― BED ―
「…も、駄目?平気?…俺、まだしたい………立ってられそう?」
「ん、は………っう…だ、いじょう…ぶ…―――っ………あ、あ、ぁ…。」
「気持ち、イイ………すげえ、ドクドク動いてる…お前ん中………もっとイイ?もっと突いても、平気?」
「っあ!しん、ど………イイよ、僕も…んぅ………ん…ぁあ………や、ぁ…。」
「声、聞こえるよ?どうすんの、誰かに聞かれた、ら………お前、淫乱…だってば…。」
「だって君が…こんなところ、で………っ―――…っ、っん…ん………。」
漏れる声を押し殺すため、僕は進藤の肩に噛み付く。
それは進藤も望んだことだった。彼の欲したやり方だった。
襟をくつろげた彼の胸元に手を滑り込ませ、そこを奥まで開き、むき出しになった浅黒い肌に歯を立てると、僕の中の彼自身がすぐさま反応する。…熱く、膨らむ。
背中に回した腕は彼の首を締め付けるようにしがみ付き、彼に穿たれている下半身は震えを堪え切れずに、心許なく揺れた。
感じるあまりに不安定になったと見るや、進藤が僕の片足を腕に引っ掛け、そこを持ち上げては更に開く。
犯される角度が微妙に変化し、感じるヒダを擦り上げるように抜き差しされると、自然と腰が逃げる。抜けそうになる。
だが―――立ったままの僕の背後はかたい壁で阻まれ、追いかける彼の腰に結局僕は奥までイッパイに満たされるしかないのだ。
剥き出しの腰から臀部にかけてが壁に押し付けられ冷たさを覚えるが、すぐに繋がった部分を揺すり上げる進藤の激しさに翻弄され、快感だけを与えられる。
背面の痛みも、裂かれる足の付け根の痛みも、何も感じないくらいに。
やがて繋がった場所からトロトロと何かが混じり合ってしたたるのを肌に感じながら、僕らの下半身はゆっくりと溶け合い、一つの熱の塊になってゆく…
「ん、あぁ………誰か、来るか、も…しん、どっ…。」
「うん…も、イこ………俺、限界…お前、ヨ過ぎ…こんなエロい声、他の誰にも聞かせたくない……。」
―――そう…
そこはいつ、誰が来てもおかしくない場所。
雑居ビルの屋上に続く、階段の踊り場。
薄暗い場所に、僕らの恥ずかしい喘ぎと淫らな音だけが響いていた………
進藤に告白した時、僕には自信があった―――彼も僕と同じ気持ちであると。
それは、彼の僕を見る瞳の中に、僕と全く同じ色を見ていたからだ。
だから告白して結ばれた時、そこがベッドの上ではなく、ベッドに辿り着く前の床の上だったことなど気にもならなかった。
ただ、嬉しくて。…幸せで。
僕らを待ち受けているのがどんなに厳しい未来だろうと、そんなことはどうでもいい。
僕は進藤を愛している。進藤も僕を愛している。
心で想うだけなんて、奇麗ごとで済ませるつもりもなかった。
男同士でも行き着くところまで行き着くだろうと思っていた僕は、最後まで結ばれたことを、ただひたすら喜びの中で受け入れていたのだった―――
ニ度。三度。
体を重ねる回数は増えていくが、そのうち僕は気付いた。
進藤は、僕をベッドの上で抱こうとしない。
そして、一晩中僕と一緒に過ごそうとしない。
布団を敷く前の、僕の部屋の畳の上で背中から。
人気のなくなった棋院の一室で、立ったまま。
家族のいない進藤の家の、台所のテーブルに押し付けられて。
仕事先のホテルのバスルームで、シャワーに濡れながら。
飢えたケダモノみたいに、二人きりになるとすぐにことに及ぶ彼は、まるで何かに追い立てられているかのようにも見える。
そして―――
僕と同じ布団にくるまって朝を迎えることは、一度もなかったのだ。
そんな愛し合い方が、ニヶ月ほども続いた頃だろうか。
とうとう僕は進藤に切り出した。無理矢理彼の手を引いて連れて行ったホテルの一室で。
「進藤…今夜はちゃんとベッドの上でしよう。そして、朝まで僕の傍にいてくれ。…お願いだ。」
人が聞いたら、どうしてこんなごく当たり前のことをお願いせねばならないのだろうと、それこそ不思議に思うに違いない。
しかし―――僕にはわかっていた。
進藤は故意にベッドを避けている。それ以外のところで僕とセックスしたがっている。
…いや、多分、それ以外のところでしか、僕とする気はないのだということが。
もしかしたら…僕に原因があるのだろうか。…それとも、彼の方に?
