母の日に寄せた二編になります。
まずはヒカルママ、そしてアキラママ。
「親の気持ち」
ヒカル、元気にしてる?ちゃんと食べてる?
碁の勉強もいいけど、飲まず食わず、寝ず…ばかり続けないようにね。
散髪もちゃんと行きなさい。
この前テレビに出てるとこ見たけど、ちょっと髪の毛ボサボサし過ぎじゃないのぉ?
前髪も痛んでるみたいだったしねぇ…
そうれはそうと。
母の日のプレゼント、ありがとう。
小ぶりで素敵なバッグね。ビーズやスパンコールが散りばめられて
華やかな中にも上品さがあって。
改まった日のお出掛けにはピッタリ。
もう一つのプレゼントも楽しませて貰ったわ。
お芝居観るなんて、何年ぶりかしらねっ!
舞台の豪華さに目を奪われちゃって、俳優さんの迫力にボーッとなっちゃって。
まあ、その素晴らしさについては、観ていないアンタに言ったってしょうがないけど。
ともかくありがとう。
なかなか取れない切符だっていうから、アンタ随分前からそのつもりだったの?
そして…
驚かせることがあります。
舞台がハネて洗面所で
たまたま横でお化粧直しをしていた女性のバッグに目が行って。
…そう、もうわかるでしょ?そこには同じバッグを持った方がいらしたの!
それはそれは上品そうな奥様で。
色白で小さなお顔に、黒々としたおぐしが映えていらしたわ。
あちらも目の前の鏡に映った私のバッグを見て、びっくりしたお顔をされて。
それから私を振り向いてにっこりと笑ってくだすったの。
本当に、お綺麗な奥様…
失礼ですが、同じバッグをお持ちのようですね?とお声を掛けたら
もしかしたらそちら様もお子さんからの贈り物ですか?と
はっきり尋ねてくださって。
それから私たちは顔を見合わせて笑ったの。
…可笑しいやら、ちょっぴり照れ臭いやら。
結局、そのままお手洗いで立ち話もなんだということで
近くのホテルのラウンジでお茶をご一緒しました。
凄いでしょ?初対面なのに、ちっとも初対面という気がしないんですもの。
だって息子さんにそっくり…
じゃなかった、息子さんが奥様にそっくりなのよね。
お坊ちゃまのことはさぞご自慢でしょうと聞いたら
ええ、本当にいい子なんですって堂々とおっしゃるところがとても素敵だった。
私、いっぺんでこの奥様が好きになったわ…ヒカル!
まあ、この奥様には遠慮しなくていいんだわと思ったら嬉しくてね
二人で散々息子自慢をしました。
…ええ、私だってヒカルには自慢するところがあると思ってるのよ!本当よ?
私はね、大昔お前と撮った古ぼけて色の抜け切ったプリクラを見せたり
あちら様は手帖に大事に仕舞っていらっしゃる
坊ちゃんの小さな時のお写真を見せてくださったり。
(お人形さんみたいだったわー、色黒のお前とは大違いね!)
