― コンビニラバーズ ―
(後編)
【2005年度作品】





「何だ、これ〜。お前、こんなくだらねぇ質問に答えてんの?しかも……恥ずかしいこと言ってやがる……。」
「ああ、その雑誌ね。インタビュアーが面白い人で、つい色々と話しちゃったかな。でもどうして恥ずかしいんだ?正直に答えただけだよ。」
「馬鹿正直だって言うの、何で他人に喋るんだよ……こういうの……。」
「なるほど、そういう意味で怒ってるのか……照れているのかと思った。」
「照れてる?俺が?……こーんなことお前にしてるのに?」

手が伸びて来た。

雑誌を放ると、そのまま僕の腰を絡め取る。乱暴に引かれて、ベッドで寝そべる彼の上に倒れ込んだ。

顔が近くなると、さっきまで彼が吸っていたらしい煙草の匂いが微かにして、それが僕の中のスイッチを押したらしい。



恋人を思い出させる何かが、視覚だけでなく嗅覚までも侵すというのは、深い関係になってから知ったことだ。
彼の匂いを胸いっぱいに吸い込みながら、僕はうっとりと目を閉じた。

既に身も心も、これから起こることを想像するだけで甘く満たされていく……









風呂に入っている僕を待っている間に進藤が読んでいたのは、僕が少し前に受けたインタビュー記事が載っている一般誌だ。

碁以外の話題もふられ、僕がもうすぐ二十歳になるという話に及んだ。
小さい頃からこの世界に身を置く人間としては、成人することにどんな意味があるのか、相手は真面目に訊いて来たと思ったら、いつしかくだけたプライベート話にも踏み込んで来た。

本当に、聞き出すのが上手な人だったのだ。



誕生日はどんな風に過ごすのかと訊ねられ、次には今まで貰ったプレゼントで一番嬉しかったものは何かと訊ねられた。
おそらく、相手は普通に子供時代の想い出などを期待していたのかもしれないし、色っぽい話になればめっけものくらいに思っていたのかもしれない。

少し考えてから、この聞き上手で得意になっている相手をケムに巻きたくなった僕は、こう答えた。



……コンビニのおでん、ですね。



その時の彼女の顔ときたら!
今思い出しても可笑しい。噴出しそうになる。

随分庶民的なものが、嬉しいんですね。さすが囲碁界のプリンス!きどってらっしゃらないところがファンにもウケているんでしょう……などと、訳のわからないまとめ方をしていたっけ。
……あれは可笑しかったな。



そして、それがそのまま記事になっていた。文字で読むと、ますます馬鹿さ加減が増す。

コンビニのおでん……か。
その裏にどんな物語が隠されているんだろうかと匂わせるような書き方で、やっぱりこの記者は上手な人だと思った。









触れ合うだけのキスは、僕がその時のことを思い出している間にいつしか深くなっていた。

僕の唇を舐めた後、ゆっくりと入り込んで来た進藤の舌はあちこちを撫でて回り、最後に辿り着いた上顎の窪みを執拗にくすぐった。
再び煙草の匂いが鼻腔に広がり、僕は軽い眩暈を覚える……

目をぎゅっと閉じる瞬間に、進藤の舌を強く吸った。
ん……と呻いて、彼は唇をもぎ離す。唾液が口端から流れ落ちたのを感じた。

「……強過ぎた?」
「うん、スゲー感じた……痛いくらいがいいんだ……舌が、ピリピリ痺れるくらい……。」

もっと強く吸って……と、甘えるように突き出された舌を、カプ……と、唇で挟んであげた。それから歯を立てて甘噛みする。

焦れた彼の舌がまた暴れ出す頃になって、ようやく僕は彼のそれを自分のそれで絡めて奥へと導くとクウゥ……と圧かけて吸った。

塔矢……と。
合わさった唇からは漏れる筈のない音を、直接脳で聴いたような気がする。
鼻に抜ける甘ったるい音を奏でながら、僕らは角度を変え、息を荒げ、深いキスに没頭した。