彼の愛情を疑う訳ではなかったが、これだけはどうしても不可解でならない。
せめてその理由を知りたくて、僕は切り出したのだった。
「塔矢…お前、わかってるんだろ?俺が普通じゃないことに…。」
進藤は、今まで見たこともないような苦悶の表情を浮かべていた。
すっかり大人になった顔は頬がそげ、憂いをたたえた瞳はどこか色気すら感じさせる。
その顔を見ているだけで、僕も息苦しくなって来るのだった。
「普通じゃ…ないのか?普通に布団の上で愛し合って、一晩ともに眠ることが…君には出来ないとでも?」
ズバリ問い掛ける僕に、進藤はしばらく逡巡した末………ただ静かに、頷いただけだった。
その日はもうそれ以上、彼に問うことなど僕には出来なかった。
僕が抱き締めると進藤は抱き返してくれたが、その腕に力はなく、ご免…と小さな呟きが僕の胸を刺した。
たまらなくなり、僕は彼の髪に指を入れ、ゆっくりとかき混ぜる。こめかみには、幾度も小さなキスを落とす。
出来るだけ優しくしたいと思った。何故なら、彼は心で泣いていると感じたからだ。
そして同時に、これ以上彼を問い詰めて、彼が僕から離れていくことになったらどうしようという浅はかな畏れも、確かに僕にはあったのだ。
いつもと同じだった。
僕らはベッドに行くこともなく、話をしていたその場所―――部屋の窓際に置かれた椅子の上で抱き合うことになる。
進藤が足を開いて場所を作り、その膝に乗り上げた僕が彼を飲み込んだ。
正面から抱き合う格好は、椅子の上では不安定でならない。
僕がずり落ちないようにと、少しだけ腰を前にスライドさせた進藤に一層上半身を預ける。
突き上げられる腰の動きに合わせ、僕の声も呼応してリズムを刻んだ。
「あ、あ、あぁ…ん、ん、ん…っふ…っは…。」
「イヤ、なの?…こんな風に抱かれるの、イヤ?塔矢…。」
「ちが…あっ!あ、あ、しん、ど………そうじゃ、ない…っ、っ、っ…。」
「ご免………でも、俺、お前を普通に抱くことが、出来ない…。」
「あ、あ、あ………。」
「初めての時、そうしようと思ったら…足がすくんで…お前をベッドに連れて行けなかった…何度もそうしようと思って………でも、考えるだけで萎えて…。」
「も、いいよ…いいから…話したくない、なら…っ…。」
僕は進藤の口を塞ぐように、その頭を胸に抱え込んだ。
今日も中途半端に脱がされたままだから、シャツの前を開かれただけの胸に進藤が激しく吸い付いて来る。
敏感に立ち上がった突起を、ヌルヌルとたっぷりの唾液をまとった舌に舐め上げられる。
背中から腰へと斜めに回され、僕を支える進藤の手は、繋がった場所をその器用な指先でなぞっては僕の羞恥を呼び覚まし―――僕はとても、乱れた。
そこに。
すぐそこに。
ベッドがあるのに。
おそらく一晩中、僕らの体温で温められることのないベッドを横目で見ながら、僕らはそのまま部屋の片隅で最後まで愛し合ったのだった。
そして。
全てが終わった後、僕がシャワーを使っているうちに、進藤はいなくなっていた。…いつもと同じように。
どうしてなんだろう…
彼がこんな風にしか人を愛せないのは…何故なんだろう…
…いや、そうじゃないのかもしれない。根本的なことが違うのかも―――
相手が僕だから。塔矢アキラだから。
同性である僕だからこそ進藤は普通の男女と同じ形で愛せないのかもしれないと、密かに芽生えた疑いは、やがて確信へと変わった。
それは、飲み会の席でのことだった。
「進藤さ…お前には何か、相談してる?」
比較的大人数の勉強会の後、若手だけで飲みに行った。
普段はそういう付き合いの薄い僕だが、進藤がいないこともあって逆に参加してみようかという気になったのだ。
僕に話し掛けて来たのは進藤の親しい友人、和谷君だった。
「相談って…。」
「いや〜、アイツ、最近また痩せた気がしてさ…三ヶ月くらい前、かな?ちょっと荒れてた時期があったから、またその頃みたいに寝らんなかったり、酒ばっか飲んでんのかなって…。」
「進藤が?」
予想もしていなかった話に、僕は驚きを隠せなかった。
「いや、残念ながら何も相談されたりは…でも、最近少し変かもしれないとは思ったけれど…。」
僕は慎重に言葉を選びつつ、話した。
「そうだろ?アイツね、実は好きな子がいるみたい。でも、好きになっちゃいけない相手だったとかで、それでめちゃくちゃ落ち込んでた。…って、それも酒を飲ませてやーっと聞き出したんだけどさ。」
「好きな…。」
「手を出したのかって聞いたら、そうしちゃいけないってわかってたのに我慢出来なかったってさ。もしかして無理矢理、やっちまったんかな?…それが堪えてるんのかもしんないなぁ…。後悔してんの?って聞いても、その子以外、絶対に好きになれないのもわかってるって、スゲエ大真面目で言うしさ。」
