― 桜 ―
「優しい指先」(1)
公園のベンチで昼寝中のヒカルを見つけた。
桜舞い散る景色の中。だらしない手足、半開きの口元がみっともない。
アキラはふと思い付いて、ヒカルに忍び寄る……
「ぅあっ!あ、あ、びっくりした…塔矢?」
いきなり目を覚ましたヒカルに驚いて、アキラは飛び退った。
「お前、今、俺に触ったよな?絶対触っただろうっ!?」
「ち、違うよっ!君に触ったんじゃない。触るもんか。…これを取ったんだ。
君の頭にくっ付いてたから…全然似合わないよ…ほら…。」
アキラが指先に挟んでヒカルの前に突き出したのは―――桜の花びら…
可愛らしい形で、アキラの爪くらいの大きさだった。
「な〜んだ…そっか、花びらね。すっげ優しい手付きだなって思ったから…
そっかそっか…あれは…俺に向けられた指先じゃなかったのか…。」
心底がっかりしたという顔をして見せたヒカルに、アキラの胸は小さく痛む。
ヒカルから真剣な告白されてから数ヶ月―――ずっと答を保留している。
このままの状態が一番居心地いいような…都合いいような…
芽吹く春の盛りの中にありながら、踏み出せない自分をもどかしく思いつつ
花開く自分の気持ちを、根気強く待っていてくれるヒカルを
好ましいと思い始めているアキラだった―――
来年は、君に舞い降りた花びらではなく、その肌に触れられたら…
この指先に、君へのありったけの気持ちを込めて…
そこまで自分の何かが育てばいいなと願をかけるような想いで
アキラは指先にある桜の花びらを見詰め…
…ふっと、手放した。
「散りゆく花々」(15)
真夜中に千鳥が淵まで出掛けた。
とっくに盛りを過ぎて、知ってるヤツには会わないだろう。
午後十時までの期間限定のライトアップも終わり
俺たちは普通の街灯だけが照らす、控え目な照明で花見をした。
「かなり葉桜だな。でも見ごろを過ぎたって綺麗なものは綺麗だ。」
「ああ…こんな真夜中でもそこそこ人がいるし、やっぱ人気スポットだな。」
携帯を取り出してはみたけど…俺は一瞬考えてから、また仕舞った。
「撮らないのか。暗過ぎる?」
「うん…暗いのもそうだけど…今年は一番見たいヤツと一緒に見てるから
今更小さな画面の中に残さなくてもいいかなって、さ…。」
そこで俺たちは目と目を見交わし、微笑み合った。ちょい、照れクセェや…
二人の視線の間を、花びらが不規則な線を描いて舞い降りる。
…一歩。いや、半歩だけ。横にいる塔矢との間を詰めた。
指と指が触れる。
何度か触れたり離れたり、探るように躊躇うように繰り返してから…
やっと絡ませ合う。
俺は細く長く息を吐いた後で、正直に言った。
「ひゃあ…何でだろ…ドキドキすんな…外で手ぇ繋ぐって…。」
「へぇ…さっきまで僕に散々いたずらしてた手は、誰の手だろうな?」
塔矢が小さく笑った。その横顔も心なしか赤らんでいる。
―――ここに来る前、裸のお互いを、濃く、生々しく、感じ合ったばかりだ。
塔矢の歩調がゆっくりなのは多分…俺のせい。ご免。
なのにさ、外で手を繋ぐってだけで緊張するなんて、不思議でしょうがないよ。
「あのね、進藤…散ってゆく花を見ているのにそんなに惜しいと感じないのは
また来年も…いや、その先もずっと…
ここの桜を君と見られると信じているからかもしれないって…思った…。」
まるで、塔矢の言葉が起したみたいに一陣の風が吹き荒れ
今年の命を終えようと、たくさんの花びらが舞い散った…
心だけでなく体も含めて愛し合うようになった俺たちの
それが最初の花見だった――
タイトルの後ろの数字は、百題の番号です。
コンプリートしたら一覧表を作ろうかなぁ・・・
その前に、百題だけで部屋を独立させた方が読み易いでしょうかね(^^)
この二つは桜繋がりですが、同設定の二人としてもいいかもv
NOVEL