― 生きていく ぼくら ―









いつもより早く訪れた、春の気配の真っ只中だった。



梅も沈丁花も一斉に香り、桜の蕾まで膨らみかけている。
生暖かいとも言えるような空気で、早足で歩いているとコートを脱ぎたくなるほどだった。

ふと見上げると、僅かに欠けた月は、今朝食べたゆで卵の黄味のような美味しそうな色合いだった。

「今年のお花見はさ、少し早めに計画しねえと駄目かもな。」
「そうだね。4月に入る前だろうか?」
「そんな感じじゃねえ?」
「うん。君、楽しそうだな。」
「え・・・そっか?・・・う〜ん、こんな風にさ、いつ桜が咲くんだろう、もうすぐかなって気にしながら上を見るのって。一年のうちで、ほんの何日かの楽しみじゃん?」
「そうだね。本当に・・・。」

いつからか、僕らは一緒にお花見をするようになった。
進藤の仲間を中心に、若手の十数人で集まる。そこには勿論女流棋士もいて、年々華やかに、大掛かりになっていた。

最近ではめっきり忙しくなった進藤と僕は、久しぶりに出た研究会で一緒になった。
数人で食事に流れて、その帰り道。
折角気持ちのいい春の宵だから、一駅歩こうと言い出したのは僕からだった。



「いい晩だね。こんな夜はいつまでも歩いていたいくらいだ。」
「良過ぎるよ。良過ぎて―――デキ過ぎで―――こんなのは困るぜ・・・。」
「どういう意味だ?」
「だから・・・。」

歩調が緩んだ。

僕らは小さな川の両脇を通る緑道を歩いていたのだが、街灯は程よい間隔で立っていて、暗過ぎもせず、また明る過ぎもしなかった。
古くからのお屋敷街にあたるこの辺は、とても静かだ。僕らの靴音だけが淋しげに響く。

「こんな夜はさ・・・抑えて来たものが溢れそうになるっていうか・・・。」
「・・・・・。」

僕は黙ったままで、進藤の横顔を見た。

ここ数年ですっかり顎も尖り、頬もいい具合に削げた。
でも、一番変わったのは顔立ちや背丈や肩幅では、ない。
―――手だ。
僕は、彼の手が一番彼の成長を表しているような気がしていた。
筋張った男らしい手は、ふっくらとしていた頃の幼さは欠片も見当たらない。

僕は視線を静かに降ろして、彼の手を捜す。
けれど残念なことに、僕の方から見えるそれはポケットに突っ込まれたままだった。



僕の視線を感じたからだろうか。
進藤が居心地悪そうに体を揺らし、それから頭を振り上げて夜空を仰ぎ見ると、口を開いた。

「なあ、塔矢。俺がお前のこと、避けてたの・・・・・わかってたろ?」

ちょっと驚いた。
いきなりこういう話題になるとは、思ってもいなかったからだ。

―――まだ。
まだ、その時ではないのだろうかと、幾度も目に見えない透明の壁に阻まれるじれったさで、僕は進藤を見ていた。見続けていた。・・・長い間。

「うん。わかっていたよ。この前ちゃんと話したのはバレンタインの夜、碁会所に行った時だ。だからさっき歩こうと誘った時も、うまく逃げられちゃうかもしれないって・・・覚悟していた。」

僕は、ありのままを答えた。

「逃げるって・・・人ぎきワリイな。はは・・・でも、それはそうなんだな、きっと。」
「君が僕を断っても、別に良かった。淋しかったとは思うけど・・・それでもそれが君の選んだやり方なんだろうし。打ち続ける限り、僕らが同じ世界にいることに変わりはないから―――」
「うん、だな?それがいいのか悪いのかわかんねえとずっと思ってた。さっきお前が言ったけど・・・逃げ道がないんだよ。いつもいつも、どんなに避けたってさ、お前がそこで打ってる。俺の心を根こそぎ持ってくような、そんな碁を打ってやがる。」
「褒められているのか?・・・それとも悔しいの?」

茶化すように言うと、進藤が立ち止まった。
真面目な顔を僕に向けて来る。その背後には、少しだけ動いた月がかかっている。

・・・ああ、なんだ・・・卵の黄身なんかじゃない。あれは進藤の前髪と同じ色だ。

そう思ったら、あの遠い月までが僕にとっては愛しい存在になる―――



「・・・言わない方がいいんだったら、一生言わないでも平気だって・・・いや、平気じゃいらんないかもしれないけど・・・でも、少なくとも苦しむのは俺だけでいい、お前を巻き込むのだけは止めようって思ってた。」