酷く思い詰めてるんだよ、アイツ…ああ見えても、真っ直ぐで熱いトコあるからさ…
和谷君の声が遠くに聞こえる。
眩暈がして、僕は手にしたグラスを倒しそうになった。
「お、おいっ…塔矢、お前酔ってる?しっかりしろよ。」
「ああ、大丈夫だ…進藤の話が意外で…。」
「悪かったかな?お前には刺激が強かったっけ。お前、女関係には興味なさそうだもんな。」
「そういうこともないけど…でも、進藤の相手って…君は知ってるのか?」
「いや〜、さすがにそれは俺もまだ聞いてねえ。…好きになっちゃいけないってことはさ、人のもんなのかなって想像はする…。だけど、あんまり深刻なことを突っ込むのも本人が話したがらないのに、俺もヤだし…。」
和谷君は、心から進藤のことを心配している様子だった。
裏を返せば、僕の知らないところで進藤はかなり荒れていたということでもあるだろう。
和谷君の話を聞いてからは、進藤に対する形にならない不安がますます募っていき…
そしてその出来事は起こった。
進藤から携帯で呼び出され、僕が向かった場所はこの前のホテルだった。
無言で僕を迎え入れた進藤は蒼白な顔をしていたが、僕の問い掛けには何も応えず、黙々と僕の服を剥ぎ、自分も脱ぎ捨てた。
「進藤…大丈夫なのか?君…。」
「……。」
僕の心配する声は無視された。ベッドに突き飛ばされ、そのまま圧し掛かられる。
スプリングの軋む音。目に飛び込んで来る天井の光。 胸元にかかる熱い息。
乱暴ともとれるキスで深く探られながら、重なった全身を揺すられた。体で体を刺激される心地良さに、僕の方はあっという間に走り出している。
いつもと違う状況。
いつもと違う、進藤のやり方。
これから何が起こるのだろうと胸が鳴り始めた時、僕の上にいる彼から呻き声が聞こえた。
「進藤?」
「…ダメ、だ…。」
彼はノロノロと起き上がった。呼吸が急に楽になり、僕も肘をついて半身を起こす。
―――進藤は、俯いていた。
「どうしたんだ…君、無理をしているんじゃ…。」
「うん…今日こそはって思って…でも―――」
進藤の視線が、彼の股間に落ちる。
「ここで抱こうと思っても、ダメみたいだ…お前の体を前にしても…ここがベッドの上だと思うだけで…なんか………どうしても………ダメ…。」
なっさけねえ…と。
頭をブンブン振る進藤の顔は、よく見えない。
見えなくとも、その顔がいつも以上に苦しげに歪んでいるのだろうと思うと、僕の胸はキリキリと締め付けられた。
「もう、これでお前が最後にするって言うなら、俺も覚悟を決めるから。」
だから話を聞いてくれと、僕を見詰める彼の真摯な瞳に頷く以外に何が出来たというのだろう…
―――重たい沈黙の後、進藤はようやく語り出した。彼の胸のうちの、真実を。
多分、俺の中には罪悪感に近いものがあるんだ―――お前を、俺の気持ちに巻き込んじゃいけなかったっていう…
お前は俺が無視していたら、そのうちに周りのすすめる女性と付き合って普通に家庭を持てたと思う。
だから俺は、絶対に絶対に自分の気持ちをお前に悟られちゃなんなかったし、お前に手を出してもなんなかったんだ。
いつまで経ってもその気持ちが消えないから、俺はどうしても普通にお前を抱けない。
他にどんな理由も思い付かないから、それしかないんだと思う。
何度も、今日こそは普通に抱こうと決意しても体が動かない。気持ちが冷える。
説明のつかない、しかしどうしても抗い難い感覚に翻弄され、そんな自分を僕に悟れるのも密かな恐怖だったという………
進藤は、決して弱い人間ではない。
おそらく、僕の知らないところで僕の知らない壮絶な苦しみを乗り越え、そうやって碁を打ち続けた人だ。
彼と知り合ってからの数年を振り返る時、そのことは容易に想像がつく。
だからこそ、その進藤がこんな風に心に闇を抱えていることは、僕への愛情の大きさと複雑さを物語っているのだろう…
「やっぱ俺、変だよな?お前に愛想つかされても…しょうがねえや…ははは…。」
自虐的に笑う進藤の顔を睨み付け、僕は言った。迷いはなかった。
「君は僕を何だと思ってるんだ?そんな半端な気持ちで…一時的な気持ちで君と付き合っているんじゃない。馬鹿にするな。」
「でも…。」
「いいよ。今、ここで納得出来ないなら、これからの僕を見ていればいい。僕は別れない。君の傍にいる。今まで通りだ。」
「塔矢…。」
「…それに。」
僕は進藤に寄り添う。彼の肩にそっと頭を乗せ、囁いた。
「僕が君と抱き合うことを嫌がってる訳ないだろう?…そりゃ勿論、ちゃんとベッドの上で朝までしたいって気持ちはあるけど…でも、どこでどういう形でも…君と抱き合って気持ち良くなってること、ちゃんとわかってるくせに…。」
口にしてしまうと、途端に顔が熱くなった。
恥ずかしい…