あっという間に時間が過ぎて、本当に楽しいひとときだった…
駅で別れる時、奥様が仰った言葉が今も胸に残っています。
「あの子達、きっと幸せになりますわよね?」と。
勿論、私も頷きました。
「世間一般の幸せとは少し違うかもしれませんが
きっと大丈夫だと思いますよ。」と。
「そうね。それに二人とも、信じられないくらいの碁バカだから。
碁さえ打てれば、最後は何だって解決してしまうのよ…きっと!」
と、お顔に似合わないことを仰ってケラケラとお笑いになるのも
凄く可愛らしかったわ。
私もつられて笑いながら、でも、何故だか目頭が熱くなるような気がして…
ちょっと慌てちゃったわよ。
先の話だけど…うんと先だとは思うけど。
いつかあちらのご主人様とうちのお父さんと
四人でご一緒する機会があったら…と思いました。
でもやっぱり本当に先の先の話、ね…
あなた達が、あちら様と私が劇場でバッタリ出会う偶然を願っていたのか
或いは、まさか会うことはないだろうと踏んでいたのか―――
今となっては聞きませんけど。
ヒカル。
塔矢君。
母の日の贈り物、ありがとう。
このバッグ、ずっと大事に使わせて貰うわね。
そして―――モノではない、もっと大切な贈り物もありがとう…
今年の母の日は、私にとって一生忘れられない日になりました。
※※※※※
「君たちの未来」
「あ、塔矢のおばさん!どしたの〜?」
「あら、進藤君。お元気?おばさんはちょっと主人の代理でね。アキラさんとお約束?」
「うん、今待ち合わせしてるとこです。もうすぐ来ると思うよ。アイツもガンガン攻めてたからね〜、打つ約束がある日は俺らカタつけるの早えのっ!」
「まあっ、そんなに早く二人で打ちたいの?仲良しねぇ、ほほほ…。」
私が笑うと、目の前の少年も「いや、別にそんなんじゃ…。」と口ごもりながら照れ臭そうに笑う。
いつの間にか息子と親しくなったこの少年を、息子だけでなく主人までが注目していることを今ではよく知っている私だ。
「それにしても今日は暑いわねぇ…外ではお扇子が手放せなくて…。」
「わあ…キレイな柄だね!それ…トンボ?」
「そうよ、気持ちだけでも涼しげに…ってことかしらね?」
まさかこの少年が私が手にしている扇子に興味を持つとは思えなかったけれど、彼はじーっとそれを見てはへえ…と感心した顔で頷いていた。
「―――お扇子と言えば…進藤君もいつも持っているそうね。白いお扇子。」
「え?あ、あれ…どうして知ってるんですか?」
「アキラさんとそういう話になったことがあったの。お若いのに珍しいわ、座間先生みたいねぇって…ほほほ…。」
「あははは…そういう訳じゃないんだけど…あの…アイツ何か言ってました?―――俺の扇子のこと…。」
急に真面目な顔付きになったので、私は少しばかり驚いた。
この屈託のない少年も、矢張り真から碁打ちなんだと妙なことを思う…
「アキラさん?やっぱり、座間先生にあやかって…というのは否定したわね。暑がりだから必要なのでもないって言ったわよ…そして…。」
―――あの扇子はおそらく、進藤にとって大切なものの証しなんだと思います。
私の脳裏にそう言った時の息子の顔が浮かんだ。
真剣な目だった。でも、どこか優しさも滲ませた目だった。
アキラさんが友達のことを語るのに、あんな表情をするなんて初めて―――
それは。
息子がこの少年との交わりの中で、大人ばかりの世界では得られない何かを経験しているのだということを垣間見せてくれたような、母親としては嬉しい出来事でもあった。
「―――そして?ねえっ!そして塔矢は何て…言ったんですか?」
「あらぁ…ご免なさい。忘れちゃった!」
「えええ〜っ…お、おばさんったら…。」
「おほほほ…あら、本人が来たみたいよ?直接訊いてご覧になったら?」
「や、それは―――いいや。別に。」
そんなことちっとも気にしていないというポーズをとりながら、彼は少しだけ唇を尖らせて背後を振り返った。
そこには―――私の息子が輝いた顔で、私ではなく友達の方へと真っ直ぐに歩み寄って来る姿があった。
進藤さん…
さっきはね、私が伝えていいことなのかわからなかったの…決して意地悪じゃないのよ?
それにあなた達二人は、これから先もずっと一緒に歩いて行くんでしょうから、おいおい本人から気持ちを訊く機会もあるでしょう…
私はただ。
あなた達二人の未来を、楽しみに覗き見させていただきましょうね………
前サイトで、ボーイズラブのための百題というお題に挑戦していました。当時、半分以上は書いたかな?
その中の66と67、偶然でしたが続き番号でした。でも、書いた時期にはかなりズレがあると思います。
母の日に丁度いいだろうかと思い、再アップしてみました。楽しんでいただけたら幸いです(^^)
NOVEL