― 花嵐 ―









アキラの中に、ヒカルが挿って来る。
いや、押し入ってくるという方が正しいかもしれない。

どんなに体全体の強張りを解かれ
心を緩められ
入り口付近を丁寧に丁寧に解されたとしても

その瞬間に体も心も反射的に抵抗するのを、止めようがなかった。



始まりはまだいい。

腕の中に囲い込まれるように抱き締められて
塔矢、好き好き、大好き、死ぬほど好き…
ヤラせてくれないと俺、マジで死んじゃいそう…と、赤面するようなことを囁かれ

口の中のどこも触れてないところがないくらい執拗に舐められ
舌を絡めとられ、何度も強弱をつけて吸われ
腰が砕けそうにいい想いをさせられる。

一方的に快感を与えられるばかりかと思えば
ヒカルの方もいつも服を脱ぐ前から反応していることを伝えて来る。
…いや、むしろヒカルは知らせたいようだ。

布越しに何度も腰を重ねては揺さぶられる。
濡れ過ぎて衣服の表まで滲ませては、短い逢瀬の時など帰り道に
困ったことになるほどだ。



しかし。
いざ挿って来られると、受け取る感覚の種類がガラリと変わる。
体表面や口内の粘膜で受け取るのとは全く違う快感を呼び覚まされるのだ。



どうしてこんなことを許しているのだろうと毎回過ぎる。
毎回、性懲りもなく思う。



カエルのようにひしゃげた格好で足を開かされ
或いは
動物の交尾のように後ろから攻め立てられ
体位はどうだって、結局は

ヒカルが―――

アキラに―――

挿れているという事実は変わらない。



どんなに愛してる、最高、幸せ、誰より綺麗と馬鹿らしい睦言を囁かれても

ヒカルのものが―――

アキラの中に―――

巻き散らかされるという事実は変わらない。



最後にはどんなに気持ち良くなっても
どんなに愛していても

その関係性の僅かないびつさと危うさに、否応なく心が揺れ動く。









アキラは最初から決めていた。

ヒカルから告白されたら受け入れる。
ヒカルが他の人を選ぶのなら、自分からは一生言わない。

何年もそういう覚悟を秘めてヒカルの傍にいたせいか
本当にヒカルに求められた時は驚きと戸惑いで
最初の晩は、ヒカルに最後まで許さなかった。
…というよりも、気持ちも体も準備が整っておらず、出来なかったのだ。

自分でも、現実にはこんな反応をしてしまうなんて予想外だった。
ヒカルから求められたら嬉しさのあまりどんなことでもしてしまいそうだと
そんな風に己のヒカルに対する愛情を過信していただけに。

ヒカルに向かって
お願いだ、待ってくれ、そういうことはもう少し時間をかけてからと懇願する自分が
不思議に情けなくもあった。

それも本当に、時間の流れがいい方へと導いてくれたというか
ヒカルが我慢強くアキラを開かせて行ったというか…

結局そうやって二人は時間をかけることで、濃い営みにも踏み出して行った。







「どした…今日は、なんか…かたいよ…やっぱ、外はイヤ?」

「ん…ぁ、あっ…待って、もっと馴染むまでは…突き上げる、な…っは!あ、あ…。」

「駄目だよ、そんな顔見せちゃ…お前のその顔で、俺、腰が反応するように
出来ちゃってるの…………あ、ん、とうやぁ…ど?感じる?いい?いつもみたいに…。」

いっぱい濡れてる…お前のアソコ…俺の指がヌルヌル滑るぜ?
それにお前の口元、だらしなく開いて…ほら…キラキラ光ってる…

アキラの唇ではなく、その端から本能的に零しているものをヒカルの舌先が辿った。
同時に、アキラのものにゆっくりと焦らすような手付きで指先を絡めた。



―――夜桜を見ている最中だった。
夜中も二時を回ると、ご同輩しかいなくなることで有名なこのスポットを選んだのは
勿論、ヒカルだ。

おそらく、あちこちの木の下で
同じように睦み合う恋人たちが喘ぎ声を必死で押し殺しては
そのことにすら感じて昂まっているのだろう。



いつでもその場から逃げられるように、春の夜の寒さを感じないように
中途半端に胸元や下半身など、局所だけをくつろげ
木の幹に押し付けられては、立ったまま穿たれていた。

片方の足が、器用にヒカルの太ももを支えにして持ち上げられ
アキラの爪先は自然とヒカルに絡み付くようになっている。
その様子は、大木に蔦やつる草が這うのにも似ていた。

「どしって…っ…しんど…こんな無茶…っはっは…や、ぁ…ぅ…――っ…。」

ヒカルは、アキラの尻を木の幹から浮かせるとそこに手を入れ
己を埋め込んだ場所の回りをなぞっていく。
アキラの先走りをたっぷりと掬った指先で、そうする。

「大丈夫…時間かかったけど、お前ん中…いつもみたいになって来たよ…ほら…。」

とろりとした輪郭の曖昧な声で囁かれ、腰を回転させられ
達したのではと思うくらいに強く反応した。

ヒカルの衣服に庇われるようにして上向いている自分のものが
ビクビクと跳ね一層堅く膨らんだのを感じ、アキラは呻き声を上げそうになる。

察したヒカルが口を塞いだ。

キスで塞ぎたかったが、それでは体勢が苦しい。
ヒカルは、アキラの手に重ねて木に縫い止めていた方の手を解き
それでアキラの口を塞いだのだ。

…こういう時のヒカルはとても素早く、また判断がいい。



キスではなく手で塞がれると、一方的にされている感が大きくなる。
まるで、犯されているような気がする…

それがイヤでアキラは頭を振って訴えるが、かえってヒカルは昂奮を募らせるばかりだ。
抑えた手に力をこめると、アキラの目尻から生理的な涙が伝い落ち
口を塞いでいるヒカルの手まで濡らす。