散々いやらしいことも非常識なセックスもして来たというのに、ただ、真正直な気持ちを伝える、それだけのことがとても生々しく、恥ずかしいと思ってしまう。
「塔矢、本当にいいのか?今のままで…お前、後悔しない?もっと普通に恋愛して、誰からも祝福される人生だって選べるんだぜ?」
「それを僕が望んでいるとでも?だから君は何もわかっていないんだ。…じゃあ見せてあげるよ、僕の気持ち。―――今から行こう。」
「…は?行くって…どこへ…。」
「どこでもいいよ、ベッドなんかないところだったら。…そうだな、外でいいだろう。公園でも河原でも、どこでも。君が望むなら、誰かに見られるかもしれない危険なところで抱き合ってもキスしても、僕はいいよ。」
…いや、最後までしたっていいんだ。
言い切ってしまうと、顔から火が出そうだった。
一体僕は、いつの間にこんな風になってしまったのだろう。
進藤ヒカルという男を愛した、ただそれだけで―――僕の世界が変わろうとしていた。
それから僕らはホテルの部屋を後にし、狂ったように体を重ねた。
何度も何度も相手を悦ばせ、体の一部を繋ぎ、そこから得られる快楽を貪った。
そこには愛とか労りとか、そんなものが入り込む余地はない。
ただひたすら、肉体で確かめ合う。
同性の体でも構わないくらい相手を欲している―――その想いの深さを。
ホテルを出てまず最初は、駐車場に置いた進藤の車の中で我慢の限界が来た。
黙ったままで乗り込んだ僕らだったが、ドアを閉め、密室になったと同時にどちらからともなく引き合い、激しく口付けた。
角度を変えながら味わう荒々しいキス。
指を差し込んではクシャクシャに掻き乱す髪。
互いの存在を必死で繋ぎ止めるかのような抱擁は、今ここで誰かに覗かれたとしても理性で踏み止まれないくらい乱れたいという、僕らの切迫した気持ちの表れだった―――
やがてシートを下げスペースを作ると、僕らの欲望はダイレクトな悦びを求めて下半身へと向かった。
いつものように進藤が僕の股間をくつろげ、わざと下着の脇から忍ばせた手で形を変えてゆく。
唇は僕のうなじを強く吸いながら移動し、たまらずに僕は腰を揺らして応えた。
「あ、あ…っ…。」
「まだ柔らかい…でも、熱い…すぐにかたくしてやるな…。」
「君、も…。」
「俺のもしてくれる?…嬉しい…でも車ん中、狭いから…後でな…。」
「イヤだ…すぐしたい………クチ、で…。」
「この綺麗な口で、してくれるの?…いいの?」
進藤の舌が僕の唇をなぞり、視線を合わせたままの僕らは舌先だけを撫で合うように絡ませた。
「うん、したい…君が欲しい…。」
「じゃあ…して。俺の、いやらしく頬張って見せてよ。」
頭を抱え込まれ、彼の股間に押し付けられた。
僕を嬲っていた進藤の手は背中越しに回り込み、やっぱり僕を握って離さない。ユルユルとしごかれる。
まだズボンをはいたままの彼のそこは、既に布地を持ち上げるほどに反応していた。
僕も嬉しいからすぐには楽にしてあげずに、ズボンの上から何度も撫ぜる。音を立てて吸い付く。
「も、焦らすな…触って………早、く………咥えてっ、塔矢っ!」
待ち切れずに進藤が自らズボンを下ろすと、下着が見えた。
濃い色にも関わらず、そこはもう僕の息で湿っており、内側からは進藤が溢れさせた先走りの液で濡れているのも見て取れた。
「凄い…もうこんなに濡らしてる…。」
「馬鹿、お前のせいだ…こんなところでしてもいいなんて…お前、最高に馬鹿でエロい…。」
「だったら、僕がこんなになったのは…君のせいだ…。」
「と、や…ああぁ…どうしたら、いい………こんなに好きで好きで、苦しい…のに…。」
息も絶え絶えで愛を語れば語るほど、本能のままに快感を追えば追うほど。
オスの匂いが車の中を満たし、陶酔の中で僕はボンヤリと考えた…
―――こうして中途半端に服を着たままというのが、進藤には安心するのだろう。
全裸になることは、心も全て見せ合い、それを相手に委ねることに繋がる。
だからこそこんな愛し方しか出来ないのだろうと、僕は何となくだが、彼の気持ちがわかるような気がした。
気が付くと。
僕の頬は濡れていた。
それは、こんな風にしか愛し合えない僕らを憐れむゆえの涙ではなく。
ただ、愛しくて。
愛し過ぎて。
そんな存在に出会えたことが。
どんな形でも愛し合えることが。
涙が溢れるほどに、僕は幸せだったのだ―――
「…た…っー…。」
「大丈夫?痛い?もっと、俺にしがみ付いて。腰、浮かせてみろ。」
河原の下草の上。
鋭い石が後頭部にあたり、思わず声が漏れた。
すぐ脇の国道を、何度も車が走り抜ける。
ヘッドライトが辺りを照らすたびに心臓が跳ね、僕らが繋がり合ったその場所がドクン…と、脈打つのだった。
横たえられた僕の腰を掴んで浮かせると、そこに進藤が自分の太ももを滑り込ませて来た。
そのまま片足を進藤の肩に掛けられ、半ば宙吊りのような格好になるからズボンも簡単に滑り落ちてしまう。