君らしい。
そんな風に考えるところが、とても君らしい。

だから僕は君を好きになり、君の生き方を尊重しようと決めたのだ。

それは、若い僕にとってはどこか悲壮な決意だったかもしれないが、そういう風に君を大切に思えるようになったことは、僕にとって密かな誇りであり、喜びにもなりつつあった。



今、たゆたっていた時間が緩やかにではあるが、あるべき方向に向かって流れ出したのを感じながら・・・
僕は進藤の次の言葉を待った。

「塔矢。俺、お前のことが好きだ。」
「・・・僕もだよ?」

自分で気抜けするほど呆気なく、ツルリ・・・と口から滑り出ていた。
目を見開いた進藤の表情の変化を見て、自分の答の重大さに改めて気付かされたくらいだ。

「―――っ・・・だからっ・・・っ・・・そういう好きじゃなくて・・・。」
「じゃあどういう好きだ?」
「それは・・・こんな気持ちのいい春の晩に一緒にいたい、とか・・・綺麗な景色とか見たら真っ先にお前の顔が浮かんで、見せたいって思う、とか・・・。」
「じゃあ、やっぱり一緒だ。僕の好き、と。」

だって嘘じゃないよ?僕は本当に、ずっとそういうことを考えていたんだから。

「そっ、それだけじゃねーって!」

はっと気付いたら、進藤の手が僕の手を包んでいた。
それを見下ろす僕の耳に、照れ臭そうな声が聞こえる。

「こっ・・・こういう好き・・・俺のは・・・。」
「じゃあやっぱり一緒だって。」
「何?お前、気持ち悪くなねえ?俺に手なんか握られても・・・平気?」
「平気も何も・・・僕だって握りたかったって・・・言ったじゃないか。」
「―――うそっ!今、俺が無理矢理握ったから・・・だってお前から握ってくれたこと、ねえじゃん!」
「それなら・・・今度は僕から先にすればいいのか?」

面食らった様子の進藤の頬を片手で支え、僕は顔を近付けた。僕の方が少しだけ頭を傾け、目を閉じる。
計算などなかった。ただ、したいことを自然にしようとしただけだ。

・・・けれど。
唇が触れ合う、ほんの数センチ前で、進藤は大きく跳び退った。

反動で繋いだ手が引き合う格好になり、肩と肩が軽くぶつかって、僕の髪も、進藤の髪も跳ねる。
今、僕らは丁度同じくらいの身長だ。進藤が、この半年ほどで急激に伸びたのだ。

「おおおおまっ!今、俺に何しようと・・・っ!!??」
「何って・・・・・キスに決まってるだろう?」
「―――っ!!・・・キ・・・。」

それ以上は言葉にならないらしい。真っ赤に染まった進藤の目元が幼く見え、僕の微笑を誘った。

「あれ?僕、間違っていたのかなぁ・・・君があんまりうたぐり深いから。」
「やっ!やや、ま、間違ってなんかねえけど・・・。」
「そうか、良かった。」
「良くねえよっ!!」
「ご免・・・。」
「えっと、ややっ、そうじゃ・・・謝ることじゃないけど・・・・・・はあぁ〜、もしかして俺ってすげえ情けなくねえ?お前、俺の気持ちが固まるの、待っててくれたとか・・・そゆこと?」

言いながら、進藤の手が伸びてもう一度僕に触れた。
今度は躊躇いを感じさせない強さで、しっかりと握られる。

長い付き合いになるが、肩を叩き合ったり軽く腕に触れるくらいはあっても、こんなに確かな形で握り合うのは流石に初めてだ。

嬉しいというよりも、戸惑いや恥ずかしさの方が勝ってしまい、僕はどうしていいのかわからなくなる。
さっきはキスまでしようと・・・そうしてもいいと思っていたのに、相手から与えられる好意の大きさの前に、まるで少女のようにモジモジしてしまう自分が滑稽でもあった。