「と、やっ…ごめ…とまんな…ぁ、あ、ああっ…んくっ…おま、すげぇ…。」

ヒカルはアキラの腰をがっちりと掴んではいいように揺さぶり
感じるだろう場所に幾度も幾度も熱芯を叩き付け
溢れ出るアキラの歓喜を誘った。

アキラももう何も考えられなくなり
ひたすらヒカルの首裏に爪を立てて縋り付く。背中でもがく。

情交の激しさゆえに、大地に着いていた筈の片足すらも
ほとんど浮きかけているのを感じていた。

ヒカルが思ったよりも力があるのか
セックス時特有の昂奮状態でそこまで出来てしまうのか…

いずれにしろ、繋がったままの状態で
大の男一人の体をそこまで翻弄出来る情熱が、ヒカルにはあるのだ。



こんな外で…

こんな恥ずかしい格好で…

ああぁ…それなのに…

どうしてこんなに感じるのだろう…

気が遠くなるくらい、いいんだろう…



木の幹に預けた二人の体が激しく動くたびに
頭上からは桜の花びらが、二人を嘲笑うかのように降りかかって来る。

視界を薄ピンク色に染め、息すらも苦しくさせる、風なき花吹雪の中―――

ヒカルもアキラも昇り詰めて行った…………









「どうして、って…さっき訊いたよな?塔矢…
だってさ、お前、最初からイヤイヤだったから…。」

「え?…なに、を…。」

整わない息のまま、震える声で問う。
いきなり始まった会話に、まだぼんやりした頭が、余韻に疼く体が付いて行けない。

「そうだろ?今だって俺が言わなきゃ、お前から求めることないもんな。
最初は絶対駄目そうな感じで…やっとさせてくれたと思ってもその気、なさそうで…
ホントはさ、俺に流されてる――だけ?」

だから不安になる…危ない状況でも、強引に抱くことで不安を消したくなる…
最近、俺、ちょっとそういうヤバい感じが暴走しそうで…困ってる…
ホント、困ってるんだ…



甘い手付きで頭を撫でられ、髪を梳かれながら
耳朶に唇が触れるか触れないかの距離で囁かれた。

驚いてヒカルの目を見ると、潤んだ瞳が言葉に違わず不安気に揺れていた。

寄せられた眉。
腫れぼったくなった紅い唇。

アキラは事後のヒカルを見るのがたまらなく好きだったが
今日はもっと違う雰囲気が漂っていた。



―――ヒカルの意に添いたかっただけなのに。
自分を欲しいと言われれば応えるし、そういう意味ではいらないのだったら
ヒカルの幸せを祝福した。…するつもりだった。

アキラにとってそれは
受身に徹するという悲壮な決意でも、消極的な選択でもなかった筈だ。
自分なりに尊い、ヒカルへの愛情の形―――そのものだった。



その気持ちを、不意に思い出した。
体を繋げることに気を取られるあまりに忘れかけていた
最初にアキラが愛を自覚した時から胸に刻んでいた、その気持ちを。

さりとて、それを言葉にして伝えたいとは思わない。
そんなことをするのは無粋というか、アキラの美学に反することでもある。

だから、次にアキラが取った行動は
アキラ本人の中では矛盾するものではなかった。



さっき自分の中から出て行ったままで
まだ濡れそぼっているヒカル自身に触れた。

もう片方の手で、自分の萎えかけたものを取り出し添わせる。ぎゅっと握り込む。

そして、ヒカルの唇を求めた―――表情だけで。
両手は下半身に吸い付いているから、そうするしかないのだ。



「とうや…もっと、いいの?俺、もっと、お前を欲しがって…いい?」


泣きそうな声が、アキラの耳を優しく嬲った。

うっすらと微笑んだアキラは
一度達した後だということを差し引いたとしても、壮絶に美しかった―――



ヒカルは今度こそ唇を重ねて来る。
それはアキラのではなく、己の悲鳴を閉じ込める為の唯一の方法だった。



何度も角度を変え
舌を深く差し込むがゆえに離れそうになる唇を合わせ直し
息遣いも激しいキスを交わす。

合間合間にアキラも告げた。

「もっと、したい…足りない…行こう、どこか二人きりになれるところへ…っふ…
ぁ、ああっ…しんど、っ…外ではとても出来ないことを…した、い…。」

…今夜は僕が君を寝かせないから、覚悟しろ…



それを聞いたヒカルは

愛しい者の名前を高い声で呼んだが



それは



突然巻き起こった花風によって

たちまち掻き消された―――――














NOVEL