片足に引っ掛かったままの衣服。
腰を揺さぶられると、カチャカチャとベルトの音がその動きにシンクロする。
「あっ!…っ、あ…ん………。」
下着も、破れたのではないかと思うくらいの勢いで乱暴に抜き去られ、外気にさらされた股間が羞恥で悶えるのすら許されずに、すぐに熱いものが秘所にあてがわれた。
もう…もうこんなに、僕らは欲望まみれになっているなんて―――
さっきも、車の中で貪り合ったばかりだ。
それなのにあっという間に体は再燃し、出口を求めてのた打ち回る奔流は恥ずかしい場所を勃ち上げ、大きく膨らませる。
彼が僕を、堅く育ち、十分に潤んだ果実で、徐々に押し開いてゆく。
貫かれるその速度に合わせて、僕も快楽に忠実に、内側も外側も形を変えて応えるのだった。
「ん、あ…っあ………う…。」
「すご…お前ん中…ここまで、熱く…なれる………っ、っ―――…。」
僕の感じる内部を探るように、焦らすように、ゆっくりゆっくり抜き差しする彼の全身のうねり具合は、まるで水中で泳いでいるかのようにも見える。
「水しぶき…みたい、だ…。」
「え?」
「汗が…泳いだ後のように…ほら…。」
手は届かないから、指で示すことしか出来ない。
しかし進藤には通じたようで、彼はブン…と頭を勢い良く降り、わざと僕の上に雫を撒き散らしてみせた。
「お前の中…凄く狭いのに…奥深い…その中を泳いでる気分…。」
「うん…もっと…もっと、君を感じたい………感じさせて…。」
宙をさすらう僕の手を巻き付けろと言わんばかりに、進藤の上半身が折られる。
僕は彼の首裏に腕を回し、無理な態勢に体を軋ませながら、それでももっと彼を奥深くへ引き込むべく、腰をユルユルと動かした。
すると、僕らの間で天を向いてそそり立っている僕自身の敏感に開きかけた先端を、進藤のシャツの裾がかすめた。
ただそれだけの些細な接触にも僕はもどかしいほどの快感を受け取り、抑え切れずに腰を揺らし、声なき声をあげた。
「イイの?少し掠っただけなのに…イイんだ…そんなに…。」
「あ、あ…も、触って…ちゃんと…。」
「このまま、俺のシャツ越しにしてやる…布越しの俺の手、感じろ…。」
「そん、な………あ―――…っ…。」
下半身の一部だけをさらした進藤は、彼の欲望の全てを僕の中に息づく一点に注ぐ。
そして僕は、彼のシャツを被せられたまま握りこまれた熱芯に、全身の血が集まるような気がして眩暈を覚えた。
なんて情けない…
なんて、淫猥で低俗な…
誰かに見られるかもしれないとわかっていながら、僕らは互いの体に快楽を与えることを止められなかった。
声が漏れないようにと歯を食い縛っていた僕の唇は、どこか切れたようだ。うっすらと口内に血の味が広がる。
それに気付いたのか進藤が更に腰を折り、僕の奥を犯す角度を変えると、今度は口付けて来た。
僕の血を舐め取るように、広げられた舌が口内を柔らかく、隈なく、撫でてゆく。
じれったい口付けに僕の方が先に切れてしまって、進藤の舌を思いっきり吸い、歯を立て、懇願した。
…もっと、熱く、激しい、欲望のままの君が欲しいと。
こんな非常識な場所で、こんな荒ぶった気持ちで、今更、君に優しい愛され方なんてしたくないと―――
「うんうん…わかる…お前の中が呼んでる………いや、怒ってる…のかな…さっさとぶちまけろって…。」
唇と唇の隙間は、ほんの数センチもない。濡れた息のままに囁かれ、ほんのわずか触れる唇の表面が甘い痺れを生んだ。
それが腰の裏側から背筋を辿って脳天まで駆け上がる時には、僕は進藤の手に包まれた欲望をはち切れんばかりに膨らませ、その手の動きで解放されることを浅ましくも欲した。
腰を重ねて揺さぶっているうちに僕が達し、引き摺られた進藤も僕の体に爪を立て、引き絞るような声をあげて続いたのだった………
急速に冷めていく熱をどこへも逃がしたくなくて、僕はすぐに身を起こす。
空洞になってしまった僕の中から何かが流れ出すのを太ももに感じたが、それが衣服を汚しても一向に構わないと思った。
進藤も、同じ気持ちだったのだろう。
僕を助け起し、力が抜け切っている全身を包むように抱き締め、膝立ちのままで汚れた下半身を更に汚そうと強く、乱暴に擦り付け合いながら、深い口付けを交わした。
まだ、足りなかった…もっともっと、たぎる愛を見せ合いたくて、体も心もどうしようもなかった…
―――僕らの愛は、欲を解放されただけで満足する程度のものじゃないから…
「汚れちまったな…服…。」
「もう、ドロドロだ…背中は地面で汚れてる、きっと…それから、あっちこち…僕らの精液で…。」
「やらしいよ…お前…こんなにやらしいお前を望んでた訳じゃねーのに…。」
「望んでなかった?本当に?」
馬鹿やろう…と、小さな声は嘲りの色は含んでおらず、ただ甘さと切なさが入り混じった掠れ声にしか聞こえなかった。