「あーーーっ・・・俺、手が汗ばみそう。お前、嫌じゃねえ?こんなベタベタした手で、さ・・・。」

僕は首を横に振った。
そうか、進藤も緊張しているんだな、当たり前だな、と納得する。何となく、ほっとする・・・



多分、今だからこそ言えることがある。
今こそ彼に告げたいことがあると、僕は言葉を探した。



「僕の気持ちはね・・・多分、あの月と一緒なんだ。」
「つき?」
「そう・・・満ち欠けする、月。昨日は今日と違う形だけど・・・でも、月は消えない。昼も夜も、そこで生きている。」
「生きてる・・・。」
「僕らがどんな未来を選ぶにしても、それは表向きのことに過ぎない。月の満ち欠けみたいに、僕らの気持ちはその時々で変化するだろう。波もあればすれ違いだって・・・二人はいつも同じじゃいられないかもしれない・・・。」
「塔矢・・・。」
「でも、僕にとっては君はたった一人の特別だった。それは君がこの先、僕と碁を打つ以外のことを一切しなくなったとしても―――変わらない。未来永劫に。」

握った手に、一層力がこめられる。汗ばんだことなど、もう気にもならないようだ。
僕も強く握り返すと、進藤からは微笑が返って来た。



月灯りで見る彼の笑顔は、胸に染み入るほど優しく、温かかった・・・・・



出会ってから今まで、こんなにも彼が口を開くのを、何かを言い出すのを、期待に震えて見詰めたことはなかったかもしれない。
ほんの子供の頃をのぞいては、僕は、碁以外のことで彼に何かを期待することを極力抑えるようになったからだ。

そして。
進藤は僕の期待通りのことを告げてくれたのだった。



「塔矢、俺と生きてくれるか?ずっと――――俺と一緒に生きて欲しい。」



静かな、しかしきっぱりとした声が、春の宵闇に吸い込まれていく。
僕は彼の言葉を心で反芻しながら、ようやく頷いた。



「君も、死ぬまで僕の横にいてくれるんだな。」



嬉しいのか、哀しいのか、どちらなのかわからないくらい顔をクシャクシャに歪めて、唇を噛み、進藤もまたコクリ・・・と大きく、一度だけ、頷いてくれた。









それから僕たちがしたことは、恋人同士になって初めての抱擁であり、口付けであり、想いを交し合う短くも至福の時間だった。

口付けは僕が思っていたよりも深く、激しく、進藤の隠された情熱にいきなり触れて、僕の方が戸惑っていたかもしれない。

熱く、力強い進藤の舌が、僕の口内を探り、あらゆる場所を撫でていくのを酸欠になりそうな気分で受け止めていた。

「・・っ、っふ・・・しんど・・・ぁ・・・ん・・・っ・・・。」
「どした、の?いや?キスは・・・嫌い?」

さっきはしてくれようとしたじゃん、お前の方から、と囁かれるのも、耳たぶを唇で嬲られながらだった。

「キスって・・・僕はもっと・・・軽い・・・もの・・・。」
「えーっ、なーんだ・・・そんな可愛いキス、だったの?でも俺はだめ・・・気持ち、決めたから。人生、決めたから。」

そんな相手に可愛いキスだけじゃ我慢出来ないと、小さな笑い声と共に、また唇を塞がれた。

今度は、僕ももう黙ってされているばかりじゃない。そんなの、悔しい。
思いのままに体を、心を、全てを動かして、大切な人の唇を味わったのだった。



「すげえなぁ・・・。」
「何が?」

足りなくて足りなくて、いつまでも離れらない僕らだったが、人の気配を感じてようやく身を離した。
それでも手だけは握り合ったまま、ゆっくりと歩き出す。

まだ、僕の呼吸は整っていない。心臓もドキドキ脈打っている。
一方の進藤も昂奮を引き摺ったままで、上気した顔に潤んだ瞳を揺らしていた。しきりに握った手を振って来る。

「ああぁ、すげえ・・・春ってすげえよ!ホント、すげえ・・・俺、さっきまで今までとおんなじ、大丈夫だって思ってたもん。まさかお前にぶっちゃけちまうなんて・・・自分で自分に驚いてる―――」
「だとしたら・・・君の言う通り、春って凄いな。凍っていたものを突き動かす力が・・・あるんだな。」
「うん・・・春って、溜めていた何かが形になって・・・一気に噴出す・・・その手伝いをしてくれるんだ。俺たち・・・いっぱい気持ち、溜まってたんだろうなぁ・・・。」



ただ、世の中の春のことを言ってるんじゃないのは、よくわかっていた。

出会いから今日までの、十年近い年月。

僕らの人生においても、地中深くで育てて来た全ての想いが芽吹く、そんな季節が巡って来たのだということを感じながら、僕らは胸いっぱいに、花と春の匂いを吸い込んだ・・・・・