始まりのキスで、これだ。
今晩はどのくらい凄いことになるのだろうかと思うと、それだけで下半身が猛った。



碁に限らず。
こういう時も、僕らの集中力には凄まじいものがある―――










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塔矢を好きになってから迎える、四度目のアイツの誕生日だ。



十七歳で初めての抱擁。

十八歳で最後までした。

十九歳の頃は倦怠期っつーかそういう時期っつーか、ちょこっと喧嘩もして。

二十歳になった今日、すっかり大人の体になった俺たちは、手順は慣れてるものの感じ方はかなり深くなっていると思う。
そういうのは、言葉で確かめなくてもわかる。

ディープキスするだけであっという間に塔矢の体は熱くなり、肌が汗ばんでしっとりとする。
大きくて繊細な手が俺の全身を這う。時々、爪を立てられる。



―――塔矢の唇の動き。口の奥でうごめく、見えない舌。
物を喰うところを見ては、妄想を掻き立てられた遠い日―――

ああ……俺も青かったなぁ……

ちくわぶに喰い付く塔矢が見たくて、おでんを買っては訪ねたあの頃が懐かしいぜ。
見事な箸遣いの前に、俺のよこしまな作戦は玉砕したけどな。



……あ、思い出したらキた。下半身が疼き出す。

俺は頭の方へとずり上がり、壁にもたれた。唇を貪りながら離さずに、そのまま塔矢を引き摺る。
小さな呻き声すら、残さず俺の口で吸い取った。

胡坐をかいた俺の上に、塔矢を坐らせる格好で向き合い……
滑らかな内股の肌を撫で摩りながらしっかりと掴み、両足を裂くように開かせると、ああぁ……と、塔矢は体を跳ねさせては悶えた。
その刺激で、塔矢自身がクッ……と張り詰めて上向いた。
俺の膝の上で、揺れる自身の欲望を無防備にさらして身をくねらせる塔矢は、男らしいのに色っぽい……

ああぁ……スゲー……感じてる塔矢を感じるだけで、俺自身もパンパンだぁ……

後ろ向きに倒れそうになるのを、俺はアイツの腰を掴んで支えた。
そんまま手で脇腹、背中、肩と全身を辿り、届く限りの場所に熱い唇を押し付けて吸う。

コリコリと堅くなった塔矢の胸の先も、俺の唾液で濡れて紅く光ってる。
味なんかない筈なのに、本物の実をついばんでいるように甘く感じるのは何でだろう……

「ど、しよ……まだこれだけなの、に……も、僕……。」
「いくらでも感じてれば……誕生日だろ……いっぱい感じろ……。」
「馬鹿、な……何の、関係が……あ、あ……ぁ……―――っ!」

細い首を思いっきり仰け反らせ、白い咽喉をむき出しにする塔矢は、まるで喰い付いてくれと言わんばかりに誘ってるじゃねーか……

不意に、凶暴な気持ちが湧いた。
逃がすものかと、しなる背中に、打ち振る頭に手を回し、塔矢の全身を乱暴に引き寄せる。

俺の腹で刺激されたピンク色の先端が切なげに震えて、そこから溢れたものが俺を冷たく濡らした。

「お願いだ……も、ぅ……。」
「だ〜め。一歩手前がいいんだろ?そこで足踏みしながら、ずっとずっと感じてろ……簡単にイかせるかよ。」

勢いをつけて腰を突き出す。堅いままの塔矢自身を、俺の腹で意識的に擦ってやった。
悲鳴を咽喉奥で堪えるような音がして、それがたまらなくイイんだ。
腰を使って何度も揺さぶる。目の前でおかっぱ頭が揺れてる。
上下する俺と、その上に乗せられて上下する塔矢。
ベッドが大きく軋んで、我慢する塔矢の代わりのように悲鳴を上げていた―――

やがて俺は、塔矢自身に手を伸ばす。
最初はやんわりと触れるだけの動きから、次第に熱を込めて触れた。
そしたら。
汗の浮いた俺の肩に指を食い込ませるほど、ヤツは反応した。その口から掠れた悲鳴が上がる。
俺は、塔矢の震える全身に狂ったように吸い付いた。