横たわって交わっている時よりも人に見られ易い態勢であることはわかっている。時折り、車のライトがスポットのように僕らを照らすことも変わりない。
だけど、僕らはまだお互いが満足出来ていないことを確認し合えたし、それは限りない喜びでもあった。
縺れ合った淫らな格好のままでフラフラと移動したそこは、橋桁の下だった。
頭上には、列車の走る橋。すぐ横には車の走る道。僕らのいる河原には、人のつけた道だってあるというのに。
進藤は何も言わずに、僕をその橋桁のコンクリートの壁に後ろ向きで押し付けた。手を、矢張り進藤の手で高い位置に磔にされる。
背中に感じる、生々しい彼の体温。
額に感じる、ヒンヤリとした壁の感触。
重力に従って地面に完全に落ちてしまったズボンと下着を、彼にグチャグチャに踏まれながら、背中から愛される瞬間を待ち望んで、少しだけ腰を後ろへと突き出す。
すると、僕の手を磔にしていた進藤の手が降りて来て、期待通りのことをしてくれた。
割れ目を何度も上下に往復する進藤の繊細な指は、入り口まで届いたかと思うとすぐに離れ、広げられた大きな手の平は、僕の男特有の薄い肉を揉み解した。
もう片方の手はシャツの下から忍び込んで、胸の頂を、さっきは触れられなかったから…とばかりに、執拗に弄っていた。
背中には、達したばかりだというのにもう勃ち上がった進藤のものが、いたずらのように当たる。
早くそれを身のうちに感じ、僕の体で昂ぶらせたいと焦がれてもなかなか与えられないまま、今度は指の代わりにそれが割れ目が作る隙間にほどよくおさまり、緩く上下した。
「ここも、イイ…っ…お前の肌、滑らか…このままでもイけそう…。」
進藤の声に煽られた僕は、足をずらして彼を締め上げる。
立ったまま交わったことは何度もあったが、こんな場所では勿論初めてだ。
その時、頭上を電車が通った。振動音が伝わる。
ビリビリと激しいそれは、重なり合った僕らを一つにまとめて震わせる。
その振動は体の最奥へのたまらない刺激となり、僕らを本能のままに導いた…
今度は、突き刺すような鋭さで進藤が押し挿って来る。
音がするのでは思うくらいの圧倒的な質感で、それは僕の中を犯しながら進み、そして僕自身も限界まで張り詰めた先端をぐっしょりと濡らした。
「まだ、欲しいっ…愛してる…っ…塔矢…狂っちゃうほど…好き…お前を、めちゃくちゃに、したい…。」
「僕もっ…愛して…っ…あ―――――っ…。」
電車の豪音に紛れてしか、愛を口に出来ない。
しかし、そんな自分達を憐れむ必要なんて微塵もないのだと…
ただ、愛し合える幸せだけを抱き締めればいいんだと…
僕は通り過ぎる電車の音を、愛する人の駆ける鼓動と共に、恍惚と聞いていた。
ホテルの駐車場を出て、車を走らせた。
僕らはずっと黙り込んだままだったが、目指す場所は一緒だったから寂しさも虚しさも感じない。
やがて進藤が静かに車を止め、僕らは手と手を繋いで河原へと降りた。
そして―――秋の草花が揺れる深夜の河原で、羞恥も何もかもかなぐり捨てて愛し合ったのだ。
それは僕にとって決して欲望を満たすだけの行為ではなく、進藤に対して投げ掛けた自分の言葉を証明する為の交わりでもあり、僕なりに自然な愛情の発露でもあった。
そして。
その日を堺に、僕らの交わりは少しずつ変容していったように思う。
慌しい行為は変わりなかったが、進藤には何となくゆとりが感じられるようになった。
同時に、行為の間隔もあくようになった。
僕らの関係は安定していたし、こけていた進藤の頬も健康的な様子になりつつある。
それでも―――僕らの愛し合い方そのものは、変わらない。
温かいベッドの上で全裸になって睦み逢うという、満ち足りたセックスとは違った不思議なものだった。
春に告白して結ばれてから、数ヶ月が経とうとしていた。
もうすぐ今年も終わるという、師走のある日。僕らは芦原さんの結婚式に招かれた。
いいお式だった。誰もが幸せそうにお祝いを述べていたし、僕も心から嬉しかった。
しかし、進藤は僕とは違う感慨を持っていたのだろう。
かなりハイペースで飲んでいるとは思ったが、僕よりも先に二十歳になった彼は誰にたしなめられるでもなく飲み続けていた。
「進藤。飲み過ぎだ。」
僕がいさめた時は既に遅く、気分が悪くなった彼を洗面所で介抱する破目になった。
見かねた誰かがホテルの一室をとってくれ、休んでいくようにと言ってくれた時、僕は思いっきりホッとした顔を見せたに違いなかった。
部屋に着くと、彼の衣服を緩めただけでベッドに寝かせる。
水を枕元に置き、淡いスタンドの灯りで彼を見ていた。
…愛しいと、静かに波が寄せるように思う。
この若々しい、溌剌とした青年のどこに、僕を愛するが故の苦しみが隠されているというのだろう?