生きていく。



君の横で。



君とともに。



例え、何が待ち受けていても。






僕らは二人で――――生きていく。






















「お前と花見がしたい。・・・っつか、お前とだけしたい。他の誰かがいるのはヤダ。」

いつの間にそんな我がままを言うようになってしまったのか。
進藤が長くなったフワリと腕を広げ、甘えたように僕の体を包み込む。

「話にならない。いつもあれだけ嬉々として幹事を引き受けていたくせに・・・。」
「だって、恋人出来たら二人っきりの方がいいに決まってるじゃん。」
「そういう男は友達を失くすぞ。」
「いいも〜ん、俺はお前がいればそれで・・・。」

毎日毎日、息苦しいほど、胸が壊れそうなほど、幸せだから―――



進藤がそんな甘ったるい言葉を吐ける男だなんて、予想外だった。

予想外と言えば、彼の貪欲さもそうだ。
告白の日も何度も口付けられ、別れ際のおやすみの口付けは濃厚だった。重ねた体からは熱が伝わり、どこまでするのだろう、まさかこのまま押し倒す気では・・・と戸惑いを誘うほど・・・

会うたびに、欲しい、欲しくてたまらないという生々しい目で見られる。いたたまれない。

あんなに踏み止まっていた彼は、一体どこへ行ったのか?
坂を転げ落ちるように深みへと堕ちていく。
一度知った温もりは、もう僕らを先へと押し出す誘い水でしかなかった。



「えっ・・・本当に断ったのか?」
「うん、別に行っても良かったけどさ。俺と塔矢は宴席が入っちゃったって・・・ダメ?お前、いつもみたいに皆と観に行きたかった?」
「いや・・・そうじゃないけど・・・でも、まさか本当に・・・。」
「なーに?俺が本気じゃなかったって思ってたの?」
「だって、君、大勢で飲んだり騒いだりするのも嫌いじゃないだろう?別に僕とは他の時に行けばいいんだし・・・。」
「じゃあ、来年からはそうする。お前とも花見するけど、皆とも・・・。」

でも、お願い。

今年だけは一秒たりとも無駄にしたくない。
他の人と見る時間があったら、それは全部お前といる時間に当てたい。

だからずっと一緒にいてくれ・・・・・



息を塞ぐ唇が、深く入り込んでくる舌が、全てが僕に眩暈を起させる。
花に酔うという表現があるが、今の僕は、進藤の真っ直ぐで痛いくらいの愛情に酔ってしまいそうだった。

舌と舌を絡められ、散々吸われて、指先から力が抜ける。
快感が過ぎると恐怖に近い感覚も湧き起こり、僕は進藤の背中に回した手でバンバン叩いて解放してもらうのだった。

「ご免・・・俺、もう止まらない。ブレーキ壊れた暴走車になったみたい。お前、痛かったりイヤだったりしたら、本気で言って?本気で、俺から飛び降りて・・・そうでないと、怪我させちゃうかも。」
「進藤・・・・・・っ!あ、あ・・・ああぁっ・・・。」

うなじに齧り付かれ、同時に胸を開かれた。
股間には彼の太ももが入り込み、激しく上下する。確実にそこを勃たせる目的で擦られるのは、例え布越しであっても男ならどうしようもなく抗い難い感覚だ。

「ど、して?・・・この前まで、あんなにゆっくり歩いていた・・・僕らだった、のに・・・どうして急にこんな・・・・・・っふ・・・ぅん・・・。」
「春だから。・・・きっと春がいけない。今年は早く来過ぎて・・・いつまでも桜が咲いているから・・・。」

気付いたら下着まで下ろされ、僕は進藤の部屋のベッドに横たえられていた。

どうしよう、どうしたらいい・・・

覚悟がなかった訳じゃないが、まさかこんなに早く・・・と、混乱する。その混乱は僕にあられもない声を上げさせ、余計に進藤を煽っているのだということもわかっていた。

「今頃・・・皆・・・桜を見上げて・・・宴会・・・なのに、僕ら、は・・・あっ・・・。」

何が言いたいのか自分でもわからなかったが、何か口にしないとますます自分が自分でなくなってしまいそうで、僕なりに必死だった。

「でも俺は花見よりもお前が欲しい。抱きたいんだ。全部、見せて。見たい。」
「進藤?・・・しんっ!―――っつ・・・。」

いきなり股間に進藤の頭が沈んだと思ったら、そこが温かいものに包まれたのを感じた。
まだほとんど項垂れていたものを、進藤の舌先が細かく、素早く動いて、全体をあちこちから刺激する。
大きな両の手の平が太ももを撫で、それがそのまま股間を開かせる格好の体勢になった。
チロチロと先端の小さな穴まで舐められ、何本なのかはわからないが指の腹で堅くなった幹をこすられ・・・
初めて受ける究極の愛撫に、僕は頭が真っ白になりそうだった。

