から抱き付かなきゃここを辞めるって、脅かしてる訳じゃねーだろ。…これってさ、引きとめてるのか?体で?」

やっと、普段の加賀に戻った。筒井をからかう時の、笑い混じりの口調だ。

「だっ、て…僕だって、わかんないよ、何でこんなことっ…わかんない…っ、っ…」

精一杯なんだよ、これでも、と―――涙混じりの筒井の声が、加賀を揺さぶった。

加賀は自分の前に回された筒井の手を、己の大きな手でゆっくりと包み込む。
振り向いて抱き締めることは簡単だが、今は、顔を見て自分の腕の中に閉じ込めてしまう前に、ただこの体勢のまま、筒井の好意をじっくりと噛み締めたいと思った。

正面切ってはまだ、好きだと言えない。
そんな淡い想いだからこそ、急がせてはいけないし、無理矢理もダメだ。
大切にしたい。
誰よりも、傍にいて欲しい。

(筒井…あったかいな、お前の手…)
(加賀の背中は、凄く、広いよ…安心する…)

互いを求める気持ちを、心と体の隅々にまで行き渡らせるように、静かな時間を過ごすしか出来ない二人だった。











NOVEL