―――でも、そうなのだ。
間違いなく彼は、僕が想像出来る以上に僕との関係を真摯に悩み、そして追い詰められていたのだ。
それが、あの奇異な愛し方の原因でもあると…
そんなことを思いながら進藤の青白い寝顔を見ているだけで、泣きたくなって来る…
こんなセンチメンタル、全く僕らしくないとわかっているのに、心は既に泣き出している…
僕を愛してしまったからこそ、彼はこんなに苦しんでいるんだと思うと―――ご免…という言葉が、自然と零れた。
「だけど、ありがとう………僕を愛してくれて―――」
「………塔矢?」
急に声を掛けられ、僕は体を揺らして仰け反った。
「あ、すまない…もう、僕は行くね。お水はここだから。ゆっくり休んで。何かあったら携帯に…。」
「待って。行かないで。」
「え…でも…。」
「なあ、服、脱いで。ここに来て。」
こことは、彼が持ち上げてスペースを作ってくれた…その、布団の中のことだろうかと一瞬、理解出来ずに、僕は呆然と彼を見下ろした。
「だって…同じ布団では眠れないって…。」
「いいから。」
腕を引かれて、僕はそのまま進藤の上に重なる。
スプリングが軋んだのが耳に、体に伝わり、ああ…ここは本当にベッドの上なのだと実感した。
「寒いから…一緒にいて。」
「進藤?………え………まさか、もう?」
おそるおそる見ると、進藤は目を閉じ、寝息を立てていた。
もしかしたら―――今のだって、夢うつつだったのだろうか?
まだ落ち着かない気分ではあったが、僕は進藤の「寒い」という言葉を思い出し、彼をそっと抱いた。
「…そうだな…今夜は僕を毛布だと思って寝ればいいよ…。」
そしたら君は安心して…朝まで眠れるかもしれない―――
僕の呟きは夢の中の彼に届いたのかどうか、もうわからなかった。
朝が来た時、進藤は自分のしたことに驚き、ベッドの上で何度も僕についばむようなキスをくれた。
「嘘、みてえ…俺、ぐっすり寝てた。」
「だって意識がなかったろう?僕が横にいるって自覚がなかった。」
「ん〜、確かに…でも、お前の匂いとか体温とか…そういう気配はちゃんと感じてたと思うよ…。」
「ふうん…じゃあ、最初から酒の力を借りてみれば良かったのかな?深刻に考え過ぎずに…。」
「そ、それを言われると身も蓋もないんだけど…。」
「冗談だよ。…でも、こうやって一緒に寝るくらいは…もう出来るかな?」
「うんうん、きっとこれは進歩なんだと思う。………多分、セックスはまだ…だろうけど。」
情けなさそうな顔をして見せるが、それもどこか芝居がかっていた。
言われなくてもこれだけ密着しているんだから、進藤の股間に反応がないことはわかっていた。
「今度はさ、意識があるうちに一緒に寝て。手を繋いで、朝までゴロゴロして。」
「ベッドで見ると、君って意外と甘えん坊なんだな…。乱暴に僕を抱く時と、大違いだ。」
小さく笑うと、進藤も泣きそうな顔で笑ってくれた。
そんなことがあってから数日は、忙しくて会えない日が続いた。
僕はもう十分満たされていたし、むしろ進藤が無理することで事態が後退することの方が怖かった。朝まで愛し合いたいという夢は見るものの、それが実現しなくても今はまだいいとすら思っていたのだ。
だから―――
12月14日に進藤から誘われたホテルのレストランで、僕は驚かされることになる。
でっきり食事をするだけかと思っていたら…
このホテルの部屋のキーを見せた彼に、今夜は泊まるぞと宣言されたのだ。
「それは…誕生日だから気を遣っているのか?」
「そういう言い方は当たってないよ。お前の誕生日だからこそ、朝まで一緒にいたいというのは本当だけど…それだけでもない。」
そう…今夜は僕の誕生日だった。レストランに誘われたのは、僕の誕生日を祝う為だと思ったのに。
目の前の進藤は、静かに微笑んでいた。
…それは、見るものの胸を熱くするような、深い、美しい微笑だと思った。
進藤はいつの間に、こんなに人目を引く、精悍な容貌の男性に成長したのだろう。
時々覗く子どもっぽい表情は、かえって彼の魅力を引き立たせる材料にしかならない。
いくらでも女性にはもてるだろうに、同性である僕とのイバラの道を選んでくれる彼の愛情に、一体僕はどれだけ応えられるというのか―――
僕は、テーブルの上に乗せられた部屋のキーカードに手を伸ばすと、進藤の視線を感じながら、それをポケットに仕舞ったのだった。
「芦原さんの結婚式に出た時さ、あそこのひな壇に坐るのがお前で、隣には奥さんがって思うと…もう、全然ダメだった。―――心が死ぬと思った。…いや、本当に息が止まって死んでもおかしくないよ…きっとそれくらいの衝撃だと思う…。」