「いいんだ?・・・そんなに・・・もう、お前何か出してる・・・苦い、けど・・・甘い・・・。」
「いやだっ・・・言うな・・・そんなこと・・・。」
「予想外だったんだ・・・こんなの全然、予想外で・・・。」
「・・・え?」

進藤が僕の股間を愛撫する合間に、途切れ途切れに言う言葉が聞こえる。

「もっとコントロール出来るって思ってた・・・こんなガキみたいにめちゃくちゃしたくなるなんて・・・さかったケダモノみたいじゃんか・・・だってお前、俺が予想してたより・・・うんと綺麗で・・・色っぽくて・・・でも、すっげえ可愛くて―――俺のこと、夢中にさせるから・・・。」

僕にとっても進藤の執着は予想外だったが、その原因は僕自身にあるのだと言われ、全身がカーッと燃え上がった。

幾度も幾度も、甘い痺れのようなさざ波が爪先から脳天まで、背筋を通って駆け昇る。
その波は確実に僕を頂上へと押し上げ、いきなり高波を被りそうになって慌てた。

「進藤!お願い、だ・・・今度は僕からの・・・一緒に・・・一緒にイきたい・・・一人は、いやだ・・・。」
「塔矢・・・ああぁ・・・涙目になっちゃって・・・そんなに唇、震わせちゃって・・・。」

嬉しそうな顔が、どんどん近付く。
たった今まで僕をしゃぶっていた進藤の唇は腫れぼったく、目を背けたくなった僕だったが、それは許されなかった。
深い口付けで僕の抵抗を塞いだまま、堅くなったものを添わせるように腰をぶつけて来る。
二つの先端から溢れた冷たい液体が混じり合っては、僕らの腹まで濡らしていくのを感じながら、僕は進藤に言った。

「僕も触りたい・・・君に触って、いいか?」
「う・・・うん・・・うんうん・・・触って、俺のも・・・もう、こんなになってる・・・お前が好きで好きで・・・もう、もう・・・。」

言いながら、子供みたいに何度も頭を振る進藤。
僕は片手でその頭をクシャクシャとかき混ぜると、もう片方の手をそっと下へと伸ばした。

触れた途端、羞恥は吹き飛んだ。
瞬時にして、進藤が僕のものをあれだけ無我夢中で愛してくれた気持ちが理解出来た。

僕もしたい。
僕もこの勃起したものをどこまでも愛して、彼を最高に気持ち良くさせたいと、それだけで頭がいっぱいになったのだ。



そんな風になる自分を信じられない気持ちで受け入れながら、僕は進藤に訴えてそうさせてもらった。

さっきと上下を入れ替えて、進藤の股間に顔を埋めると、彼の匂いが鼻腔を満たし、それを気持ち悪くもイヤだとも感じない自分がいた。

限界まで膨らんだものは、僕が数回舌を動かし、咽喉奥を使って吸っただけで弾けそうになる。
けれど進藤もやっぱり、最初は口でイくのはイヤ、一緒にと、僕と同じようなことを言う。

最後は彼が誘導して、僕が足を開き彼の膝の上に乗り上げる形で向かい合い、彼が僕のものを、僕が彼のものを握って満たし合ったのだった。

「っは・・・っ、塔矢・・・も、俺、ダメ・・・イイ・・・イイよ、すっげぇ・・・。」
「僕も・・・イきそう・・・もう・・・イきたい・・・。」

僕らがほぼ同時に達した瞬間。
二人の腹の間で飛び散った白い飛沫は互いの肌を汚したが、今度はそれを拭う間も惜しんで抱き締め合うと、まだ引かない余韻の中で気だるげに腰を揺らし、狂ったように角度を変えながら唇を貪り合ったのだった。






今ならわかる。進藤の気持ちが。



うつろいゆく季節よりも、もっとうつろいやすい人の世。

僅かな時間すらも惜しんで愛し合いたい。
美しいものは好きな人とだけ分かち合いたい。



そんな我がままで、これ以上はないという激しい愛が、桜の花よりも鮮やかに僕らの胸に咲き誇った―――最初の春だった。











NOVEL