― 同時プレイ ―





「そうだ!それだ!」

俺は弾かれたように頭をあげ、手の中で弄んでいた携帯を開いてメールを打ち始めた。

ブブブッ・・・

「うわっ!!」

その途端、携帯が震えて着信を知らせる。
塔矢からだ。

『白12の7でのびて受ける。どうだ?』

くっそーっ、同じだよ、同じ!全く同じ!
電話をかけると、塔矢の声は笑っていた。

「また同時だったか。最近多いな」

その通りだった。
ここんとこ難しい局面にぶち当ると、塔矢と別れた後も、もっといい手はないか、活路はないかと考えに考えて・・・・・

思いついて伝えようとすると、ほぼ同時に塔矢も思いついているんだ。同じ手を。

「悔しいな・・・」
「進藤?僕と同時で、嬉しいじゃなくて?」

茶化すようなことは滅多に言わない塔矢だけど。
今日は機嫌がいいんだか、悪いんだか。

「決まってるだろっ、同時じゃ駄目なんだ!一分でも・・・いや、五秒でもお前より早く思いつかなきゃ、意味ねーだろっ・・・これが・・・これが対局なら―――」

ああ・・・と、納得した声が電話の向こうから聞える。
急に空気が変わった。

「明日も打てるか」
「おう」

明日だけじゃねえ。明後日も、その先も。ずっとずっと。

電話を切って見上げた新しい年の空は、永遠に打ち続けるだろう塔矢と俺の未来のように、果てしなく広がっていた。













その日はいつもと違って、珍しく塔矢と俺の意見が分かれた。
ここんとこずっと、同時にいい手を思いつく時は、十中八九同じ道に辿り着いていた。
そしてそれが、お互いの負けず嫌いを刺激してもいたんだ。

「僕の考えは変わらない」

電話の向こうで、塔矢の低い声が響く。

「俺もこっちがいけると思う」
「引かないな」
「お前だって」
「だったら君、今から時間あるか」
「いいぜ、どこにする?」
「家に来てくれたら助かるが」
「らじゃ」
「待ってる。そこからなら・・・30分かからないな」
「んー、30分かぁ・・・いっそ、一緒に住んでたら早いのに!こういう食い違いがあってもさ、すぐに検討出来るじゃん!」

・・・・・・・・え。
今、俺、何て言った?
一緒に住む・・・住むって言った??
俺ってば、何言い出すんだ!

妙な間になった。
まずい、この沈黙はおかしいと、俺の中のもう一人の俺が慌てる。
自分で口にしたことに足元をすくわれて体勢が立て直せないでいると、塔矢がこう言った。

「ああ、そうか・・・一緒に暮らせばいいのか。君、いいことを言う!」

・・・はい?塔矢さん??

「そうだ。君と一日中打てる。検討出来る。碁のことを思いっきり話せる!何て素晴らしい!」
「―っ・・・」

塔矢の昂奮した声が、次第に俺の心を逆撫でした。

「お前〜、碁のことばっかり・・・どうせお前はそうだろう。誰でもいいのかよ!一緒に住んでいつでも打ってくれる相手なら!」

・・・あ、そっか。
俺がイラっとしたのは、ココんとこか。
ストンと納得。

「進藤?何を怒っている?君だって碁が一番だろう?でなければ、僕とこんなに毎日碁のことばっかり話すものか」

一気に膨らんだ得体の知れない苛立ちと混乱が、またスーッとしぼんでなだらかになる。
それは塔矢の落ち着き払った言葉のおかげじゃなくって、俺が俺の心をちゃんと掴めたからだ。

「それに」と、塔矢が続ける。

「?」
「誰だっていい訳、ないだろう?進藤・・・君はそういうとこ、わかっているようでわかっていないんだから―」
「!」

溜息混じりの声がただただ憎ったらしくて、俺は叫んだ。

「すぐ行く!首洗って待ってろ!」

返事も聞かずに電話を切れば、もしかして最後の言葉は「さり気ない殺し文句」ってヤツだろうかと、ふと思う。

(アイツ、天然だ・・・始末におえねえ・・・)

心の奥に芽生えたムズムズするような想いには当面、目を瞑ることにして。
俺は「塔矢と暮らしたらどうなるか」について、果てしない脳内シミュレーションを始めた。










NOVEL