― アキラの事情 ―
「なに、お前、歯医者でも行った?」
「えっ…どうしてわかる!」
「だって今、口ん中、微妙に動かしてたろ?」
「あ、ああ、実はそうなんだ。治療の時の麻酔がまだ効いてて、違和感が…」
恥ずかしいな、変な顔してるとこ見られるなんて、と。
アキラが本当に恥らうように言うのが、ヒカルの目を更に引くのだ。
「んー、もしかして…右?」
「う、ん…」
「やっぱり!ちょっとだけ、口の端、膨れてるぜ?」
「み、見るなっ!」
今度は「恥ずかしい」とは口に出してこそ言わなかったが、そういう気持ちがありありとわかる態度で顔を背けるアキラを、ヒカルが無理矢理自分の方に向かせた。
アキラも身を捩って反発するが、人目がない場所だからと自分で自分に言い訳しては、結局、ヒカルの思うままにさせてしまう。
「綺麗な顔のヤツってさ、ちょっと歪みがあっても変わんないな…いや、むしろ可愛いかも?うん、可愛い…可愛いよ、塔矢…」
アキラの滑らかな頬を撫で擦るヒカルの大きな手に、アキラは身を震わせる。
そしてその手が少しずつ、二人の顔と顔を近づけようとしているのを感じる。
「止めろっ…しんどっ…」
ヒカルがこれから自分に何をしようとしているのか、その意図を察して抵抗を見せるアキラ。
「どうして?麻酔切れてないと、口ん中…感じないから?」
「感じない」という言葉に深い意味をこめて、挑発するように囁くヒカル。
「そうじゃないがっ…顎が、まだだるい…ずっと口を開けているのが、苦手で…」
だから顎がだるくて変なんだとアキラが切れ切れに言うと、ヒカルが急に言葉に詰まった。サッと、顔を真赤に染めた。
「進藤?」
「おまっ…そんな恥ずかしいこと…俺を煽ってんのか?」
「な、にっ?」
アキラがきょとんとしてると、ヒカルが目を潤ませて言う。
「やっ、だから…お前、ずっと口を開けてるの苦手なんて…じゃあ、いつもは、そのぉ…」
しどろもどろになるヒカルは、耳まで真赤にしていた。
アキラも、思わずその変貌から目を離せなくなる。
「あのさ、顎がだるいって言うけど―――お前、俺の〇〇を××した後、よく、言ってるじゃんか……………」
つまりはそういうことを言ってるのだ、だからヒカルはここまで赤くなったのだと知り、アキラもとうとう怒り出した。
羞恥で死にそうになりながらも、ヒカルの胸といい、肩といい、あちこちを叩きまくるアキラをヒカルの力強い抱擁が丸くおさめるのは、間もなくのことだ。