「誕生日なら、僕の言うこと……っ……ちゃんと、きけ……。」

むしゃぶりつく俺にとうとう堪え切れなくなった塔矢が、髪を掴んで引き剥がしにかかった。
少しだけ怒気を含んだ涙声が、俺の胸をジワリと熱くする。

「んん……そうだった、な……じゃ……。」

しっかり掴まって、と、紅くなっている耳に吹き込んだ。
ビクビクと肩を揺らした塔矢の腕を、しっかりと俺の首に巻き付け直した。

左手で塔矢自身を愛撫する。
利き手である右は、背後の丸味を揉みしだく。

全身が一段と熱を帯びたと感じた頃、俺は入り口を解すように撫でてから、ヌク……と指先を沈めた。

さすがにその瞬間は、塔矢も俺も緊張するんだよな……
こわばった体を緩めてあげたくて、小さなキスをたくさん落とした。合間合間に、好きだよ……凄く好き……大好き……と、肌に直接息をかける。

滑り込ませた指で隠された場所を刺激してあげると、塔矢が涙目で俺を見下ろして来た。
潤んだ黒い瞳が綺麗で。息が止まりそうに綺麗で。

それを見ているだけで俺はまだ何もされていないのにもうイっちゃったみたいな感覚に襲われ……頭が真っ白になった―――










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前も後ろも、上手に攻められる。進藤はああ見えても、実は器用で繊細なのだ。
意識が遠退きそうなくらい、酷く感じていた。感じさせられていた。
それを正直に訴えると、彼は薄笑いすら浮かべて言う。

一瞬でも意識飛ばすなんて勿体無いこと、すんなよ……しっかりと感じろ……一秒でも長く感じてろ…………



後は―――
必死で彼にしがみ付くことしか、僕には出来なくなった。








夜が更けるまで、何度も抱いて抱かれた。

もうだるくてしょうがなかった。腰から下に力が入らない。
トロトロと……事後の幸せに浸って眠りかけていると、進藤がまた抱きついて来た。

「腹、減った……久しぶりに頑張り過ぎちったかなぁ……何か喰わねえ?」
「ええ?僕はもう寝たいよ……離してくれ。」
「うわ〜、お前って冷たい……いいよ、俺、コンビニでも行こうかな。」
「コンビニ?じゃあ何か買って来て。」
「寝たいんじゃねーの?」
「コンビニと聞くと食べたくなるんだ。君のせいだぞ。新作が出るたびに僕にも煩く食べろ食べろと言うから。」
「へへ……おでんに感動してた頃は可愛かったなぁ、お前……すっかりジャンクにも馴染んじゃって。……そうだっ!肉まんの新作、美味そうだったぜ?丸くなくて四角いの。」
「それでいいよ、早くしてくれ。……本当に寝そうだ。」
「へいへ〜い。……あ、コンビニで思い出した。お前、さっきのインタビュー記事、本当のことは隠してたな。」
「は?何のこと……。」
「だってさ、一番嬉しい誕生日プレゼントはコンビニおでんじゃなくて……。」

言いながら、顔が近付いて来た。灯りを遮られて、彼の顔がほの暗くなる。



唇が触れ合う寸前に、囁かれた。



……俺だろ?お前、自分でそう言ったじゃん……おでんには漏れなく俺が付いて来るって、さ。



甘く、優しいキスを交わした後で、僕は言った。
微笑が自然に浮かぶのを止められない。



……肉まんもいいけど、おでんも食べたくなった。僕の好きなネタはよく知ってるだろう?



すると進藤も、まるで十七歳に戻ったみたいな笑顔で頷いた―――満面の、子供っぽい笑顔。
それは昔から、僕の大好きな笑顔だった。



大人になり、初々しさの欠片もなくなった僕らだが。
真夜中のコンビニにこっそり手を繋いで出掛けては、初めて口にする味にはしゃいだ日もあったなと懐かしく思い出したら、僕はすっかり目が覚めた。

「待って、進藤!僕も……。」

あの日彼を追い掛けたように、僕はまた彼と一緒にいたくなって、気だるさの残る体を懸命に起した。











NOVEL