部屋に入って、まだ服を着たままで僕らは優しい抱擁を交わしていた。これから始まる長い夜の序章だ。
「俺ね、本当は期間限定のつもりだった。最初にお前に手を出した日…絶対にそうしようって…その期限が来たらお前と別れる。お前が普通の幸せにも目を向けられるように、俺から離れる。…だから今は、今だけはって、お前を抱く時はいつも自分にいい訳してた。」
「期間―――限定?何なんだ、それはっ!馬鹿なことを…。」
これまで彼には散々驚かされたが、これもまた予想を越えていた。
…そうか。そんなことを考えていたのか。全く…僕には計り知れないよ、君って人は…
「馬鹿じゃねえよ。それは俺なりに考えたことだ。でも、結局はお前を一度でいいから俺のもんにしたいって…自分にとって都合のいい口実でしかなかったんだよなぁ…。」
一体、どういう期限を設けていたんだと訊ねたら、半年…くらいかな、と歯切れの悪い答えが返って来た。
「でも、いざその期限が来るとさ、やっぱりダメだわ。俺、お前と別れるなんて出来ねえ…絶対に無理…だって、お前とのセックス、こんなにイイなんて思ってもみなかった…も、お前の体に夢中っていうか…。」
お前に溺れてるんだ―――と、最後の方は既に甘ったれた口調で、耳に唇を付けたまま囁かれた。
そのままちゅ…と、音を立ててキスをされ、そこから火が灯る。
「何だ…僕の体だけが目当てなのか?酷いな。」
「ち、違うってばっ!…っ―――…塔矢の意地悪…。」
仕返しとばかりに酸欠になりそうに甘く激しい口付けが、僕の呼吸も思考も塞いだのだった。
やっと満足したのか、進藤が唇を離す。
名残惜しさの余り追いすがるように顎を突き出してしまう僕も、彼のくれる快楽の全てに夢中で溺れているのかもしれなかった。
「塔矢…もう一回チャンスをくれる?」
声の力強さとは裏腹に、進藤の微笑が、痛かった。とても痛かった。
さっき見た笑顔とは少しだけ趣の違う、彼の心の揺れが鏡のように映し出されている笑顔。
そうか…立ちはだかる壁を乗り越えようとする時、君はこんな顔をしているんだな―――
「無理をしなくても、本当にいいんだ。僕は幸せだし…。」
「うん、俺も幸せ。でも、もっと幸せになりたい。俺がそうしたい。お前の誕生日に朝までお前を愛したい―――気持ちのいい、ベッドの上で。」
感動にも近い想いが溢れ…
僕は何度も何度も首を縦に振るが、言葉にはならなかった。
無事に最後まで愛し合い、ようやく白み始めた空を窓の外に感じた時、そこは念願のベッドの上だった。
上等なベッドの上でのセックスを反芻しながら、僕らは温かい毛布にくるまり、糊のきいたシーツに存分に手足を伸ばし、ダラダラと相手の体に触っては気だるい時を貪る…
「どうしよ…。」
「え…何?」
僕は、急に不安になって進藤の目を覗き込んだ。
一晩中抱き合い朦朧としていたせいもあるが、僕自身も、まだ夢を見てるような心地だったのだ。
「やっぱベッドって楽だよな?セックスするのに…。安定感バツグンだし、あんなこともこんなことも出来たし。」
…?
「今までまともな場所でしてなかったからさ、いつも一回くらいで終わってたのが、今日は全然止まらなくて…お前のこと、壊しちゃうかと思った…。」
…だ、から?
「ベッドの上で朝まで一緒にいられる体になっちゃったら…俺、何回で止めればいいんだろ?」
きっと、お前が痛がっても、射精しなくなっても…口や道具で可愛がったり、朝まで抜かないままで…とか、スゲエ激しいの、やっちゃいそうで………どうしよ?
言ってることのいやらしさとは裏腹に、青い悩みを打ち明ける少年のような無邪気な顔が愛しくて、僕は彼の頭を抱えて馬鹿…と、鼻声で囁いた。
こんな幸せもいつまで続くのか、僕らの将来を考えれば舞い上がってばかりもいられないだろう。
進藤もいつか再び、愛ゆえに精神のバランスを崩す時が来るかもしれないし、今度は僕がそうならないとも限らない。
甘さの中に混じる、一点の苦味が僕を刺すけれど、それは一人で耐えるものではないのだと、横にいる彼のことを深く想うのだった。
「塔矢…二十歳と一日、おめでと…こんな風に祝えるなんて、俺的にはかなりイケてるんだけど…。」
「うん、そうだな…これまで貰った最高のプレゼントということにしておいてやろう。…大体うまくいった途端、その晴れ晴れとした締りのない顔は、何だ?」
「ちぇ〜っ…お前、やっぱ意地が悪い…。」
それでも僕を突付く進藤の目は、柔らかく細められたままだ………
裸で横たわり、互いの体温で温めたベッド。
愛し合った後に二人で迎える、初めての朝。
日が高く昇るまで今日は眠れない…いや、眠らせてもらえないだろうという幸せな予感が、僕の眠気だけでなく、もっと違う何かをも吹き払ってくれた―――